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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第4話 商業ギルドの借金-前-

 商人ギルドの廊下を白い服を着た金髪の男性が歩く。

 ゲイツ・ギブソン。数年前から商人ギルドで副会長を務める男性で、次の会長の最有力候補となっていた。


「おい、ゲイツの奴だ」

「バカ野郎! ゲイツ様って呼ぶべきだろ」

「けどよ……」

「子供の頃の友達だった感覚は忘れろ」


 商業組合(ギルド)の廊下を歩く青年――ゲイツを見て二人の男が囁く。

 マルスと出会った頃は20代だった彼も30代後半になっていたが、今も以前と変わらない若々しさを保っていた。


 対して噂話をする二人は顔に老いが現れ始めていた。商人として一定の成功を収めることで商業ギルドで働くことができるようになったが、下働きのような仕事をさせられていた。

 一緒に遊んでいたゲイツとは雲泥の差だ。


「クソッ、ちょっと運がよかっただけだろ!」

「よせ。たしかに運よく伝手を得られたんだろうけど、力を手に入れたことには変わりない」


 当時は複数いる副会長の一人でしかなかった。副会長と言っても若いゲイツに任される仕事は雑用や面倒事の処理が主だった。マルスと接触したのも面倒事を処理する為の一環でしかなかった。

 だが、そうして面倒事に関わったおかげでマルスとの間に繋がりができるようになった。


「あいつが次期会長になるのは確定らしい」

「チッ、あいつの下で働くのか」

「若い事を気にしている老人連中は多いけど、あの人と繋がりがある」


 聞こえてくる愚痴に等しい噂話を無視して廊下を歩くと、ある応接室へと辿り着く。


「よう」


 そこで『あの人』--マルスが待っていた。



 ☆ ☆ ☆



 迷宮主になったことで強化されたマルスの耳は応接室の外で囁かれる噂話を捉えていた。

 主に会長就任が有力視されているゲイツを妬んだものだった。


 能力が評価されたこともあるが、能力以上に評価されたのはこの数年の間で納められることとなったギルドへの献金に理由があるらしい。

 迷宮を拡張させるためレジュラス商業国から金を借りる際、頼ることにしたのは伝手があったゲイツだった。


 結果を見れば彼を頼ったのは正解だった。わずか数時間という短い時間の間に彼は大金を用意してくれた。もし、他の者に頼っていた場合はゼオンの侵攻に間に合わなかった可能性が高い。

 ただ、代償として莫大な利子を要求されることとなった。

 もっとも、命には代えられないため許容している。


「不機嫌だな」

「私は、そちらが不機嫌なものだと思っていました」


 商人ギルドを訪れた俺とメリッサは応接室で待つよう言われていた。

 暢気にメイドから出された紅茶を飲んでいた俺たちの前にあるソファへとゲイツが座る。


「状況は把握しているな」

「はぁ……」


 俺が尋ねるとゲイツがわざとらしく溜息を吐いた。


「本当なら私の方が状況を把握しているはずなのですが……」

「それは正解だな」


 当初の予定では監視されていても動かないつもりでいた。

 だが、毒を盛られたことで動かざるを得なくなってしまった。


「馬鹿な真似をした奴を恨むんだな」

「本当に、愚かなことをしてくれた」


 監視者の中にはゲイツが雇った者もいた。

 プロであった監視者は俺とゲイツの関係を知っていたが、それでもプロとしての責任感から捕らえられても最初は情報を吐こうとしなかった。もっとも、最後にはアイラの暴力に負けて簡単な情報を口にしてしまった。

 ゲイツも密偵を雇うのに大金を払っており、仕事中に負った怪我の治療についてはゲイツが費用を負担することになっている。


「こっちには監視者の依頼人が誰かなんて判断できないんだから、必要に応じて喋らせておいた方がいいですよ」

「……そうさせてもらいます」


 ひどく疲れた様子だ。

 そもそもゲイツが監視を俺たちにつけたのは、他の者が監視をつけてしまったため監視をつけたことで発生した問題を把握しておく為だった。

 まさか、それがこのような事態を招くとは思いもしなかった。


 呆けているゲイツだったが、俺たちには関係ない。当初の目的を優先させることにする。

 足で床をトントン、と叩くと床に魔法陣が出現する。

 魔法陣が突然現れれば驚くが、何度か見たことがあるし、疲れていたゲイツは大きく驚くことをしない。


 魔法陣の奥から浮かぶようにして現れたのは複数の大きな金属製の箱。


「これは……?」


 5つの箱を見ながらゲイツが呟く。


「それぞれに金貨が10万枚入っている」

「……!?」


 金額そのものは大きな取引を何度も行ったことがあるゲイツにとっては些事たるものだった。

 だが、それを冒険者が個人で所有していることに驚きを隠せなかった。


「最初に借りた時は70万枚だったろ」


 きちんと返済を続けていたにもかかわらず、気付いた時には倍近い金額を支払わなければならなくなっていた。

 金額が大きいだけに仕方ないし、他の金貸しだった場合にはもっと大きな利息がつけられていたはずであるため納得はしている。


「残りの借金を全て返済する」

「これをどうやって……」


 さすがにグレンヴァルガ帝国で俺が何をしたのかまで伝わっていない。逐次、情報を集めているのだろうけど、あれから数日しか経っていないため仕方ない。

 非合法な手段で得た金だと思われても不愉快だ。どのようにして大金を集めたのか説明することにする。


「なるほど。貴族を相手に盗賊から奪い返した財宝で金を巻き上げたのですか」


 商業ギルドの副会長をしているゲイツは、少し事情を聞いただけで何があったのか理解した。


「……どの程度の情報を掴んでいました?」


 隣に座るメリッサが尋ねる。


「最近になってグレンヴァルガ帝国の盗賊被害が激しくなってきたところまでです。商人の中には商機を見出して武器の輸出を行った者や傭兵を派遣した者までいます……もっとも、それらの準備は全て無駄に終わってしまったようです」


 今も盗賊が暴れているのなら利益になっただろうが、騒動が落ち着いた今になって到着しても需要はない。

 商人たちも早々に片付くとは思っていなかった。俺たちがいた為に問題が解決できてしまっただけの話だ。


「方法は特殊ですけど、真っ当な手段で稼いだ金だということは理解してもらえたはずです」


 呆然としながらゲイツが大量の金貨が入った箱を見つめる。

 とてもではないが、個人が簡単に稼げるような金額ではない。


「本当に、返せるなんて……」

「やっぱり返済されることを考えていなかったか」


 金を貸す側の人間としては、金を貸し続けることによって利息を支払わせて利益を得るようにしたい。

 だが、全額が返済されてしまえば利息が発生することもない。


「中身を確認させてもらっても?」

「かまわない」


 応接室の奥にある鈴を鳴らし、しばらくすると商業ギルドの制服を身に纏った職員が10人現れる。

 彼らは大量の金貨を前にして動きが止まったものの、すぐに金貨の枚数を確認するよう言われて数え始める。

 簡単に終わるような作業ではない。作業の間に契約の確認を進める。


「これで全額返済ということでいいな」


 借金という問題が片付いて肩の荷が下りる。


「ま、待ってください……!」

「うん?」


 必死な形相のゲイツが身を乗り出してまで止めてきた。


「悪いけど、返済を止めるつもりはないぞ」


 冒険者に定期的な収入はない。いつ、どれだけの大金が稼げるのか分からないためいつでも返済ができる契約にしていた。

 ゲイツに断る権利はない。


「私も返済を断るつもりはありません。ただ……もう少しだけ待ってもらえませんか?」

「どういうことだ?」

「私との間にもう少しだけ繋がりがあってほしいのです」

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