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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第16話 傾倒の誘い

「さて、冒険者だったお前たちがどうして盗賊なんてやっていたのか教えてもらおうか」

「答えるのは構わないけど、そいつらが同席しているのはいいのかい?」


 ジャニスの目が俺とアイラに向けられる。


「問題ない。彼らは今回の件の功績者だ。領主様からも許可をいただいている」

「そうかい」


 興味なさそうに答える。

 おそらく現状が正確に把握されたことで、自分の事すら本当にどうでもよくなっている。


「5日ぐらい前の話だよ。その日も魔物を狩って街に帰ったら、酒場で酒を飲んでいたんだ」


 少ない報酬を手に依頼を終えた後の楽しみで癒していた。

 ただし、ガルディス帝国が滅びた日から酒を飲んでいる最中に出てくる言葉は現状への不満ばかりだ。


 祖国の役に立っている。

 それ自体は非常に喜ばしいことだが、見方によってはグレンヴァルガ帝国に搾取されているようにしか見えない。自分たちの稼ぎがそのような扱いをされていて気分がいい訳がない。

 その日も酒を飲みながら愚痴を吐いていた。


「失礼。隣よろしいですか?」

「あん?」


 いくら相手が美女であろうと悪酔いしている女性に自分から近付こうとする男性はいない。

 だが、その男性はジャニスの状態に構うことなく隣に座った。


「美女がそんな顔をしてどうした?」

「別に……こんな生活がいつまで続くんだろうって思っていただけだよ」


 ジャニスの近くに仲間はいない。全員、酔った彼女に絡まれるのを怖れて離れていた。


「お前の言いたい事は俺も分かる」

「本当かい?」

「ああ。これでも昔は国の指示で魔法の研究をしていたんだが、その功績も国が滅びたことで何も意味をなさなくなってしまった。研究していた魔法も戦闘向きじゃないから今のガルディス帝国には歓迎されない」


 魔法使いは魔物討伐において重宝されている。

 だが、分かりやすい用途ではない魔法については嫌煙されるようになっていた。それだけの余裕がない。


「そうだな……ガルディス帝国が数年前の姿を取り戻すのに最低でも100年は掛かるだろう」

「そんなに!?」

「もちろん国全体の事を考えた時の話だ。南部や中央部だけなら、もう少し早く復興が終わるかもしれない」


 それでも数十年の時間を要する。


「そんなの……!」

「今みたいな生活は次の世代までは続くだろうな」


 実際、グレンヴァルガ帝国はそのつもりで行動していた。

 皇帝であるリオも自分が皇帝である間に大きな問題を解決し、ガーディル君に穏やかな復興を進ませるつもりでいた。

 最終的には、次の世代以降の尽力も必要になるだろうが、それを考えるのは次の世代にどのような問題を託すのか考えるガーディル君の仕事だと考えて何もしないようにしている。

 何が必要とされているのかは、その時にならないと分からない。リオがすべきは適切な判断ができるようガーディル君を育てることだ。

 だが、当事者であるガルディス帝国の人間には関係ない。


「このままだといけないと俺は思っている」

「だろうね。あたしは、このまま搾取され続けるような人生は嫌だよ」


 どうにかしたいとは思っている。

 ただし、具体的にどのような行動をすればいいのか分からない。


「簡単な話だ。俺たちが奪われた財産を奪い返せばいい」

「何を言って……」

「ガルディス帝国だった場所にも魔物の素材を加工することができる職人が残っている。だけど、君たちが狩った魔物の素材の中で貴重な部分はグレンヴァルガ帝国へと運ばれている。彼らは利益を自分たちだけで独占するつもりなんだ」


 貴重な部位がグレンヴァルガ帝国へ優先的に運ばれているのは事実だ。

 ただし、きちんと対価を資材や食料で支払っている。優遇しているだけであり、搾取している訳ではない。


「なっ……!」


 しかし、ただの冒険者であるジャニスはそのような事情など知らない。

 俺たちもリオから情報を色々と聞かされていたから知っていただけだ。

 真実を知らない者は、虚実を告げられても嘘だと見抜くことができない。それが自分たちにとって都合のいい事実なら尚更だ。


「取り戻そうとは思わないのか? 悔しくはないのか?」

「悔しくない訳ないだろ!」


 男の言葉に反応してジャニスが立ち上がる。


「なら、君たちにできることをすればいい」

「あたしたちにできること?」

「冒険者として護衛も引き受けてきたんだろう。だったら守る人間の思考は理解しているはずだ」

「……あたしたちに奪え、っていうのかい?」

「『取り戻す』っていうのはそういうことだ」

「取り戻す……」


 そこでジャニスは決意した。

 それが他人から後押しされた決意だったとしても決意をしたのはジャニスだ。


「あれ……?」


 酔ったせいか目の前の光景がグルグル回るのを覚えた。


「さすがにAランク冒険者を相手にするには時間が掛かるか」

「おまえ……」


 仲間が気になって酒場の様子を見る。

 しかし、全員が酔い潰れたように倒れていた。


「何をした……?」


 少し飲んだ程度で酔い潰れるなんてあり得ない。


「あなたたちは何も気にする必要はない。ただ、本能のままに動くだけでいい」


 気を失う直前、男の手に印章があったのをジャニスは目にしていた。



 ☆ ☆ ☆



「心当たりなんてこれぐらいだよ」

「なるほど」


 凡その事態は把握することができた。

 以前に暴れていた盗賊もジャニスが目撃した男が裏で手を引いていた可能性がある。気絶する直前に手にしていた印章から無関係だと思えない。


「唆されたけど、それからは他人の物を奪うのに躊躇がなくなったんだ」

「今はどうなんだ?」

「こんな場所にいることも関係しているんだろうけど、そういった気は微塵もないね。どうしてあの頃はあんなことを考えていたのか分からないぐらいだよ」

「そうか」


 ジャニスから強奪の気が失せているのはメリッサが【隷属魔法】を強制的に砕いたからだ。

 見たところ今は後遺症や影響もないようだし、とりあえずは安心できた。


「反省もしている。命までは戻せないけど、奪った物ならアジトにしていた洞窟で保管しているから返してほしい」

「アジトの場所は?」


 本気で後悔しているジャニスは拍子抜けするほど簡単に教えてくれる。

 ここからだと少し離れているけど、全力で走れば数十分で辿り着くことのできる場所だ。アジトには最低限の留守番しかいないみたいだし、誰も戻って来ない状況を心配して変な行動を起こされても困る。


「アジトへは俺と仲間が行きます」

「お願いします」


 バルガスさんから許可ももらえたことで気兼ねなく向かうことができる。


「頼む。それで少しでも償いにしてくれ」

「……何か勘違いしているみたいだな。その財宝は全て俺たちの物だ」

「は?」


 依頼を引き受ける上で討伐した盗賊が奪った財宝は全て俺たちの所有物にしていい契約になっていることを伝える。

 中には家宝なども含まれているため、どうしても返却してほしい場合があるだろうけど、その時は別途交渉が必要になる。

 ジャニスたちに所有権などない。

 所有権のない物で償いなどできるはずがない。


「ちょ……」

「お前たちは洗脳に近い状態にあった。それを領主たちがどう捉えるのか俺には分からない。だから、償うつもりがあるならこれから自分の力でやるんだな」

「あ、ああ……」


 彼女も少し前までは冒険者だった。

 だから依頼における契約がどれだけ重要なのか理解している。


「アイラ」

「なに?」

「メリッサ以外を連れて教えてもらったアジトへ行け」

「行くのはいいけど、二人は何をするの?」

「大規模な狩りの準備だ」

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