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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第34話 呪いの若さ

 たった数十秒で老婆へと変貌してしまったルヴィア・プリスティル。

 見た目が若々しい20代から80代ぐらいにまで変わっている。本来は40歳くらいだとしても異常な姿だ。


「ど、どうして……」


 本人も自分の体が変貌してしまった理由に心当たりがないのか手を見て体を震わせていた。皺だらけの手。数分前とは全く違う。


「プリスティルさま」


 後ろにいるゲイツが思わず近付こうとするのを手で止める。

 ルヴィアの身に起こった変化は終わった。ただし、事態はまだ終わっていない。

 急激な変貌に呆然としていた護衛も気付いたらしく、ルヴィアを守るため老婆の前に立つ。


 光の粒子が彼女たちの前に現れ、人の形になると転移で別の場所から移動してくる。


「お久しぶりですね」


 現れたのは見覚えのある男。倉庫で呪剣を渡すべく傭兵団と接触したパスリル・トレイマーズだ。

 彼が身に付けているネックレスから魔力の残滓が感じられる。魔法道具のネックレスが【転移】を可能としているらしく、近距離ではあるものの一瞬での移動を可能にしている。移動先に魔力の反応があるため戦闘には使い難い代物だが、同じ建物内であれば移動時間を短縮することができる。

 急な訪問者。護衛たちが警戒するのも無理はない。


「待て」


 体が老化してしまったルヴィアは冷静に状況を分析していた。

 現状でいきなり現れるなど怪しく、自分の変化と関りがあるに違いない。状況もそうだが、目の前に立つパスリルが小さく笑みを浮かべていることから、事情を聞かなければならない、と判断した。

 だが、老いた体に精神が追い付かない。頭では何を聞くべきなのか分かっていてもショックから声が掠れてしまっている。

 口を開いたり、閉じたりするのが限界で上手く喋ることができない。


「……どうして、お前がここに?」


 その姿を見て黙っていられなかったゲイツが口を開く。

 離れた場所から問いかける程度なら問題ない、とそのままにする。


「いや、実験が上手くいったかどうかの確認に来たんだ」

「実験?」

「そう。『呪いを反転させる』っていう実験」


 ルヴィアの身に起こったからして、誰かに呪いを掛けられたものだとばかり思っていた。しかし、実際のところは逆だったみたいだ。


「彼女が姿を見せなかった時期があったのを覚えているか?」

「ああ。4、5年ぐらい前かな……病気で伏せていたと聞いていた」

「ところが、実際のところは違ったんだ」

「や、やめろ……」


 先ほどはパスリルの話を聞きたそうにしていたルヴィアだったが、語られる言葉が知られたくない事実だったのか止めたく思う。

 しかし、護衛たちも異様な雰囲気に足が竦んで動くことができない。


「その頃になると彼女の美貌に翳りが見え始める」


 老い。

 目元がたるみ、肌から艶が失われた。皺の出始めた手を見る度に恐怖を覚えるようになってしまった。それまで自分の美貌を武器に商売をしてきた女性だったからこそ恐怖は強かった。


 その恐怖を克服する為に様々な手を講じた。

 美貌を保つ薬を飲み、化粧で誤魔化す。持てる財力を駆使して様々な方法を手にし、多くの者から情報を得た。しかし、相談した者の一人が匙を投げてしまった。若い頃の商売を優先した不摂生な生活の影響により食い止めるのにも限界がある。

 完全に克服することができなくなった彼女は禁忌に手を染めることになった。


 それが呪術。

 若い女性から生命力を吸い取ると共に若さを吸収する。

 呪術に手を染めたルヴィアは若さを取り戻すことに成功した。

 ただし、その代償に生命力を吸い尽くされた女性は、見るも無残な老婆の姿へと変わり果て、中には自ら死を選んでしまう者までいた。


「酷い人ですよね。自分の美貌を保つだけに何人もの女性を犠牲にしていたんです」


 老いが進むルヴィアの美貌を保つ為には、一人の女性を犠牲にするだけでは足りない。常に老い続けるため何人もの犠牲が必要だった。しかも、先ほどの見た目からして必要以上に若返っている。おそらく若返りを体験したことで、もっと若返りたいと願ってしまったのだろう。

 その結果、数十人もの少女が犠牲になることになった。


「どうして、それを……」


 知っているのか?

 ルヴィアにしてみれば呪術に関しては絶対に漏れてはいけない秘密だったため誰にも知られないよう事を進めていたはずだ。

 それが知られているとなれば、気にせずにはいられない。


 いったい、誰が情報を漏らしてしまったのか。


「呪術の為に奴隷を用いましたね」


 金目的に売られた奴隷であっても、犯罪奴隷であっても売られた後の事を気にしない奴隷商人は少なからずいる。

 そのため、いなくなっても問題のない人材だった。

 だが、人の行方が分からなくなれば気にする者はいる。


「間に信用のできる商人を挟んだみたいですね。おかげで売られた奴隷からプリスティル商会に辿り着くことはできませんでしたよ」

「だったら……」

「ですが、人が消えていることには変わりがない」


 何かが起こっている。

 パスリルにとっては、それだけで十分だった。


「ダメですよ。呪術をどのように扱うのかばかり気にして、呪術を提供してくれた相手を疑わないなんて」

「そんなはず、ない……! あの方が……」

「貴女は取引で詐欺紛いの方法だったとしても困らせる人間を増やすことでレジェンスに混乱を齎すことを約束した。そして、報酬の前借として呪術に関する知識を提供してもらった。そうですね」

「……っ!」


 パスリルの言葉は真実だったようで、ルヴィアが悔しそうに噛み締める。


「私も同じことをしてまでですよ」

「え……」

「依頼者の利益になるよう行動する代わりに、私と同じように取引を持ち掛けた相手の情報を求めた。すると、簡単に教えてくれましたよ」


 依頼者にとっては、ただの取引でしかない。

 求められたから報酬の代わりとして情報を与えた。たとえ情報が他の取引相手にとって不利になろうとも、依頼者には関係のない話だった。


「口止めをしなかったのは貴女の失態です。いえ、金で動かせるような方ではないですから口止めできなかったんですね」


 二人とも誰かから混乱を齎すよう依頼をされた。

 ルヴィアは報酬に釣られてしまったため手を貸さざるを得ない状況になった。


「パスリル。お前は何がしたいんだ?」


 友としてゲイツが尋ねる。

 今のところパスリルの目的が分からない。


「単純だ。私も取引相手として混乱を齎さないといけない」


 パスリルのネックレスが怪しく光る。

 呪いから身を防いでくれる魔法道具のはずだ。


「ここまでは、自分の欲望を満たす為に多くの女性の人生を弄んだ彼女に自分の罪を認めてもらう為。そしてここからは、私の取引を成立させる為に私が彼女を犠牲にする」


 強い光を放った直後……


「ぶっ!?」


 蹲るルヴィアの口から大量の血が吐き出され、肉が泡立つようにボコボコと膨張する。

 瞬く間に元の倍以上に膨れ上がり、広い商業ギルドの通路を埋め尽くそうとするほどの大きさになる。

 ルヴィアの護衛たちは何もできず離れ、俺たちも後ろへ下がる。


「何をした!?」


 力任せに下がらせられながらゲイツが叫ぶ。

 状況からしてパスリルが何かをしたのは明らかだった。


「ここまでは彼女が呪術で吸収した若さを返還しただけ。もっとも、今までに吸収した若さは一人の生命力だけで賄えるようなものではない。だから私の方で寿命が尽きるギリギリのところで止めておいた。そして、ここからは止めるのを一切止めたため留まるところを知らないようになる」


 膨張を続けた結果、肉塊としか呼べない姿になったルヴィア。

 護衛たちは護衛対象が変貌してしまったことでどうすればいいのか分からず呆然としている。それでも身を守る程度の警戒はしている。


「え……」


 だが、肉塊から触手が伸びてくるのは予想できず、護衛の一人が胸を貫かれる。


「がぁ……!」


 叫び声を挙げる護衛。

 次第に老いていき、生命力を肉塊に吸い尽くされてしまう。


「不足している生命力を求めて暴走を開始します。もう彼女は見境なく目につく人間から生命力を奪うだけの存在へと成り果てる」


 手始めに最も近くにいた護衛が犠牲となった。

 さらに他の護衛も獲物として狙われることになる。


「これが私の計画の第2段階です」


 より多くの生命力を求めて膨張を開始する。

 すぐに建物の中には収まり切らない大きさとなり、壁や天井を破壊するようになる。


 そんな光景を見ながら俺は口を開く。


「――よし、逃げるか」

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― 新着の感想 ―
[良い点] にーげるんだよーー!! [一言] まあ護衛依頼ですしね。ぶっちゃけどうなろうと関係ないですし、今章の問題って全部とばっちりですし。いまのところ
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