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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第28話 継がせるもの

「結局あいつが死んで暴走した人はいなかったな」

「元々【隷属魔法】が暴発するというのが考えすぎだったのか、それとも最初の段階で仕込んでいた人が全員だったのかは分からないけどな」


 帝都にある城の廊下を歩きながらリオと話す。

 処刑された直後は警戒していたが、暴動が起きる様子はなかった。


「俺としては後者の可能性を考えているけどな」


 戦争がしたかったケイン。

 すぐ目の前に敵国のトップという最も価値のある餌が現れたことで、後の事など考えずに動員できる人間を動かしてしまった。

 結果、窮地に陥った時に頼れる人間がいなくなってしまった。


「あいつにはせいぜい役立ってもらうさ」


 皇帝が自ら処刑したことで国の本気は見せることができた。

 そして、リオの宣言によってケインが単独犯であると知られた。


「これからもガルディス帝国領の復興は必要なんだ。面倒だけど、避けられるなら対立は避けないといけない」


 人々の憎しみをケインに集中させる。

 今後の事を考えるならそれぐらいの責任は負ってもらわなくてはならない。


「奴の事はいい。報酬の話を済ませることにしよう」


 辿り着いたのは巨大な金庫そのものとなった部屋。

 リオが持つ個人的な財宝や資金を格納しておく為の場所で、大金が必要となった緊急時などの時に皇帝や許可された一部の者だけが開けることのできる部屋。


「さすがに個人的な依頼でここまでの大金を国庫から動かすわけにはいかないからな」


 金庫内には分かりやすいほど大量の金貨が積まれている。

 見栄えを重視した光景だ。この光景を目にした人々は、皇帝の持つ財力に圧倒されることとなる。


「相変わらず凄いな」

「お前だってその気になれば作れるだろ」

「こっちは100階分の迷宮を維持するのに魔力が必要なんだ。見栄えが目的の金貨なんて用意できる余裕はないんだよ」


 大量の金貨は迷宮が持つ余剰分の魔力から生み出された物だ。

 一部が俺に譲り渡される。


「持っていけ」

「それだけの活躍をしてくれた」


 盗賊から回収した財宝の中には貴族たちの家宝も含まれていた。

 それらを譲渡する代わりの金貨が受け渡された。


「これガーディル君への遺産だろ」


 ガーディル君は皇帝の座を引き継いでも迷宮主の座まで引き継げるわけではない。引き継いだ瞬間にリオが死んでしまうし、たとえリオが亡くなった後でも迷宮核が攻略を認めなければ迷宮主になることができない。

 皇位継承順位の低いリオと違って皇太子であるガーディル君に危険な迷宮攻略に挑ませられるはずがない。

 弟妹に迷宮攻略をさせるのも問題外だ。万が一にも攻略に成功して皇太子であるガーディル君との仲が破綻してしまわないようにしている。


 だから迷宮の力がなければできないことは今のうちに行っていた。

 金庫にある金貨も分かりやすい形で残された遺産だ。


「次に迷宮主になった奴は俺が使い果たしたことに困るんだろうけど、そいつは何代も先の顔を知らない奴だろ」


 その頃にはリオも亡くなっている。

 だから躊躇なく迷宮の魔力を子供たちの為に使えていた。


「お前も何か考えているんだろ」

「まあな。けど、俺の場合はまず借金を残さないことだ」

「それも今回の報酬で返済できるだけ得られたんじゃないか?」


 ゼオンとの戦いにおいて緊急で迷宮を100階まで拡張させる必要があった。

 おかげで倒すことができたものの、拡張する為に様々な人から借金をすることになってしまった。


 借りのあるグレンヴァルガ帝国や身内同然である母の実家のアルケイン商会などからは利子のない契約で借りることができた。

 だが、それでも足りなかったため財力のあるレジュラス商業国を頼ることとなった。

 あの国の協力が得られたから100階まで到達することができた。

 しかし、商業で栄えた国への借金は痛手となった。


「とっくに借りた分の金は返したのに利子だけで倍近くに膨れ上がっているんだぞ」


 借りた額が多すぎるため仕方ないとも言える。

 レジュラス商業国への借金を優先的に返しているにもかかわらず、利息の支払いに追われる日々となってしまった。

 それも大金が手に入ったことで終わる。


「いや、額を考えれば一生を使っても返し切ることができない金額なんだけどな」

「その辺は冒険者ランクを上げた恩恵だな」


 最高位の冒険者になったことで面倒事も増えた。Aランク冒険者で、Sランクへの昇格が認められるほどの実力と功績があるにもかかわらずいつまでも拒否し続ける。

 Sランクへ昇格すれば普通では考えられないほどの大金が定期的に支払われる。

 だが、それでは俺の借金を返すには足りない。昇格せず、自由に動けたおかげで十分すぎるほどの大金を稼ぐことに成功した。


「これで子供たちに借金を遺すなんて真似をせずに済む」

「お前は分かっているみたいだな」


 俺が必要になって得た負債だ。子供たちに遺すわけにはいかない。


「そこをダレスデン家の後継者は分かっていないみたいだけどな」

「仕方ないだろ。そんな事も考えられないほど追い詰められていたんだ。自分が手にするはずだったものが、父親の失態のせいで手に入れられなくなろうとしていたんだ」


 感情から動いてしまったとしても仕方ない。

 父親から正式に引き継がれたダレスデン伯爵家の爵位。父親が所有していた資産は正式に引き継がれることとなった。

 しかし、爵位の継承に伴って引き継がれるのは資産だけではない。


「お前がサンクンド家との間に交わした契約なら、俺がさっき渡した金貨の半分以上はサンクンド家が支払わないといけないことになっていたはずだ」


 どうしても取り戻さなければならない物については、サンクンド家が買い戻す契約になっていた。

 しかし、後にダレスデン家に問題があったことが判明。

 そこでリオはダレスデンを国の直轄地として運営し、得られた利益を補填することにしていた。既にサンクンド家との間で契約は交わされていた。

 国とサンクンド家との間に割り込んだのがダレスデン家になる。


「あいつは知らないんだろうけど、サンクンド家は支払うはずだった負債をダレスデン家が引き受けることになったんだ」


 受け継がれるはずの資産にばかり目が行って、隠された負債があることに気付くことができなかった。

 皇帝から覚悟を問われ、爵位の継承が行われた。

 どのように文句を言ったところで取り消すことはできない。


「これからの人生は地獄を見ることになるぞ」


 貴族のような裕福な生活を送ることはできなくなる。もし、借金の返済を怠って豪遊などすれば惨い仕打ちが待っている。

 国の監視付きの領地経営が行われ、借金返済に生涯を費やすことになる。


「俺もガーディルに負債を遺すつもりはない」


 今回、最後にリオは皇帝の恐ろしい一面を見せることになった。

 皇帝が怒らせてはいけない存在だということは知れ渡った。ガルディス帝国領の復興が始まったばかりで混乱している状況では反抗する者は少ないほどいい。

 だが、ガーディル君が引き継ぐ頃には安定が求められる。


「今回の処刑を早計だったと言う奴もいる。だけど、皇帝に反抗しようとする奴を黙らせるパフォーマンスになったのは間違いない」


 怖れられる代わりにしばらくは安定した時期が続くだろう。


「皇帝の悪評は全て俺が墓場まで……迷宮まで持って行くことにする。その後で安定した統治をできるようガーディルを教育してやるのが俺の仕事だ」


 決意に満ちた表情。

 皇帝を前にして何も言えなくなる。


「ま、俺は報酬さえもらえれば文句はない。今回もありがたく頂戴するよ」

さて、第42章も今回で終わりです。

次の第43章ですが、ストックがほとんどありません。本当ならもう少し書いてから更新したいところですが、ちょっと事情があって4月も更新したので残りの3日でできるところまで頑張ります。

というわけで、次の更新は4月1日です。

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