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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第14話 鮮血の倉庫 ①

「おやおや……そのように疑われてしまうとは心外ですね」

「ですから、あなたたちに街中での危険な魔法道具の使用の嫌疑がかかっているのです。大人しく捜査に協力を願います」

「そう言われましても……身に覚えがないのでは、危機感を抱いてもおかしくないではないですか」

「そこは嫌疑を晴らす為と思っていただければ……」

「ここには小さな子供もいます。あまり、貴方たちのような大人を招き入れたくないのですが……」


 シルクハットの男デュオが倉庫の入り口で武装した兵士たちと話をしていた。

 兵士は商業ギルドが雇っている正規兵で、傭兵……それも紅鮮血(クリムゾンブラッド)のような危険な人物を相手にするのなら武装をしているのは当たり前だ。


 入り口から見える位置にルーランがいる。どこか怯えた様子の少女がいて、それを理由に踏み込むのを断っているのなら、強制するのも気まずい。なにより決定的な証拠は、まだ見つかっていない。

 倉庫には頑丈で巨大な箱がいくつも並べられていた。

 隠れられる場所ならいくつもあるのに兵士から見える位置にいるのは、ルーランの存在を理由にしているからだ。


「困りましたね」


 本当に困っていた。

 少し前からトレイマーズ商会の汚れ仕事を請け負っていた。そのため倉庫内には使用どころか所持すらも問題視される代物を預かっていた。預かっていただけであるため大きな罪に問われることはないが、面倒なことになるのは目に見えていた。


 --それにしても妙ですね。


 デュオは危険な代物の位置を正確に把握していた。

 しかし、兵士たちの視線は全く違う場所へ向けられていた。デュオの記憶が確かなら何もないはずの場所だ。


 本当に?

 そんな疑問が頭を過る。


「……だれ?」


 兵士たちが視線を向けている場所に向かってルーランが尋ねる。

 次の瞬間、隠れていられないと判断して倉庫の中にある巨大な箱の一角が斬り裂かれる。


 やられた! とデュオが思った時には遅かった。

 そこには、ハイドローブを纏った兵士が剣を手にして立っており、何も保管されていないはずの箱から出てくるところだった。


 姿が見えたのは一瞬。証拠を確保していることを味方に知らせるため、姿を現していた間だけ。魔法道具と剣をローブの内側に隠せば誰かがいるようには見えなくなる。

 商業ギルドなら貴重な魔法道具であっても、ハイドローブを所持していてもおかしくない。ただし、その特性から所有者を選び、世間の評価もあって表立って使うような真似はしない。

 普段から同じ魔法道具を使用しているルーランは、なんとなく気配を掴むことができたためギリギリで反応することができた。


「詳しく解析したわけではありませんが、昨日商業ギルド前で使われた魔法道具と同じ物だと判断することができます」


 回収したつもりのないデュオは焦った。

 最初から倉庫内の捜査を行うつもりなどない。紅鮮血(クリムゾンブラッド)を捕らえるのが目的で、捜査は捕らえる為の口実作りでしかない。

 ただし、兵士たちの様子から芝居をしていたわけではないことが分かった。


「なるほど。これは彼らの仕業ですか」


 内密に仕込むことができる者など限られている。

 さらに人除けの魔法道具となれば該当者は限定される。


「退いてな」


 証拠となる魔法道具を手にしていた兵士の近くにいたルーランに対して、退くように兵士が言う。

 ルーランが戦っている姿を見ていない者にしてみれば守るべき対象にしか見えていなかった。いや、ノエルとの戦闘で怯えてしまっているせいで、さらに強く見えてしまっていた。


 これから倉庫で何が起こるのか兵士には簡単に想像がついた。

 そんな場所にいるべきではない。


「――もういいだろ」


 倉庫の奥から響く声。

 同時に飛び掛かるようにして伸びた刃が兵士の腕を斬り裂く。


「……っ!?」

「あ……外した? 普段は助けられている魔法道具が敵になると、ここまで面倒なことになるんだな」


 ローブが斬り裂かれたせいで景色に歪みが生じるようになる。


「ハッ、そんな物捨ててしまった方がいいぜ。全然、隠れられていねぇよ!」


 それは、ローブの内側にいる兵士にも理解でき、見えてしまうことを覚悟して剣を振り回す。

 しかし、斬られた方向に向かって剣を振っても、自分を斬った相手を斬ることはできない。


「どこへ……?」

「ここ」


 正面から少女と思しきが声が聞こえる。

 その声が聞こえた時には、手から水晶型の魔法道具が離れており、自分の胸がズタズタに斬り裂かれていた。


「グラッツ!!」


 証拠を持って戻って来るのを入り口で待っていた兵士が名前を叫ぶ。


 兵士--グラッツには何も見えなかった。

 だが、すぐに自分の状態を思い出し、見えなかった理由を思いつく。


「ハイドローブ……」

「ちょっと違うけどね」


 いつまでも証拠である水晶は空中に浮いたままだ。もし、ハイドローブを纏っているのなら隠す為にも内側にしまってしまうべきだ。

 だが、ルーランはいつまで経っても隠さなかった。


「よう。調子はいいみたいだな」

「絶好調」

「チッ、オレにも見えないのは変わらず難点だな」


 倉庫の奥からヴォルクが姿を現す。

 薄れゆく意識の中、グラッツはヴォルクの左手に魔剣があるのを見た。あの魔剣が最初に背中からグラッツを斬った剣。


「残念だったな。ルーランには隠れても位置がバレるんだ。ま、こいつも見えているわけじゃないけど、大まかな位置を知るには十分なんだよ」


 魔剣を振り下ろすと鮮血が舞う。


「仕方ありませんね」


 デュオが呟く。彼としては穏便に済ませるつもりだった。

 兵士との衝突は、危険だと判断したからだった。


「穿て」


 しかし、状況次第では最初から兵士を始末するつもりでいたデュオの一言によって魔法が発動し、鋭い槍へと形状を変えた地面が襲い掛かる。

 殺すつもりで突き出された槍。ただし、兵士たちも本気で武装をしており、きちんとした訓練を積んでいる。突然の攻撃にも対応して後ろへと跳ぶ。


「無事か!?」

「二人やられました」

「……帰ったら鍛え直してやる」

「それは無理みたいです」


 負傷した二人は致命傷を負っていた。

 すぐに治療すれば助かるかもしれないが、目の前にいる傭兵たちが見過ごすとは思えなかった。


「依頼人からは『ほどほどに騒ぎを起こせ』と言われているんですよ」

「あ? これで『ほどほど』だろ」

「仕方ない人ですね」


 デュオがステッキを振れば空に氷の礫が何十個と生まれる。

 礫と言っても、一つ一つが拳ぐらいの大きさがある。そんな物が空から落ちてきて当たれば無事では済まない。


「……降参だ」

「それを認めるわけにはいきません。これから騒ぎを起こすよう言われていますので」

「どうやら傭兵だと過小評価していたようだ」


 だから、自分たちで捕まえるのを諦める。


「……!?」


 兵士が何を言っているのか気付いたデュオが慌てて氷の礫を落とす。

 だが、落下が始まる前に全ての氷の全てが遠距離から放たれた光によって灼かれて消滅する。


 すぐに魔力を全身に巡らせて防御する。


「……っ!!!」


 肉体強化が間に合ったおかげで顔面を襲う拳に耐えることができた。

 ただし、衝撃にまで耐えることができず、倉庫の奥へと吹き飛ばされてしまう。


「無事ですね」

「ああ」


 兵士たちを守るように立ったマルスが確認する。

 冒険者だとどこか侮っていたところがあったが、兵士たちにはマルスの動きが速すぎて殴る瞬間を見ることができなかった。


「彼も生きていますよ」


 ヴォルクと姿の見えないルーランによって斬られたグラッツも瀕死ではあったものの生きていた。


「これを飲ませるといいですよ」


 収納リングから出した回復薬(ポーション)を渡す。


「いいのか?」


 受け取った兵士は一目で強い効果のある貴重な物だと見抜いた。


「ええ、死なれるよりはマシですから。それに料金は商業ギルドに請求します」

「……助かる」


 背に腹は代えられない。料金は気にせず使用することにすると致命傷を負った仲間を癒すことにする。


「メリッサは今の魔法使いを倒せ、ノエルとアイラは他の連中だ」

「はい」

「りょうかい!」


 指示が出されると仲間の女性が倉庫内へ向かって行く。


 そして、マルスも倉庫の奥へ駆ける。


「よう、婆さん。この中で最も厄介なあんたは俺が相手してやるよ」

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