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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第23話 オネイロス追走

 オネイロスの街を走る眷属の5人。


「ねぇ、マルスだけを置いてきたけどよかったの?」


 前を走るアイラが疑問を口にする。

 あの時、アイラが最もマルスの近くにいた。だが、指揮を一任されたメリッサはマルスを除いた全員でケインを追うことを選んだ。


「彼なら万が一にも負けることはないでしょう」


 【隷属魔法】によって普段以上に強化されていることには気付いていた。

 それでも迷宮主であるマルスの敵になるようなレベルには至っていない。


「今は一刻も早く彼を捕らえるべきです」


 メリッサの見つめる先には逃げ走るケインの姿がある。

 医者であり、魔法使いである彼の足は決して速くない。だが、追いつくことができない理由がある。


「ああ、もう……!」


 建物の上から飛び降りてくる冒険者。手には斧が握られており、落ちてくる勢いに任せて威力が増す。


 ――キィィィン!


 落ちてきた斧による攻撃をアイラが剣で受け止め、受け流すと冒険者が地面を転がる。追撃を怖れて少しでも離れようとする冒険者だったが、アイラに蹴り飛ばされて壁に叩きつけられると気絶してしまう。

 激痛によって痙攣している。そんな状態でも生きている証にはなる。


「追いかけている最中なんだからもっと綺麗に足止めして」


 イリスが剣を振るうと、剣の動きに合わせて冷気が放たれる。

 冷気の向かう先には3人の冒険者がおり、それぞれが槍や剣といった自分の武器を手にしていた。

 しかし、彼女たちの元へ辿り着く前に前のめりになって倒れてしまう。

 何かによって足が固定されている。

 3人が下半身を見れば膝までが氷に覆われている。


「この……!!」


 凍らされて動けなくなった冒険者が憎しみに満ちた目をイリスに向ける。

 彼らの目を見てイリスが溜息を吐く。


「わたしたち、そんなに恨まれるようなことしたかな?」

「彼らにとっては、力があるのに積極的な協力をしていない私たちが許せないのでしょう」


 ノエルの疑問にメリッサが答える。

 ケインが言ったように冒険者の中に強いマルスたちがガルディス帝国に貢献してくれない事を不満に思っている者は多い。

 しかし、そんなのは不満程度でしかない。

 決して憎しみになるような想いではない。


「彼らも被害者っていうこと?」

「そのはずなのですが……目の前の光景を見させられると肯定する気が失せてしまいますね」


 走る先が魔法陣の光によって鮮やかに輝く。

 左右の建物から大通りを走るメリッサたちに向かって多種多様な魔法が浴びせられる。

 せっかく作られた街を破壊するような攻撃。ガルディス帝国の避難民が生活できるよう街の発展に貢献してきた魔法使いによる攻撃だが、彼らに街や街に住む人々を気にした様子がない。


 もはやメリッサたちを倒すこと以外に意識が向いていない。

 その結果、街がどうなろうと気にしない。


「ははっ、潰れろ」


 魔法陣の向こうへ駆けたケインが目の前の光景を見て笑う。

 ケインがしたのは、あくまでもメリッサたちへ敵意が向かうよう感情を増幅させただけ。それでも、互いに見知っている冒険者たちはどうすれば効率的に倒すことができるのかを考え、最低限の打ち合わせだけで待ち伏せを決行した。

 何度か戦士による襲撃はあったが、それらは全て誘導が目的の攻撃。

 そんな彼らを巻き込むつもりで魔法を放っている。


「誘導されたとはいえ、敵になったので巻き込まれることに気を遣うつもりはないのですが、彼らを失うとガルディス帝国領の統治が面倒になりますね」


 メリッサが瞬時に放たれた全ての魔法を把握する。

 そうして相殺するべく同じ威力で、同じ魔法を放つ。


「……ちっ」


 攻撃が失敗に終わったのを見てケインが舌打ちをする。

 しかし、魔法使いたちは即座に次の魔法を準備する。限界を超える魔法行使なのだが、誘導された彼らには自らへの負担など考慮する気はない。

 限界以上の魔力を引き出したことで目や鼻から血を流す者が現れる。


 そのまま魔法を放てば命に係わる。

 だが、魔法を放ったことで彼らが倒れることはなかった。相殺した直後に放たれた【隷属解除】の魔力弾が魔法使いたちを打ち抜いたからだ。


「すごい力だな。けど、この街にどれだけの冒険者がいると思っている!」


 街の外へ出掛けている冒険者もいる。

 それでも元々の数が多いだけにメリッサたちに向けられる戦力は無数にいるように思える。


「ひぃ!」


 走っている途中にいた女の子が恐怖から転んでしまう。

 隷属させられていない一般住人は巻き込まれないよう建物の中へ退避している。だが、事態を素早く把握することのできなかった子供たちが逃げられずに取り残されている。


 転んだ女の子に魔法の衝撃で崩れた建物の瓦礫が落ちてくる。

 体が小さな子供なら潰されてしまう。だが、瓦礫が女の子の所まで落ちてくる前にシルビアの手によって抱えられて逃がされる。


「ありがと……」

「どういたしまして。ここは危ないから、おうちに帰った方がいいよ」

「うん」


 小さな足で必死に逃げる。

 その背中を見つめながらメリッサへ念話で問い掛ける。


『まだ?』

『……被害をこれ以上広げるのも問題ですね。タイミングはシルビアさんに任せます』


 メリッサに向かって矢が飛んでくる。ただの矢ではなく、刺さると同時に爆発を起こす札が括り付けられている。

 魔法で起こした風で矢をバラバラに切り裂く。その途中、札が爆発して真っ白な煙に周囲が包み込まれる。


「ほら追加だ」


 数人が無力化されたところでケインにとっては痛くもかゆくもない。もう彼の思いのままに感情を暴発させることのできる人間は何人もいる。

 煙で見えていないが、追加の魔法使いがメリッサたちに魔法を浴びせる。


「ここは戦力も多いからグレンヴァルガ帝国の人間にも【隷属魔法】を打ち込んで洗脳したいところだったけど、正体が露見した以上はしばらく隠遁しないといけないな。やっぱり人の身では、悪魔のようにはいかないもんだ」


 煙に紛れて逃走する。一部の者だけが知る地下の脱出路についても聞き出しており、そこを利用して逃げるつもりでいた。

 逃げる準備は以前から万端。

 実行に移すだけだったケインは今後に思いを馳せる。


「ここまでです」

「――ッ!?」


 突如としてシルビアが眼前に現れて足を止めてしまう。

 彼女にとって【壁抜け】を使用すれば制圧攻撃など意味を成さない。


「おい、お前ら! ここに女が――は?」


 近くにいるだろう冒険者に向かってシルビアがいることを叫ぶ。

 しかし、途中で目の前の景色が変わったことに気が付いて動きを止めてしまう。


「どこだ……ここは?」


 レンガの壁で覆われた部屋。蝋燭の灯りがなければ真っ暗で窓すらない。流れている空気から地下だと瞬時に判断した。

 そして、部屋には中心にポツンと椅子だけが置かれている。


「何が目的……」


 背後に人の気配を感じて振り返ろうとする。


「はぁ!?」


 しかし、気付いた時には中心にあった椅子に座らされているだけでなく、頑丈な鎖によって体を拘束されていた。


「お前の仕業か!」

「……えぇ、【時抜け】の力です」


 ケインの視線の先にいたシルビアは胸を押さえて酷く苦しそうにしていた。


「休んでいていいですよ」


 【空間魔法】によって地下室へ転移してきたメリッサたちが姿を現す。


「いったい、どうやって俺を連れ去った!?」


 自分のしている事が露見した時に備えていたケインは、魔法を無効化する魔法道具を身に付けていた。無効化すると言っても強力な攻撃魔法なら弱体化させるのが関の山だ。

 それでも魔法による誘拐を防ぐぐらいの力はある。

 それが分かっていたからメリッサも【空間魔法】による誘拐を諦めた。


「ただ抱えて連れ去っただけです」

「そんな暇……」


 たしかに眼前の景色は変わった。しかし、それは一瞬の出来事で彼は『移動させられた』感覚すらなかった。

 自覚がないのも仕方ない。時間が止まっている間に起きた出来事だ。


「わたしは、最大で10秒間だけ止まった時間の中を動くことができる。石像みたいに全く動かないあなたを運ぶことだってできる」

「そんなこと……」


 否定しようとしたところで相手が国の危機すら救って見せた英雄のような人間の仲間であることを思い出した。

 彼女なら『できるかもしれない』、そんな思いが駆け巡る。


「単刀直入に用件を言うことにしましょう――今すぐに全員を解放してください。そうすれば命だけは保障してあげます」


 シルビアは地下室まで運び、さらに連続で拘束する為に時間を停止させたことで体に多大な負担が掛かっていた。

 代わりにメリッサが要求を突き付ける。

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