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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第22話 鮮血の倉庫 ⑨

 倉庫の最奥。

 殺風景な場所に似合わない豪華な椅子が置かれており、一人の老婆が腰掛けていた。


「こんな所まで来るなんて年寄りを労わるつもりはないのかい」

「俺もか弱い老婆なら労わるつもりはあるさ」

「へぇ」


 ミスティの正確な年齢は分からない。しかし、肌に刻まれた皺と老化によって白くなってしまった髪から70歳は確実に超えていると想像できる。


「でもな……子供を食い物にするような奴を敬うつもりはない」


 女性陣が気にしていたことから確認することにする。

 魔物の目を通して視ていた光景は、全員が共有することができる。倉庫へ戻ったルーランはミスティの事を本当の親のように信頼しているように見えた。しかし、服を掴まれている老婆の目は孫を可愛がるのとは正反対だった。

 ルーランは信頼のせいでミスティの内心に気付くことができないでいた。


「最初に確かめる事がそれかい?」


 口元に指を当てて考え事をするミスティ。


「そうだね。あの子は、アタシの魔法と相性のいい魔法道具が使える。だから、いい拾い物をしたとは思っていたよ」

「拾い物……あの子は、物なんかじゃないぞ」

「アタシにとっては物と変わらないさ。なんせ親を失った悲しみで、アタシの言うことには従順なんだからね」


 やっぱりルーランの親は死んでいたか。


「それも、親を殺したアタシに従っているんだから愚かとしか言えないよ」

「ちょっと待て」


 聞き逃せない言葉を聞いてしまった。


「うん? そこまでは知らなかったのかい」


 てっきり適性のある子供を拾い、暗殺者として育て上げたのだとばかり考えていた。


「あの頃のメンフィス王国は本当に混乱していたからね。そんな国を狙う連中はたくさんいるんだよ」


 国そのものは混乱していたために静観していた。

 ただし、混乱する国から逃げ出す人々は自分の身を守ることすらできない無力な人たちで格好の獲物だった。

 まるで盗賊のような仕事だったが、それが傭兵に与えられた仕事だった。


 そして、ルーランの親も無力な人々だった。


「両親はどこで手に入れたのか知らないけど、ハイドローブを使って子供だけは隠し通そうとしたみたいだね。けど、目の前で親が殺される光景を見て気絶してしまったのさ」


 その際、親が殺された記憶だけではなく、親に関する記憶まで全て失うこととなってしまった。

 そんな状態を理解したミスティはハイドローブを回収すると、あたかも自分たちが持っていた物を分け与えたように教えて、暗殺者に育て上げることにした。


「随分と簡単に教えてくれるんだな」

「これぐらいの情報なら教えてもかまわないさ。それに、教えた方がアンタも本気になれるだろ」


 ミスティが親の代わりをしていたというのなら本気になるのは忍びなかった。

 しかし、ミスティの気持ちが聞けて躊躇する理由がなくなった。


「どうやらアタシたちもここまでみたいだ」


 倉庫のあちこちでは戦闘音が響いている。

 傭兵として戦い続けてきたミスティには戦力差が手に取るように分かっていた。どう頑張ったところで覆せる戦力差ではない。

 噂程度の情報なら彼女たちも集めていただろう。しかし、実際に目にしたことで危機感を抱いていた。


「だけど、元々が戦場にしか生きる場所を見出せない奴らの集まりだよ。なら、最期くらい盛大にやりたいじゃないかい」


 危機感は抱いていた。ただし、悲壮感は全く抱いていなかった。

 圧倒的な戦力差を前にしても戦う気でいる。


「その考えはいいけどな。あんな小さい子を巻き込むなよ」

「あの子が自分から望んだことだよ」


 ルーランは自分の意思でミスティと共に戦うことを望んだ。

 ただその考えは、それしか選択肢がなかっただけの話だ。親のように思っている相手が困っているなら助けたい。


「やっぱり気に入らないな」


 純粋な思いは『気に入らない』だった。

 彼女たちの選択を全力で否定させてもらう。


「そうかい」


 神剣を振る。

 ただし、ミスティがいる正面ではなく左側へ振る。

 すると、毒が塗られたナイフが地面に転がる。


「おや、今ので倒せたらよかったんだけどね」


 ミスティが姿を現す。

 正面にある椅子からではなく、誰もいなかったはずの左側から。


「幻影か」

「そのとおりだよ」


 事前にミスティについては調べている。

 傭兵団では証拠のもみ消しなどの後始末を担当しており、【幻影魔法】を得意としている。

 ミスティの相手を俺が担当することにしたのも、4人の中で幻影に対して最も耐性を持っていたからだ。ノエルなら感知できたかもしれないが、彼女にはルーランの相手を任せる必要があった。

 それに傭兵団内の力関係を鑑みるとミスティが最も厄介だ。


「リーダーはデュオってことになっているけど、実質的なリーダーはあんただ」


 言葉遣いは悪くてもヴォルクが力に任せて自分の意見を貫くようなことはしていなかった。

 デュオにもミスティを気遣った様子があった。


「そうだね。最初はアタシが始めた傭兵団だからね」

「そうじゃないだろ」

「ああ。あいつらには『恐怖』っていう幻を植え付けてあるからね」


 傭兵団を運用するにあたってミスティは仲間を恐怖で縛ることにした。しかし、自意識まで完全に縛って言うことを聞くだけの存在にしたくはなかった。それではミスティが苦労することになる。

 だから自らの方針には逆らえないようにした。


「結局は今も戦っているのはあんたの趣味じゃないか」

「……そうとも言えるね」


 会話をしながら意識を集中させる。

 先ほどは椅子に座った姿に騙されてしまったが、途中から現れたミスティこそ本物だ。


「ううん、どうやら騙せそうにないね。普通はここで疑心暗鬼になってもおかしくないんだけどね」


 現れたミスティも本物なのか。

 攻撃はされたが、何かしらの方法で幻影のいる場所から攻撃しただけではないのか。


「甘く見るなよ。こっちはそれなりの修羅場を潜ってきているんだ。幻を見破る練習だってしているさ」


 迷宮にも幻を生み出して惑わす魔物がいる。さらに、そんな魔物は幻影に対して耐性を持っているのがデフォルトだ。意識してスキルを借りなければ騙されそうになるが、意識していれば騙されることはない。


「なるほど。どうやら騙すのは難しそうだ」


 ミスティが騙すのを諦める。

 だが、戦闘まで諦めたつもりはなかった。


「制限があるから本当は使いたくなかったんだけどね」


 ミスティが【幻影魔法】を使用する。

 ただし、俺の意識に干渉する魔法ではなく、自身へ別の姿を投影していた。


「知っているかい。【幻影魔法】は術者のイメージが強く反映される。より精度の高いイメージから作られた幻影なら、よりリアルな姿になる」


 ドラゴンを知らない魔物がドラゴンの幻影を生み出してもリアルさに欠ける。

 本物に近いドラゴンの幻影を生み出す為には、ドラゴンの姿だけでなく強さや威圧感を知っていなければならない。

 だからこそ幻影には限界があり、本物には及ばない。


「アタシには得意な魔法以外にも、特別なスキルがあってね」


 声を発していたのは老婆ではなくなっていた。

 見た目は20代後半ぐらいの美女。銀色の長い髪に、艶のある肌が彼女の蠱惑的にしていた。

 誰もが振り向くような美女が立っていた。


「誰だ?」

「失礼な奴だね、ミスティだよ」


 ただし、若い頃の姿だ。


「そんな若い頃の姿を重ねたところでどうなる?」


 所詮は若い頃の姿になっただけ。見た目が変わっただけで肉体まで変わったわけではない。


「そう思うかい?」


 ミスティの両手に短剣が現れ、姿が消える。


「……!!」


 咄嗟に剣を掲げると短剣の攻撃を防御することに成功する。


「おや。随分と勘がいいね」


 明らかに老婆の動きではない。


「肉体まで若返らせる幻影だって!?」

「そうだよ。これがアタシのスキル【現夢】だよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ふん! 所詮は見た目だけ!! いくら姿を変えてもその加齢臭だけは変わらな……あれ、なんかナイフが飛んできt
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