表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
1286/1458

第24話 魔法研究者ケイン

 メリッサは既に【隷属魔法】を正確に把握していた。

 人間に魔法陣を打ち込むことで感情を爆発させることができる。術者には、どの感情を爆発させることができるのかある程度の操作ができる。


 ケインの開発した【隷属魔法】とは、主に隷属するのではなく、主が指定した自らの感情に隷属する魔法。

 だからこそ厄介だった。感情が爆発する前は穏やかで、【隷属魔法】が撃ち込まれていることに気付くことができない。

 現在、いったいどれだけの人が隷属状態にあるのか。


 そして、魔法そのものについては把握していても、ケインが他に何かをしていないのか把握できていなかった。


「分かるぞ。安易に俺を殺すことはできない。俺を殺した瞬間に、全ての魔法が発動する危険があるからな」


 メリッサが危惧していたのはそれだった。

 もし、何十万人もの人間が暴走することになったら――面倒なことになる。


「何もない状態から新たに魔法を作った貴方なら、全ての魔法を強制的に解除する方法も用意しているのではないですか?」

「ああ、用意しているさ」


 ケインはあっさりと認めた。

 拘束されている状態では、抵抗など無意味だ。


「ただ、この状態だけはどうにかしてほしい」


 光のない地下室で、鎖によって拘束されて椅子に座らされているなど医者にして魔法使いである自分の扱いではない。


「ここなら【隷属魔法】は大丈夫だと思いますが、犯人である貴方の拘束を解くなどありえません」

「変な動きはしない方がいいわよ」

「死んだ時を怖れてはいるけど、生かすことでそれ以上に面倒なことになるぐらいなら斬り捨てるつもりでいるから」

「分かっているよ」


 ケインの左右ではアイラとイリスが剣を抜いて睨みを利かせている。

 そもそも自分がどこにいるのか分からないのでは、隷属させた他者に頼って応援を呼ぶこともできない。

 だが、凡その範囲は絞ることができる。

 最後に認識していた場所から10秒以内で移動できる場所。しかも、地下室となれば場所は限られる。


「ああ、現在(いま)いる場所を予想するのは無意味ですから止めた方がいいです」

「なに……?」

「事前に準備をしていただけの話です」


 メリッサから言われてようやく気付いた。

 そもそも地下室には入口がなかった。それに使い古された物ではなく、まるで新品のように綺麗な壁だった。

 時が停止した中を移動したシルビアはともかくとして、他の4人まで誰に見つかることもなく移動するのは難しい。あの時、攻撃しようと潜んでいた冒険者の中には斥候を任されている冒険者だっていた。


「まさか……」

「この街の復興には私たちも関わっています。こういった普通の方法では侵入することのできない地下室がいくつかあります」

「俺は誘導させられていたのか」


 複数ある地下室のどれかに近付いたところでシルビアが浚う。

 見事にケインは連れ去られてしまった。


「やっぱり悪魔ほど上手くはいかないな」

「悪魔?」

「さっき、お前は俺が『何もない状態から新たに魔法を作った』って言ったけど、それは間違いだ」


 きっかけとなったのは、オネイロスで医者として働いていたケインに負傷したポルタ――盗賊となる男が訪れたことだった。

 怪我の治療だけでなく、医務室を訪れた者の相談にも乗っていたケイン。

 その頃のポルタは冒険者として盗賊と比べれば真っ当に活動しており、探索の果てに手に入れたものの扱いに困った魔法道具の相談も受け付けていた。

 そうして見させられた魔法道具は衝撃的だった。


「他者を隷属させることができる。これほど素晴らしい魔法道具はない!」


 説明するケインの声には興奮が含まれていた。


「何者ですか? ただの医者ではありませんね」

「モンストン研究所職員。こう言えばお前たちには理解できるな」

「……!」


 モンストン。

 ガルディス帝国が戦争の為に非人道的な方法であろうとも、勝つ為の研究を秘密裏に行っていた都市。


「俺の研究は捕虜の完全な隷属化。自分たちにとって都合がいいように隷属させてから戻して、敵国内で工作を行わせる――結局は研究が失敗に終わったせいで俺の研究者人生も終わった」


 そんな時に自分が成し遂げようとしていた事を可能にする魔法道具に巡り合ってしまった。

 似たような研究をしていたから解析をするのは難しくなかった。

 必要としていたのは実用データ。


「あいつらには【隷属魔法】なんて必要なかった。ちょっと言い包めてやるだけで盗賊になって利用することに抵抗がなくなった」


 本人たちも自分の意思で始めたと思っていた。

 だから彼らを尋問してもケインの名前が出てくることはなかった。本当に軽く相談相手になっただけ。


「改良を重ねて『感情の暴発』程度なら、俺の意思一つで自由にできるようになった。盗賊になった奴と魔法道具も役に立ったが、イシュガリア公国に現れた悪魔が最も役に立ってくれた」


 夢による洗脳を可能にしていた悪魔。

 悪魔の存在や事件の詳細については知られないようにしていたが、目撃者が多いために緘口令を敷いても話の断片程度なら伝わってしまう。


 ケインは医者として眠った人々を起こす知恵を借りたかったイシュガリア公国から話を聞いていた。

 断片的な内容しか伝わらなかったが、元研究ならば断片から真実を見抜くことも可能だ。


「彼の悪魔のようになりたかったんだが……残念だ」

「あなたがあの夢魔のようになることは不可能だから」

「なに……?」


 それまで黙っていたノエルの言葉にケインが眉を顰める。


「あれは方法こそ許されるものではなかったけど、その根底にあった思いは世界を思ったものだった。けど、あなたは何を思って魔法を使ったの?」

「……」


 ノエルの質問にケインは答えない。

 ケインの行動に崇高な思いや誰かへの配慮などない。


「戦争を起こしたかった――違う?」

「その通り。ガルディス帝国の現状を変える為には力で訴えるしかない。幸いにして多くの冒険者がいてくれたからグレンヴァルガ帝国の全軍を相手にすることは不可能でも、北部を弱体化させて限定的に戦争するだけの力は残って……」

「わたしの言い方が間違っていたのかな? ただ『戦争を起こしたかった』だけ」

「……」


 そこにガルディス帝国で生きる人間への配慮など含まれない。

 純粋に戦争を起こしてみたかった。


「もし、本当にガルディス帝国の人間の事を想っているならダレスデンであんなに無謀なことはしなかったはず」


 皇帝が滞在していることを知りながらの暴走。

 事情を把握しているリオに戦争の意思がなかったとしても、断片的にしか情報を得ていない貴族たちは戦争の準備を始めてしまう。

 この数年で大きな戦争はない。戦力を持て余し気味の貴族たちは戦争へ積極的に動くこととなる。


「はははっっ―――――!」


 拘束されたままのケインが大きな声で笑い出す。

 突然の奇行に一瞬だけ驚くものの誰一人として警戒は解かない。


「そうだ。せっかく戦争で勝つ為に研究していた魔法が形になったっていうのに、使うべき戦争そのものがなくなってしまった――そんなのは勿体ないだろ!」

「もっと別の使い方だって考えればできたはず……」

「嫌だね。俺は他の使い方なんてするつもりがない」


 戦争で勝利する。

 その為に戦争をしていられるような状況でもないのに引き起こそうとしている男の思考に全員が嫌悪感を抱いていた。

 戦争をしてしまうのは仕方ない。だが、巻き込まれる人間のことも考えず積極的に起こそうとしているのを許容するつもりはなかった。


 酷く――昏い感情が心の中で渦巻いているのを感じ取っていた。


「どうやら、そろそろいいみたいだ」

「……何をしました?」


 メリッサは自分の精神状態が普通ではないことに気付いた。


「お前たちは強すぎる。だから俺の【隷属魔法】も抵抗(レジスト)されてしまうみたいだ。だが、こうして事情を説明したことで【隷属魔法】への理解を深めることとなった。それが、お前たちの心の奥底へと干渉することに繋がるとも知らずに」


 事情を聞き出そうと話をしていた。

 だが、実際には隷属する為に必要だったから話をしていたに過ぎなかった。


「強い冒険者を呼んだって無意味だ。化け物には化け物を宛がう必要がある――隣にいる奴を憎く思ったことぐらいあるだろ。自分だけで一人の男を独占したい、なんて考えたことぐらいあるはずだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ