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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第14話 女盗賊―中―

 馬車の護衛を倒したかと思えば、いきなり現れた冒険者。

 目の前にいるのは4人だけど、他にもいるのは間違いない。馬車に乗り込もうとしていた部下を攻撃したのは魔法だ。4人とも魔法が使えるぐらい魔力を持っている。けど、その性質は魔法使いとは違う。


『油断するんじゃないよ』

『はい』


 通信用の魔法道具で部下に伝える。高価な魔法道具であるため全員に行き渡らせることはできないけど、指揮する立場にいる5人に伝えれば十分。

 あたしの隣にいたマリガが剣を手にして駆ける。

 けど、あいつらの元へ辿り着く前に肩から血を流して倒れる。


 剣士の女が軽やかな動きでマリガの肩を斬って跳ね回る。


「眠ってなさい」


 そうして剣の柄でマリガの頭を叩くと眠らせる。


「チィッ!!」


 舌打ちするとハルバートを振りかぶる。

 けれども、後ろからの攻撃にもかかわらず剣士の女が反応して剣であたしの攻撃を受け止める。


「どういう、力をしているんだい……!」


 全力で押し込む。

 だけど、剣士の女は涼しい顔をしてあたしのハルバートを受け止めていた。


「えっ、もうちょっと……? まあ、いいけど……」


 剣士の女の表情がコロコロと変わる。

 最終的に戸惑った表情になると剣を振り上げる。その時の衝撃でハルバートも振り上げられて後ろにバランスを崩しちまう。


「このまま負けるなんて納得いかないでしょ。付き合ってあげる」


 剣士の女の言葉を聞いた瞬間、あたしの中で怒りが沸き起こるのを感じた。

 あいつの実力を考えるなら、マリガを最初の一撃で殺すことだって簡単はずだ。けど、それをしなかった。理由はいくつも考えられる。ただ、どの理由だったとしても手を抜いているのは間違いない。


「お前たち、全力で戦いな」

『はい』


 盗賊なんてやっているんだ。襲撃している以上は、襲った相手を殺すつもりで最初からいる。

 向こうが手加減している理由は分からない。けど、こっちまで相手を気遣う理由にはならない。


「手加減していることを後悔させてやる」


 目の前にいる剣士に向かって言う。

 けど、怒気を含んだ言葉を受けても剣士は平然としていた。


「大丈夫。あたしたちなら片手間で済ませられるからね」


 その言葉通り、部下が次々とやられていく。

 木の上から弓で狙撃しようとしていた奴は、男が地面に落ちていた石を投げて木の上から落ちると、落ちた時の衝撃で気絶する。

 岩の陰にいた奴は、突然の戦闘再開に出るタイミングを伺っているうちに青い髪の剣士に触れられると気絶していた。

 最も厄介なのは魔法道具で何もない所で姿を消していた奴だ。見えていないはずなのに隠れている場所の正確な位置が分かるらしくて、獣人の女が振るう杖に叩かれて昏倒している。魔法道具の効果を阻害するから、あいつらは最低限の防具しか身に着けていない。


「分かった?」


 あたしにとって最も許せないのは赤い髪の剣士だ。あたしと力比べをしているって言うのに飄々としている。

 油断なんかじゃない。本当に余裕があるんだ。


「何者だい?」


 周囲を見れば動けるのは数人だけになっていた。

 こいつらを相手に逃げ切る自信なんてない。


「さっきも言ったように盗賊討伐の依頼を受けた冒険者よ」

「どうして殺さないんだい?」


 盗賊なんてやっているんだから覚悟はしていた。

 人の財産を奪うだけじゃなくて、命まで奪うことだってあるんだ。自分の命がいつかは奪われない保証はない。

 基本的に盗賊討伐は命懸けだ。

 例外は討伐される者と、討伐する者の間に圧倒的な力の差がある時ぐらいだ。


「ああ、そうかい」


 こいつらはあたしたちより圧倒的に強い。

 あたしたちみたいに強い盗賊は、生きたまま奴隷商まで連れて行けば高値で売られることになる。

 それが可能なだけの力を持っている。


「なにか勘違いしていると思うけど、あたしたちが殺さないのはそっちの都合に合わせてあげたのと、こっちにも都合があったから」

「ふんっ!」


 その言葉にあたしを馬鹿にしたような気持ちはない。

 それでも訳の分からない言葉に耳を貸すような真似はしない。ハルバートを構わずに叩き付ける。


「何でも力で解決しようっていうのは止めにした方がいいわよ。ま、仲間に頼ってばかりのあたしに言えたセリフじゃないけどね」

「おまえ……!」


 不意を衝いたつもりの攻撃だったけど、防がれてしまった。

 いつの間にか周囲が静かになっている。


「チッ」


 周囲に意識を向ければあたしのことを見ている気配が3つある。仲間のものじゃない。


「全員やられたのかい」


 このままやられるつもりはない。

 せめて目の前にいる女に攻撃ぐらいはしないと気が済まない。


「失礼」

「……!?」


 背後から声が聞こえる。

 すぐにでも攻撃したいところだけど、ハルバートを剣士に押さえ付けられているせいで後ろを向けない。

 どうにか首だけを動かして背後を確認すると、4人以外の奴がいた。


「おまえか!」


 最初に魔法で攻撃してきた奴。

 背後に現れた女の出で立ちからして魔法使いだ。


「あんたらの顔は覚えた。次はこっちから出向いて仕留めてやるよ」

「次はないことを祈ります」


 魔法使いの両手があたしの背中に当てられる。

 そこで、あたしは意識を完全に手放した。



 ☆ ☆ ☆



「ふぅ」


 メリッサが疲労から溜息を吐く。

 慣れない作業による疲労が溜まっていた。


「ご苦労様」


 彼女がしていた作業は、彼女にしかできない。

 俺にできるのは労うことぐらいだ。


「気にしないでください。最初に提案したのは、シルビアさんと私です」


 メリッサが倒れている人間を視界に捉え、次々に手をかざして魔法を放つ。

 倒れている人間に向かって魔法を放つなど死人に鞭を打つような行為だが、これは【回復魔法】に近い代物だ。


「終わりました」


 倒れている人に外傷はない。

 それでも破壊するべきものは破壊することができた。


「みんな、解放されたの?」

「とりあえず【隷属魔法】を解除することには成功しました」


 メリッサを隠すべく一緒に隠れていたシルビアが尋ねる。

 盗賊のおかしな様子に最初に気付いたのはシルビアだ。


「あの人たちから妙な気配がしていたけど」

「それは取り除きました」


 【隷属魔法】の痕跡を捉えたメリッサだったが、近くに隷属させる魔法道具を見つけることはできなかった。

 単純に見つけることができないのか。

 それとも近くにはないのか。

 どちらにしてもすぐに見つけるのは難しい。


 そこで、魔法によって強制的に破壊することを思いついた。ただ、破壊する為の魔法を構築する為には、隷属させられている人の様子を詳しく見る必要があった。


「シルビアさんのおかげで隷属魔法を破壊する準備はできました。ですが、強制的に破壊したことで後遺症があるのか、隷属させられた影響がどの程度あるのか分かりません」


 その辺りのことは起きてみないことには分からない。


「問題はこちらの方ですよ」


 地面には血を流して倒れている死体もある。

 俺たちが到着する前に倒されてしまった護衛たちだ。


「失礼します」

「な、なんですか!?」


 商人の馬車は近くに残っていた。

 戦闘が始まってから逃げ出す為の勇気を振り絞ることができなかった。


「俺たちの実力は見ていたからわかりますね。イリスとノエルの二人を護衛に就けますから街まで戻ってください」

「他の方々は……?」

「残りは、この場所をどうにかする必要があるんです」

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