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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第13話 女盗賊―前―

 街道の脇から黒い外套を纏った10人が馬車の前に姿を現す。


「そこの馬車、止まりな!」


 御者が耳にしたのは意外にも女の声。

 10人の手には武器が握られている。


「姉御、金の匂いがしますよ」

「そうだね。何を積んでいるのか知らないけど、高値で売れそうだね」


 馬車の前に現れたのは、声を掛けた女性以外も全員が女性だった。

 たとえ女性が相手であろうと街道を利用する商人の馬車を止め、積み荷に狙いを定めている事から旅人などではないと予想できる。


「よ、よろしくお願いします!」


 御者が馬車の近くにいた男性に声を掛ける。

 商人が護衛として雇った5人組の冒険者だった。Bランク冒険者を筆頭とし、他の者もCランクであるため冒険者ギルドも実力を保証する護衛だった。


「ああ、任せておきな」


 御者の声に応える冒険者。

 だが、その声を聞いた女盗賊は腹を抱えて笑い出した。


「はははっ! 冒険者って言ってもそんな奴らで、あたしらから守ることができるのかい?」

「……どうやら相手の実力も分からないような盗賊らしい」


 男性冒険者が呆れるような視線を女盗賊に向ける。

 力に自信のある盗賊は冒険者を見下す傾向がある。そして、実力を信頼して護衛を依頼されているのだから期待に応える為にも冒険者は盗賊相手に負ける訳にはいかない。

 目の前に立ちはだかる10人の女盗賊に向けて武器を抜く。


「分かっているな」

「ああ」


 護衛が警戒しているのは10人だけではない。近くにある岩の陰、離れた場所にある木の上。伏兵として忍ばせている複数の気配を感じ取っていた。

 油断のならない相手と警戒する。


「ぁ……」


 護衛の一人が呻き声を上げながら倒れる。

 盗賊に対して警戒していた護衛は仲間の急な反応に気付くのが遅れてしまった。それでも即座に意識を切り替える。


「警戒!」


 倒れた護衛の首にはナイフが突き刺さっていた。

 隠れている場所を把握することができている盗賊が動いた様子はない。つまり、何かしらの攻撃を受けたのなら彼らが把握していない場所からの攻撃になる。


 いったい、どこから……?


 不安に駆られながらも場所を把握することができないのだから全方位を警戒するしかない。

 お互いに背を預けて周囲を警戒する。


「そこ!」


 パーティの中で唯一の魔法使いが風の刃を放つ。

 何もない場所を駆け抜けるはずだった風の刃が何かを切り裂き、布切れが宙を舞う。すると、風の刃が通り抜けた場所の横に人影が現れる。


 外套を纏っていた女性が効力を失ったため周囲の景色と同化することができるようになる魔法道具を捨てる。肉眼で捉えるのは難しくなるが、魔法使いのように魔力の探知に長けた者ならば隠れる為の魔力を探知して位置を補足することも可能だし、気配の探知に長けた斥候なら隠れていても見つけることができる。

 だが、護衛たちは目の前に姿を現した者、岩や木に隠れている者。どちらも捕捉することができていたせいで逆に他への警戒が薄れてしまった。

 おかげで味方が一人減った。


「どうする?」

「……やるしかないだろ」


 盗賊が隠れる為に使用した魔法道具の存在は護衛も知っていた。しかし、そんな魔法道具を購入するとなれば大金が必要になる。とてもではないが盗賊が手に入れられるような代物ではない。

 この段階になって盗賊たちの評価を改めた。


「全力で行くぞ」

「おう!」



 ☆ ☆ ☆



 数分後。

 盗賊と護衛の戦闘が起こった場所では、男の護衛たちが地面に倒れて血の海に沈んでいた。身動きできる者は一人もおらず、全員が死んでいるのは地面を赤く染める血の量から簡単に予想できた。


「こんなものかい」

「仕方ないですよ、姐さん」


 戦闘を終えた女盗賊は男たちの実力に呆れていた。


「さて、戦闘はここまでだ。ここからは襲撃の時間だよ」

「ひぃ……!」


 目の前で繰り広げられる激しい戦闘についていくことができず、逃げることすら思いつくことができなかった商人が逃げようとする。

 だが、そんなことを盗賊が許すはずもない。


「馬車ごと積み荷を置いて行ってもらおうか」

「そんな……!」

「断れる立場だとでも思っているのかい?」


 護衛は全滅してしまった。

 商人も護身に武器を持っているものの無傷で護衛の全員を倒してしまうような盗賊を相手に戦うことなどできるはずもない。


「命は助けてもらうことができるんですか?」

「ああ。あたしたちだって、あんたらの命が欲しい訳じゃない。こいつらは、あたしらの邪魔をしようとしたから殺したけど、積み荷さえ渡してくれれば命まで奪うつもりなんてないんだよ」


 商人が思案する。

 積み荷を諦めることさえできれば見逃してもらうことができる。だが、商人にも生活があるため積み荷を渡してしまうのは避けたい。


「……分かりました」

「物分かりがいいじゃないか」


 利益も大切だが、それ以上に命が大切だ。

 積み荷を諦めると馬車から降りる。


「やりましたね」


 一人の女盗賊が馬車を覗く。


「けっこうな量を積んでいますよ」

「そうかい。1台しかなかったから期待はしていなかったんだけど、あたしら全員がしばらくは生活できるぐらいには積んでいたようだね」


 護衛は殺した。

 馬車と馬は完全な状態で奪うことができ、このまま馬車を動かしてアジトまで移動するだけでいい。


「ずらかるよ」

「はい」


 部下の一人が御者台へ乗り込もうとする。


「モア!!」

「どうしまし……い゛っ!?」


 後ろから掛けられた声に馬車へ乗り込もうとしていた女盗賊が振り返る。

 だが、リーダーである女盗賊を目にするよりも早く、遠くから飛んできた目に見えない弾丸が額に当たって御者台に倒れる。

 何者かからの襲撃。


「どこだい!?」


 惚けていたのは一瞬。

 すぐに気持ちを立て直すと弾丸が飛んできた方向に向かって叫ぶ。


「どうも」


 隠れていた木の陰からアイラ、イリス、ノエルを連れて姿を現す。

 後ろではシルビアとメリッサも待機しているが、彼女たちはシルビアの【隠密】で姿を消している。

 早々に姿を現したことで女盗賊が戸惑っていた。


「攻撃してきたのは、あんたたち4人かい?」

「そうですよ」


 二人の存在を教える必要はない。

 今のメリッサには落ち着ける時間が必要だ。


「盗賊討伐の依頼を受けた冒険者です。適当に走っていたところ騒ぎを見つけたので、慌てて駆けつけたんですけど……遅かったみたいですね」


 適当に走っていた、というのは嘘だ。街を出る前に使い魔を放って盗賊を探したところ、襲われているところを見つけて駆けつけた。

 もっとも、間に合わず残念に思っているのは本当だ。


「そっちは32人ですか」

「おまえ……!」


 障害物に隠れている者だけではない。

 魔法道具によって姿を隠している者まで含めた人数だ。こっちもシルビアが似たような方法で消えているのだから警戒するのは当然だ。


「できれば投降してもらえませんか? そっちの方が俺たちの面倒がなくて楽できます」

「随分となめられたもんだね」


 格下に見られては冒険者に護衛はできない。

 同様に盗賊も恐れられる存在でなければ稼ぎが得られない。


「この人数差を前にしても勝つつもりかい?」


 こっちは4人しかいない。

 先ほどの護衛は実力者だったにもかかわらず奇襲を受けて減ったとはいえ、4人で倒されてしまった。

 条件は同じ……ように思える。


「そっちこそ覚悟した方がいい」


 盗賊が武器を抜くのに合わせて、こちらも武器を抜く。

 ただし、全員が低ランクの武器を手にしており、ステータスも意図的に下げている。


『3人とも、分かっているな?』

『「殺すな」でしょう?』

『本当なら盗賊は殺しても文句は出ないけど……』

『この人たちを殺すのはちょっと……』


 3人とも戦う意思はある。

 ただし、相手の状態を思って強気に出ることはできなかった。

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