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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第27話 二重の受諾依頼

 翌日。

 アイラと共に冒険者ギルドを訪れると慌しい空気を感じ取った。


「何かあったのかな?」


 気になったアイラが護衛を放置して冒険者のいる方へと向かおうとすう。


「おい」

「大丈夫でしょ。護衛なんて名目上やっているだけなんだから」


 止めようとしたが、結局話を聞きに行ってしまった。

 だが、実際に慌しい理由が必要なのは事実。どこへ行っても溶け込むことができるアイラなら原因くらい簡単に突き止めてくれるだろう。

 護衛にしても俺を傷付けられる人物の方が稀だ。それに昨日の倉庫での戦闘が冒険者たちにも伝わっているのか、どこか恐れた様子も見受けられる。安易に襲撃されることはない。


「さて――」


 冒険者ギルドに併設された酒場にあるテーブルの一つを貸し切って座ると、腕を組んで目を閉じる。

 ヒソヒソ、と周囲で囁かれているのが耳に届く。

 苛立たしくはあるものの目立つ必要があるため放置することにする。


「なあ、アンタ……」


 やがて一人の男が話し掛けてくる。

 だが、手を掲げて男に静止を促す。


「すまない。相手が来たようだ」

「おう……」


 話し掛けてきた冒険者はレジェンスでそれなりの名の知れた者だったのだろう。まさか自分が断られるとは思ってもいなかった様子だ。

 だが、こちらにも冒険者ギルドを訪れた目的がある。


 そちらを優先させると、ギルドの入り口がある方へ顔を向ける。

 荒くれ者が多い冒険者ギルドには似つかわしいスーツを着た男性が入って来るのが見えた。

 商人だと思われる男。冒険者ギルドへ依頼を出す為、商人が訪れることもあるがそういった雑事は下っ端の従業員が行う。

 今、入ってきた男は一目で幹部クラスだと分かる高いスーツを着ている。


 商人がこちらへ近付いてくると、俺を遠巻きに見ていた冒険者たちも自然と道を開けるように退ける。


「アンタは……」

「申し訳ない。彼に用事があったのかもしれないが、緊急の要件であるため私を優先させてほしい」

「いえ、大丈夫です」


 商人を知っている冒険者は素直に引き下がる。

 おそらく、それほど時間が経っていないにもかかわらず当たりを引き当てられたのだろう。


「はじめまして。私、ラドルシア商会の使いです。話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「こんな場所でいいのでしょうか?」

「はい。ここだから都合がいいのです」


 座るよう促すと目の前の椅子に座る。


「俺、あの人のあんな態度初めて見たぞ」

「変な事言うなよ。聞こえたらどうするんだ」

「あ、わりぃ。けど、あまりに珍しくて」


 ラドルシア商会の使いには聞こえていなかったが、小声で話していても男たちの言葉は俺の耳には届いていた。

 高ランクの冒険者を相手にすることもあるラドルシア商会の交渉役。ただ、その交渉も冒険者を下に厚顔不遜を露わにしたような態度で、自分たちの商会へ呼びつけて自分から足を運ぶようなことは決してない。

 今回のように冒険者ギルドを自分から訪れ、丁寧な態度でいるのが信じられないらしい。


「で、どんな用事でしょうか?」


 腕を組みながら尋ねる。

 彼の評価とは逆に俺は厚顔不遜な態度で対応していた。


「……」


 商人の顔が引き攣る。

 彼にとって冒険者を相手に下手に出るだけでも機嫌を悪くする事実だった。しかし、自分よりも影響力のある人物だと飲み込む。そこまではよかったが、それを他の冒険者に見られることも不愉快だった。

 思わず不機嫌なことが表情に出てしまうぐらいだ。慮ってあげる必要はないが、早々に話を終わらせてあげよう。


「何か依頼ですか?」

「ゲイツ・ギブソンの3倍の金額を出します。なので、こちらの依頼を引き受けていただきたいと思います」


 予想通りの依頼内容に俺も表情に出してしまいそうになる。

 それを堪えると、予め決めていた言葉を口にする。


「では、金貨100万枚が用意されている、ということですね」

「……は?」


 提示された金額が予想外だったのか口を開けて呆けている。

 周囲も多すぎる報酬にざわついている。


「数日の間だけですが、俺たちは金貨30万枚で雇われています。他にも宿泊代などの経費を負担してもらっているので、3倍の金額を出すとなるとそれぐらいの金額になりますよ」

「それは……」


 ラドルシア商会なら金貨100万枚程度は保有している。

 ただし、それを数日の間だけ雇う冒険者に払うとなると問題になる。


「どうやら俺たちを雇う、という意味を理解していなかったようですね」


 相場よりも多少高い、程度の認識でしかなかった。

 ゲイツがどの程度の覚悟で自身の身を守ろうとしていたのか理解していない。


「ただ、そちらにも高額な報酬を覚悟するほどの事情があるのでしょう」

「ええ」

「内容を聞いて納得できるようでしたら、一緒に引き受けることも可能です」


 ギルドを介した通常依頼なら簡単な依頼を除けば同時に引き受けるのは禁止されている。後から受けた依頼に取り掛かっていたせいで、先に受けていた依頼を疎かにされては冒険者ギルドが困るからだ。

 ただし、特定の個人からの指名依頼は、どのように依頼を受けようとも冒険者の自由となっている。だからこそ成功報酬を自由に設定することができる。もっとも失敗した時のこともあるので慎重にもならなければならない。


「ゲイツ・ギブソンの近くにいる貴方たちなら知っているはずです。今、何が起きているかを」

「ええ、何が起きているのかは知っています」

「我々にとっても今回の一件は全く知らなかったことなのです」


 やはり情報が漏洩されていた。

 だが、予想とは違ってラドルシア商会が主導したものではなかった。

 接触してきた相手から情報を引き出そうと思ったが、引き出せる情報に限るがあるらしい。


「それで?」

「ゲイツ・ギブソンに我々は無実だと伝えていただきたいのです。そして、今回の一件には関わらないでいただきたい」


 当初の予定では魔石の保管場所に関して有利な情報を流すよう依頼したかった。だが、そこまでの報酬は出せないため妥協点として俺たちが率先して関わらないよう依頼した。

 昨日、倉庫での戦闘に関わったばかり。事情を知らない者が見ればゲイツに依頼されて協力したように見える。

 同じように協力されれば、自分たちが見つけるよりも早く保管場所を探し当てられてしまう可能性がある。

 ラドルシア商会にとって、自分たちの知らない保管場所を誰よりも早く見つけるのは絶対条件だった。


「俺たちが依頼されているのは『ゲイツ・ギブソンの護衛』です。他に何かを頼むなら報酬が必要になります」


 そう言うと商人が金貨の入った袋を10個収納リングから出現させてテーブルの上に置く。

 それぞれの袋には100枚が入っている。


「すぐに渡せる金貨です。捜索を頼まれても協力しないでください」

「いいでしょう。高い報酬を積まれれば断るわけにはいきません」


 報酬を渡すと商人が立ち去る。

 金貨1000枚程度なら最初から覚悟をしていた出費だった。そこから交渉をして減額するつもりだったのかもしれないが、姿勢を崩さない俺を見て難しそうだと判断し、最低限の条件を取り付けると諦めて帰って行った。

 周囲には報酬の金貨を見て目を輝かせている冒険者たちがいる。サッと道具箱(アイテムボックス)に収納するとメリッサに念話を送る。


『聞いていたな』

『はい。向こうが事情を知らなかったのは事実でしょう』


 そして予想以上に早く接近してきた。

 冒険者ギルドのように人の多い場所で待っていればラドルシア商会の方から接触してくる可能性が高いと踏んでいた。これでも有名であるため人目につけば、今どこにいるのか情報は伝わる。それに人目のある場所なら俺が力に任せた行動に出ることもない、と考えていたに違いない。


『昨日、派手に暴れた私たちの関与を排除したいだろうとは思っていました。証拠を揉み消す前に動かれては困りますからね』

『さて、行きますか』


 乗りかかった船なのに問題を中途半端に放置するつもりはない。


『ゲイツから依頼を受けるぞ。最低報酬額は金貨1000枚だ』

『随分と酷いことを考えますね』

『俺はちゃんと伝えたぞ』


 ――高い報酬を積まれれば断るわけにはいきません。


 交渉役の商人は、その言葉を聞いて1000枚もの金貨を受け取ったのだから自分に協力するだろうと解釈した。

 だが別の見方をすれば、より多くの報酬が積まれれば商人の依頼は断る、という風に解釈することもできる。

 ゲイツに高額な報酬を出させる理由ができた。


『最初から頼まれれば引き受けるつもりだった癖に……』

『他の借金は残っているんだ。手に入れられるところがあれば毟り取った方がいいだろ』


 大金を所持し、トラブルを抱えた商人など鴨でしかない。


「ただいま!」


 その時、アイラが情報を持ち帰ってきた。

 交渉時には全く役に立たなかったアイラだったが、貴重な情報を持ち帰ってきてくれた。

5月4日(火)スタート!

『異世界コレクター~収納魔法で異世界を収集する~』コミカライズ!

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― 新着の感想 ―
[一言] こういうことが起こらないように冒険者ギルドがあるので良い子のみんなはちゃんと冒険者ギルドを通そうね! の見本ですね……悪い顔してそうだけど主人公なんですよその人
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