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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第13話 戦闘の証拠

「随分と殺気立っているな」


 当然と言えば当然の話だった。

 商業ギルドの建物の前で戦闘があったのは形跡を見れば明らかだ。鋭い武器で抉られた地面や欠けた建物。


 そんな状況になっていれば誰かが気付いてもおかしくない。

 だが、気付いた時にはそんな状態になっていた。

 彼らが気付いたのは人除けの魔法道具が魔力切れで効果を失った後。人の出入りが普通に行われるようになり、欠けた地面に躓いたのがきっかけとなった。


 早急に調査が行われた。

 しかし、判明したのは魔法道具によって人払いが行われ、戦闘が行われたことだけだった。

 商業ギルドには警備の為の冒険者も雇われている。だが、魔法道具の力を跳ね除けられるほどの力は有していなかった。


 ただ、それは仕方ないと言えた。

 商業ギルドはレジェンスの中心にあり、こんな人の多い場所で戦闘を行う真似をする者はいない。

 そのため基本的に最前線での危険な冒険を、怪我や老化によって諦めた冒険者が小遣い稼ぎに雇われていた。

 現役とは言えない者たちでは力不足だった。

 もっとも、現役であった頃でもどれだけの者が気付くことができたか。


 それだけ魔法道具は強力だった。

 そして、利用者の多くが非力な商人であるため気付くことができなかった。

 しかし、商人たちには『財力』という力がある。さらに『人脈』を活かすことで有名な研究者に調査させた。


 基本的に商業ギルド前での戦闘は禁止だ。

 そんな場所での戦闘が魔法道具を使用してまで行われた。

 商業ギルドの沽券に掛けて調査が行われたが、『魔法道具が使用された痕跡』を見つけることはできても、魔法道具そのものを見つけることはできなかった。

 おそらく回収されたのだろう。

 そう、考えるのが自然だった。


「とにかく今回の件をどうにかしたいんだろう」


 戦闘があった場所に残された魔力から、戦闘を行った者の片方が俺たちだということが判明した。

 ただし、問題行為をしたからと言って敵対したいとは思わなかった。

 冒険者の中でも最も有名と言っていい冒険者。

 商人にとって敵対して利益になるようなことは何もない。


「事情を説明してもらおうか」


 そこで、白羽の矢が立ったのがゲイツだった。

 俺たちとの間に繋がりがあり、パーティメンバーを護衛に派遣してくれるほどの仲なら敵対することなく事情を聞くことができる。

 そんな指示を受けたのが今朝早くの事。


「彼女に聞いても何も教えてくれない」


 今はゲイツの護衛中。ただし、内心では俺に尽くしてくれているため中間に立つシルビアを睨み付けるものの微笑んだまま立っている。


 ゲイツの後ろには執事服を着た初老の男性がいる。先代の頃から仕えてくれた人で、彼にとっては親にも等しい人物だと紹介された。

 そんな人なら口は堅く、裏切ることもないだろう。


「それはそうです。彼女の仕事は、あなたの護衛だ」


 護衛以外の事をするつもりはない。

 俺からの指示でもない限り、情報を漏らすような真似はしない。


「戦闘があったのは間違いないんですね」

「ええ。建物を出たところで待ち伏せされていました」


 何があったのかを正直に話す。

 もう準備は整っているし、利用できる状況にはなっている。


「そうですか」


 悩むゲイツを放置して、テーブルの上に【光魔法】で作ったレジェンスの街の地図を投影する。


「これは……」

「随分と精密ですね」


 二人とも驚いている。

 建物の細部まで再現することはできなかったが、凡その部分は再現することができている。

 ただし、俺にとって重要なのはある部分だけだ。

 より正確に分かるよう精密にデータを取っただけだ。


「逃げた敵は見つけました。ここへ逃げたみたいです」


 レジェンスの南東にある倉庫街。その倉庫街だけは他よりも精密に幻影を作ってある。

 どの倉庫なのかまで正確に分かる。


「この倉庫を借りている人物が分かりますか?」

「この倉庫街は個人向けに貸し出されている場所のはずです」


 ゲイツが指示を出さなくても、執事が部屋を出て資料を手に戻って来る。


「たしかに、その倉庫は個人に貸し出されています。傭兵団『紅鮮血(クリムゾンブラッド)』の名前で借りられています」

「なんですか、それ……」

「うわ、痛々しい名前」


 名前を聞いたメリッサが言葉を失くし、アイラが呆れていた。


「なんでも団員の大半が血を好む派手な戦い方を好んでいる事から、周囲が勝手にそのような名前で呼ぶようになり、自分たちでも名乗るようになったようです」


 冒険者の異名も、有名でない者が派手な活躍することで名前を知らない者が特徴から名前をつけて呼ぶようになる。

 紅鮮血(クリムゾンブラッド)も戦場を赤く染め上げる光景から、そのような名前がつけられ、本人たちの気質もあって定着してしまった。


「個人で借りるには随分と大きい倉庫ですね」

「商人にも色々とあるんです」


 詳細を濁すゲイツ。

 おそらく詳しく聞かない方がいい理由があるのだろう。


「ただし、紅鮮血(クリムゾンブラッド)は戦闘訓練が仲間内でできる広い場所を求めており、周囲に被害も及ばない頑丈な場所を求めていました」


 そこで倉庫が貸し出されることとなった。

 色々と問題の多い気質を持つ者ばかりが集まっているが、レジェンスでは問題行動をまだ起こしたわけではないため借りるのを拒否することはできなかった。

 これが市街地に近い場所だったのなら拒否することもできたのだが、立地的に不便なことから余っていた倉庫だ。所有者であった商業ギルドとしては誰かに借りられて利益を生み出してくれた方がいい。


「じゃあ、こいつは知っていますか?」

「彼は……」


 次に倉庫を出入りしていた青年を投影する。

 パスリル、と傭兵団のメンバーから呼ばれていた青年だ。


「トレイマーズ商会の次期会長です」


 パスリルに関してはゲイツの方が詳しかった。

 商業ギルドへも商会主であるトリトンに代わって通い、同年代であることから個人的にも付き合いがあり、親しくさせてもらっていた。

 同時に哀れにも思っていた。若くして父親に才能を認められて商会主の地位を譲ってもらったゲイツと違い、パスリルは父親が商会主の地位に固執しているせいで父親の言うことに従わざるを得ない状況にあった。

 ゲイツの予想でしかないが、パスリルが率先して動けばトレイマーズ商会は今の窮地をも脱することができる。


 そこで、俺はトレイマーズ商会に恨まれていることを知った。


「別に商会を狙ったわけでもないのに恨まれても困りますよ」

「それはそうです。理性のある人なら八つ当たりだと理解します。ですが、あの老害はそのように考えないのです」


 襲われた理由にも納得できた。

 だからと言って手心を加えるつもりはない。逆恨みして先に攻撃を仕掛けてきたのは向こうだ。


「そろそろ行動を起こすことにしましょうか」

「倉庫に襲撃を仕掛けるつもりですか?」

「それは止めた方がいいでしょう」


 レジェンスでは戦闘行動が禁止されている。

 倉庫内の様子を見る限り、穏便に済ませられる可能性はない。


「治安部隊がいるはずです。彼らに動いてもらうことにしましょう」

「だが、証拠がなければ個人の借りている倉庫に踏み込むことはできません」


 勝手を認めてしまえば、治安維持部隊の力が強くなりすぎてしまう。


「大丈夫です、証拠なら用意してあります」


 当初はメリッサが検査することで、人払いの魔法道具が使用された魔力を解析するつもりでいた。

 しかし、優秀な研究者たちは解析までは終えている。

 あとは手掛かりさえ示してあげれば動くことができる。


「向こうは、魔法道具が俺たちに押収されたと思っているんでしょうけど、倉庫内にこっそりと隠してあります」


 強い効果を求めて魔力を強めすぎた。

 魔力の残滓は半日程度なら余裕で持つ……研究者たちはそのように考えていた。


「まだギリギリ時間内なはずです。今すぐ、情報のタレコミがあったことにして動くことにしましょう」

凶器を捨てたと思ったら、血痕とかの痕跡が残った状態のまま手元にあるせいで犯人された……まあ、犯人である事は間違いないんですけどね。


僅かな手がかり犯人を見つける――そんな面倒なことはしません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 証拠がなければ作れば良い。 つまり犯人が落としていった証拠の凶器を返しに行ってあげたと。 善良な一般市民?として拾得物を持ち主に届けてあげるのは当然のことですもんねwww 某名探偵の孫もよ…
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