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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第18話 盗品の所有権

 ダレスデン。

 街は普段と変わらない様子だったが、中心にある領主の館はいつにない緊張に包まれていた。


「なぜ……」


 広い会議室で館の主が頭を抱えながら呟いた。

 館の主で、領主であるが今は上座に座っていなかった。会議室には今回の会議の為に集められた貴族たちの姿もあるが、上座だけが開けられていた。

 全員が緊張して面持ちで主役を待っていた。


 そんな狡猾な貴族らしくない姿を俺は壁に寄り掛かりながら待っていた。


「な、なぁ……本当に来るのか? もし、本当に来られるなら出迎えた方がいいんじゃないか?」


 ダレスデン伯爵が不安から最も事情に詳しい俺に尋ねる。


「分かっていないですね。今回の訪問を騒ぎにしたくない。だから褒められた方法じゃないのに、ここへ直接来ることにしたんです。その思いを無碍にするつもりですか?」

「そういうつもりでは……」


 相手が冒険者であるため下に見ている。だが、大国の危機を何度も救っているため高圧的な態度を取ることができずに対応が中途半端になってしまった。


 冒険者と貴族。

 本来ならどちらが強気に出られるかなど考えるまでもない。


「それに、もう待つ必要はありません」

「は……?」


 会議室の隅にある開けられたスペースへ目を向けると、ちょうど黒い球体が現れるところだった。


 転移穴(ワープホール)

 リオの眷属であるソニアが持つスキルで、別の場所にある二つの黒い球体を繋げることで穴を開通させてトンネルとすることができる。

 隣国の辺境すら繋げることができる。

 なら、自国内なら地方にある街の領主の館にある会議室であろうと繋げることができる。


「グロリオ皇帝、陛下……」


 ソニアを伴ってリオが会議室に現れる。

 貴族の全員が唐突に現れた皇帝に頭を下げる。


「そこまで気にする必要はない。今日は帝国の北部で起きている問題について話し合う為に来たんだ」


 リオが本来なら領主が座るべき上座に座る。この会議室もダレスデン家の家臣と会議をする場所で、上座にはダレスデン伯爵が座るはずだ。

 俺もリオの近くへ移動する。


「ここにいる全員は状況を把握しているな?」


 会議室にいる全員が頷く。


「現在、旧ガルディス帝国で生活をしていた者たちが盗賊となって北部で騒ぎを起こしている。その盗賊も順調に捕らえていっている」


 捕まえたのは全て俺たちだ。

 街の騎士団も盗賊を相手にすることができない訳ではないが、暴れている盗賊団が新興の盗賊団であるため事前の情報がない。おまけに俺たちの捕らえる速度が早すぎるせいで盗賊を見つける段階で苦戦させられている。

 ただ、騎士団にも無力化した盗賊の護送と拘束を頼んでいたため役に立っていない訳ではない。


「が、現状に意味がないことは理解しているな」


 リオが詳細を言うよう俺に視線を向けてくる。


「俺たちがこの数日で捕らえた盗賊の人数は451人です」

「な、に……?」


 会議室にいた誰かの口から漏れた。

 彼らも領主であるため自分たちの街で拘束されている盗賊の人数は把握していた。しかし、北部全体でどれだけの盗賊が捕らえられているのかまでは把握することができていなかった。


「そして、今朝も盗賊に襲われた商人がいます」


 近くの街へ向かっていた商人が襲われ、命は無事だったが荷物を奪われることとなった。

 そちらへは現在メリッサとイリスが向かっている。もう慣れた作業と言っていいので安心して任せることができる。

 現状から分かるように解決へ向かっていなかった。


「今回の盗賊が特殊であることは理解しているな」


 盗賊たちが精神に影響を受けている事を理解している。

 捕らえた盗賊たちの口から事情を説明されているのだから当然だ。


「事情を考慮し、何かしらの賠償で解決するつもりでいた」


 それが最初に捕らえた盗賊について報告した時の判断。

 ところが、事態は数日で一気に動くこととなった。


「だが、この数日で何百人もの人間が捕まった。さすがにこれだけの人数を多少の賠償で済ませるわけにはいかない」


 事態は当初の想定を上回るものとなった。

 いつも通りの事とは関わった出来事の規模が大きすぎる。


「いくら操られていたとはいえ彼らがしたことは事実です」

「我が領地でも商人だけでなく、騎士が襲われた報告もある」

「家臣の中には即刻処刑するべきだと言う者までおります」


 あくまでも盗賊として処罰するべきだと考える者。

 実際、被害者であると同時に加害者でもあり、襲われた人々にとっては盗賊の事情など関係ない。


「だが、ほとんどの者が反省しているのだろう」


 ある貴族が呟いた言葉が問題だった。

 彼らは自分たちの行いを悔やみ、反省しているからこそアジトの場所を告げることにも躊躇がない。


「お前たちの言いたい事は分かる」


 リオの言葉で紛糾していた会議室が静かになる。

 彼らが話し合っているのは、盗賊行為をさせられていた者たちにどれだけの責任があるのか、ということ。

 これは、少し話し合って結論の出るような問題ではない。


「ただ、自分たちに責任がないと思っていることも問題だ」

「何を言っているのですか。我々は完全に被害者ですよ」


 ある領主は村の備蓄を奪われただけでなく、村まで焼かれてしまった。とても損失の補填でどうにかなるものではない。


「お前たちも彼らがどのようにして盗賊となったのか知っているな」

「はい」

「なら、ここまで増えた理由は分かるか?」

「もちろんです。【洗脳魔法】の影響を受けたからです」


 元凶となるのは一人だけ。

 実際に盗賊として行動しているのは、操られているだけの大勢にすぎない。


「そうだ。グレンヴァルガ帝国の統治に不満を持つ連中が操られているんだ」

「……」


 ようやく領主たちもリオの言いたい事が分かった。

 ガルディス帝国を併呑した際、復興に従事することとなる北部に支援金が支給されるようになり、物と人が動くことによって北部全体が賑わうことで復興への従事を納得してもらった。

 実際、想定通りに以前とは比べ物にならないほど賑わうことになった。

 ただし、支援金の支給を続ける条件を一つ出していた。


「俺は『旧ガルディス帝国領の安定した統治』を命令していたはずだ。それも復興支援に含まれる。彼らが現状に不満を抱いているのだとしたら、解消する為に全力を尽くすのもお前たちの仕事だ」

「ですが、敵国だった場所にそこまでの支援は心情的に……申し訳ございません」


 反論しようとした領主がリオから睨まれて引き下がる。

 北部の領主たちは、ガルディス帝国との戦争に駆り出されていた。

 それが自滅したからと言って復興支援に尽くすなど、心情的には簡単には受け入れられなかった。


 それが分かっていたからこそ、リオは十分な支援金を用意することで感情を和らげることにした。

 ただし、その思いが報われることはなかった。


「現状はお前たちにも責任がある。自分たちでどうにかしろ」


 事態解決はリオやサンクンド男爵から俺に依頼されている。他の領主たちも今は反対していない。

 受け入れることができていないのは、報酬についてだ。


「盗賊に奪われた物は全て俺に所有権があります」

「ふざけるな! 奴らにどれだけの財産が奪われたと思っている!」

「けっこうな額になりましたね。おかげで借金の返済までもう少しのところまで稼ぐことができました」

「貴様! 盗賊に盗まれた物の中には騎士に預けていた当家の家宝だってあるんだぞ! 手元にあるなら、今すぐに返せ!」


 相手は冒険者。貴族の自分たちなら返してもらえて当然だと考えている。


「そういう訳にはいきません。こっちはそういう契約で依頼を引き受けているんです。返してほしいなら交渉には応じますから個別で話し合いましょう」

「くっ……」


 相手が歯噛みする。

 もちろん足元を見て金額を吹っ掛けるつもりでいる。向こうもそれが分かっているからこそ悔しく思わざるを得ない。

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