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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第3話 商業国の監視―後―

 路地を走っていた男の首を掴み、建物の壁に叩き付ける。

 最初に屋上から伺っていた一人を気絶させ、気付かれていることを知って逃げ出した男を捕らえた。


 同行者はメリッサのみ。

 シルビアとアイラ、ノエルとイリスの3組に分かれて監視者たちを捕らえていっている。

 感覚をシルビアと同調させたおかげで全員の位置は判明している。


「……っ!?」


 密偵としての矜持から壁に叩き付けられても声を漏らさない。


「安心しろ。近くに人はいない」


 それぐらいのことは監視者も理解している。と言うよりも彼自身が人目を避けて逃げていたため近くに人がいない。

 監視者は緑色のゆったりとした服を着ており、体形が分かり難い。だが、ここまで身軽に逃げてきたことから相応の身体能力を持っていることは分かる。

 痛みに耐えながら、ゆっくりと細い目を開く。


「化け物が……」

「そんな風に言われるのは、もう慣れた」

「ぐっ……!」


 首を掴んでいる手の力を強める。


「だけど、言われて気分のいい言葉じゃないっていうことぐらいは理解しておけ」

「……ああ」


 苦痛に顔が歪んだところで手を離して地面に座らせる。

 助けなど望めない路地裏。相手も自分が敗北したことを悟っていた。


「降参だ」

「随分とあっさりしているんだな」

「こっちは金で雇われただけの人間だ。命を懸けてまで組織に仕える理由は持ち合わせていないんだ」


 密偵の役割は、あくまでも都市を訪れた俺たちの監視だった。

 その後どのように対応するのかは、目的が判明した後で依頼人と話し合われることになっていた。


「お前たちの依頼人は?」

「プリスティル商会だ」

「あそこですか」


 俺には覚えのない名前だったが、メリッサには心当たりがあった。


 金を貸してくれた相手がレジュラス商業国の商人ギルドに所属する者ということで主だった人間には調べられていた。

 プリスティル商会もレジュラス商業国では有名な商会だった。

 宝石の売買を生業にしている商会で、多くの利益を上げていることから商人ギルドでの地位を先祖代々に渡って確立させていった。

 女性が商会主で、利益を上げることに凄まじい執着を見せている。


「そんな方がどうして私たちの監視を?」

「さっきも言ったように理由までは知らない……いぃ!?」


 神剣を抜いて首に押し当てる。

 浅く斬られた首から血が流れて、雫が地面に落ちる。


「答えは慎重に選んだ方がいい。こっちは、せっかくゆっくりできると思っていたところを邪魔されて苛立っているんだ」

「それでも斬らないんだな」

「ああ」


 苛立っていても斬り捨てるつもりはない。

 密偵がしていたのは監視だけ。それだけの理由で殺すような真似をすれば危険人物だと見做されてしまう。


 俺たちには、俺たちなりのルールがある。

 まだ密偵は生かされている範囲にいた。


「……どうやら本当に何も知らないみたいだ」


 生かすつもりでいるのは見抜いていた。

 それでも浴びせられた殺気は本物。密偵の心に恐怖が渦巻いていたのは、表情を取り繕っていても分かった。

 そんな状況にあって話さないのなら本当に知らないのだ。


「だったら質問を変える。毒を盛った奴は誰だ?」


 たとえ通用せず、相手にも殺す気のなかった毒だったとしても毒を盛られたことには変わりない。

 実行犯であるウェイトレスは金に目が眩んでしまい、こちらに実害もなかったことから許した。

 だが、唆した奴まで許すつもりはない。


「知らない。こちらも急な展開に驚いている」

「そうだろうな」


 監視するように言われているにもかかわらず毒殺を唆すはずがない。


「現在、複数の商会に雇われた密偵がお前たちの監視に動いている」

「そうみたいだな」


 アイラとイリスも順調に尋問を行っている。現段階で知り得た情報からだけでも依頼人の名前は一致しない。

 アイラが暴力と気迫で脅して情報を得ているのに対して、イリスは既に知っている情報を小出しにすることで多くの情報を引き出している。

 俺もやり方はアイラと変わらないな。


「依頼人が何を考えているのか教えられていない。だが、レジュラス商業国の状況から推測することはできる」

「教えろ」

「言うのは構わない。ただ、その代わりに見逃すことを約束してほしい」


 密偵がほしいのは確約。書面で残すことなどできないから、明確な言葉を欲しているのだろう。


「推測でいいから教えろ。代わりに見逃してやる」


 密偵も仕事上、様々な情報を得ている。

 彼の推測も見当外れにはならないはずだ。


「近々、レジュラス商業国の商人ギルドで新しい会長を決定する為の会議が行われることになっている」


 会長はギルドに所属している者たちの推薦によって行われる。

 能力、実績、ギルドへの献金などを考慮して相応しい者を推薦する。


「よく調べているな。だが、そんなのは建前だ」

「建前?」

「……賄賂ですよ」


 気まずそうにメリッサが教えてくれた。

 より多くの推薦を得られた者が会長になるが、能力や実績などを無視して買収が行われることがある。

 そして、商人ギルドでは多く見受けられる。

 結局は財力が決定的になる。


「俺から言えるのは会長会議が関係しているだろうっていうことぐらいだ」


 これまでは監視がつけられることはなかった。

 それが急につけられたとなれば無関係ではないだろう。


「分かった」


 事情については分かった。

 毒に関してこいつは無関係だ。


「本当に……見逃してくれるのか?」

「ああ。俺は約束は守る」


 殺気を抑えても半信半疑な密偵。


「ただし、二度目はないものと思え。それに監視されたままなのも不愉快だ。次は無関係であろうと連帯責任になるつもりで尾行()けろ――そう依頼人に伝えるんだな」

「あ、ああ……分かった!」


 すっかり委縮してしまった密偵が離れて行く。

 あいつを逆に尾行して依頼人の裏取りをすることも可能だ。だが、そんなことをすれば今回の騒動に関わることが確定してしまう。


「今は現状の把握で済ませるだけでいい」

「私もそれでいいと思います」

「さて、さっき気絶させた奴は何を喋ってくれるかな?」

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