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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第5話 商業ギルドの借金-後-

 ゲイツ・ギブソンにとって最大の武器。

 それは、マルスとの繋がりだった。大国であるグレンヴァルガ帝国の大貴族までもが取り入ろうとする冒険者。少し前に開かれたパーティーで娘と皇太子が仲良くしていた情報も流れている。

 伝手があるだけで武器になっていた。


 そして、俺とゲイツを繋いでいる最大のものは『借金』だ。その借金がなくなると伝手がなくなってしまう。

 金の切れ目が縁の切れ目。

 なんていう風に言うつもりはないが、明確な繋がりが断たれてしまうことには間違いない。


「貴方たちも自分が監視されていた理由は分かっていますね」

「まあ、な」


 影響力の強すぎる冒険者。

 しかも、訪れたタイミングが悪すぎる。数日以内に次期商業ギルドの会長を決める会議が行われようとしている。


「さらに商人であっても手荒な手段を持っている者はいます」


 商人だからこそ商機を見出せば躊躇なく使用する決断もできる。


「現状、私の命が狙われています」

「そこまで?」

「はい。他の候補者たちからすれば私の存在は気に入らないのでしょう」


 商業ギルドは国に似ているところがある。大きな権力を得ようとしたら、何代にも渡って組織に仕え、盤石な地位を築く必要がある。

 貴族も爵位を向上させるなら基本的には何代も掛ける必要がある。


「でも、親や祖父から受け継いだ商会なんですよね」

「残念ながら父や祖父は商業ギルドで働くような才覚を持っていなかったので、私の代から仕えるようになったのです」


 昔から商業ギルドに仕えている商会にしてみれば新参者もいいところだった。

 ただし、多額の献金という大きな貢献がある。もはや無視や妬みでどうにかなるものではなかった。


「このタイミングで来てくれたのは本当に助かりました。恥を忍んで頼みます。都市にいるだけでいいので、近くにいてくれないでしょうか!」

「そこまでか」


 必死に頼み込んでくるゲイツ。

 ちょっとだけ勢いに引いてしまった。


「私からもお願いできないでしょうか?」


 金貨を集計していたギルド職員が手を止めて話し掛けてきた。


「職員でしかない私が会長に誰がなるのか、なんて事に口を出すべきではないと思うんですけど、それでも自分の意見を言わせてもらえるなら私はゲイツさんに会長になってもらいたいです」


 無茶な仕事は割り振らない。

 功績を出せば、しっかりと応えてくれる。

 当たり前の事のように思えるが、数年前からギルドで働いている彼にとってはゲイツのように当たり前の事が当たり前のようにできる人物にこそ会長になってほしい、と考えるようになっていた。


 そこにあるのは信頼。

 実績と信頼があるため最有力候補となっていた。


「それが、問題なんです……私も会長の座は狙っていました。ですが、それは少なくとも10年以上は先の話です」


 昔からあるもっと大きな商会にも根回しをして盤石な状態で会長の座に就くつもりでいた。

 ところが、ゲイツの予想以上に実績と信頼が積み上がってしまった。

 想定外の実績というのは俺に貸した金だ。


「あんな大金は普通なら返済に一生を掛けても不可能ですよ」


 冒険者という個人では不可能だと判断していた。

 金を稼ぐ能力は持っていたが、利息の返済だけで慌てるような金額。少しずつ得られた利息から実績を積み上げるつもりでいた。

 もちろん他にも貸している金はある。だが、俺の借りた金に比べれば雀の涙程度の金額でしかないため頼りにしていた。

 そうして予想以上のスピードで利息の支払いが進められた。


「私も返済された借金があるならギルドへ戻さなければなりませんからね」


 利益そのものは商業ギルドのものとなる。

 だが、その利益を得た功績はゲイツだと記録が残されている。金を貸した手続きを行ったのが彼なのだから、利息の回収も引継ぎが行われていないのだから彼の手によるものとなる。

 こうして想定外の功績が積み上がってしまった。


「まだ準備は不足していると言っていい段階です。ですが、今さら引くことなど許される状況にありません」


 周囲の声に応えなければ商業ギルドにおける権力争いで勝てなくなってしまう。それは今回だけの話ではなく、彼の人生において付きまとうことになる。


「もう勝つ以外の選択肢がないのです」


 俺を睨みつけてくるゲイツ。

 そんな恨まれても困る。


「こっちは借りた金を返す。当たり前の事を利息まで含めてやっていただけだ」


 誤算は俺たちの能力だった。

 Aランク冒険者が死力を尽くせば最終的には返せないこともない。だが、俺たちはSランクになるのを断るAランク冒険者だ。他にも迷宮の力を借りれば返済は難しくなかった。


「それは構いませんが、5日後まで待ってほしいのです」

「なるほど。ようやく読めてきた。相当危険な状態にあるみたいだな」


 俺の言葉にゲイツが頷く。

 近くにいるだけでいい。それだけでは何の力もないように思えるが、俺たちの力は既にいるだけで抑止力になる。


「いいように使われるつもりはない。いや、既に使った後なのかな?」


 ゲイツだけでなくギルド職員の方にも目を向けると目を逸らされた。

 どうやら既に使われた後らしい。


「私を排除するため実力行使に出ようとしている者がいる情報を掴んだ。そこで『護衛』を雇った、という情報を流しました」


 『護衛』が誰なのかは明言していない。

 しかし、ゲイツが持つ伝手と俺たちが訪れたタイミングを考えれば雇われたと考えるのが妥当だった。


「そういう風に利用されるのは気に入らないな」

「もちろんです。だから、いるだけでいいので事実にしたいのです」


 近くにいなくても都市にいるだけで護衛としては十分だった。

 たとえ敵対していようと同じ組織に所属する商人同士。お互いに潰し合うような事態は避けたい。いてくれるだけで衝突を避けることができるならゲイツは避ける方を選ぶ。


「俺たちには全く利益のない話だろ」

「もちろん最高ランクの宿を用意して滞在費は出させてもらいます」


 レジュラス商業国における最高ランクの宿泊施設ともなれば1泊するだけで金貨が数枚は消費されることになる。

 普通の冒険者なら贅沢ができる、と釣られるかもしれない。

 だが、俺たちには魅力的に映らなかった。


「はぁ」


 思わず溜息を吐いてしまう。


「5日も拘束されるんだ。予定がなかったとしても、俺たちならその気になれば宿泊費以上の金貨を稼ぐことができるぞ。時間を浪費するだけだ」

「……」


 ゲイツが腕を組んで思考を巡らせる。

 その時、ちょうど金貨の集計が終わったことをギルド職員から告げられた。


「たしかに全額あります」

「ありがとうございます」

「いえ、これぐらいの事は気軽に頼んでください」


 職員たちが部屋を後にする。


「さ、あとは書類を作成してください」


 無言のまま立ち上がった執務机で書類を書き上げ、後は俺のサインがあれば問題ない状態にする。


「おい」


 渡された書類の内容に問題はなかった。

 唯一の問題は、返済日が5日後になっていたことだ。


「もちろん返済を伸ばしたことによる利息は私が負担します。そして、都市の滞在ではなく私の護衛を依頼させていただきます」

「冒険者への依頼に何が必要なのか理解しているんですよね」

「もちろんです」


 置かれたままになった金貨の箱へ近付く。


「この3箱についてはそのままお返しし、ギルドへは私の方から返済しておきます」


 問題が起こらないよう全額返済したことを証明する書類も受け取る。

 つまり、金貨30万枚で俺たちを護衛として雇おうとしていた。


「随分と破格の報酬を出すんですね」

「自分の命には換えられません」


 金額にゲイツの覚悟が現れている。


「そういうつもりながら応えないわけにはいかない」


 床を足で叩くと魔法陣が現れる。

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