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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第11話 盗賊の財宝

 洞窟を司令蜘蛛(コマンダースパイダー)の案内に従って進む。


「おおっ!」


 案内されたのは財宝をまとめて置いてあった部屋。

 部屋と言っても洞窟の広い行き止まりの前に鋼鉄製の頑丈そうな扉を設置しただけの場所。とはいえ、普通の冒険者なら壊すことができず、中に収められている財宝をどうにかすることはできない。

 中へ入る為にはどこかにある鍵が必要となる。探せば見つけられるだろうし、元から盗賊だった者たちの誰か……おそらくボスが所持しているだろうが、態々探しに行くのも面倒だ。


 バキッ、ゴキッ!!

 扉を押すと、嫌な音が扉から聞こえる。

 壁や天井に固定されていた扉だったが、無理矢理にでも押し開かれれば固定具が耐え切れずに壊れてしまう。


「力任せね」

「これが一番簡単な方法だろ」


 隣にいるアイラが呆れている。


「お!」


 部屋に入ったところで地面に散らばった扉の破片を避けて蜘蛛の魔物が近付いてくる。

 密閉されていた財宝部屋だが、洞窟だった場所に部屋を造ったことで完全な密室を造るには至らなかったため僅かな隙間ができてしまった。だが、そんな隙間から侵入することができるのは蜘蛛みたいな小型の魔物ぐらいだ。


「ご苦労様」


 労ってあげるとほとんど変わらない蜘蛛の魔物の顔が綻ぶ。

 事前に偵察をしてくれていたおかげで、扉の先が財宝部屋だと知ることができ、無駄な探索をする必要がなくなった。


「随分と貯め込んでいたみたいだな」

「人員だけには苦労しなかったからでしょ」


 実際の盗賊は3人。

 それでも魔法道具を使えば自分たちの味方に仕立て上げるなど簡単だったため、気付いた時には大規模な盗賊団になっていた。


 部屋には色々と高価そうな物がある。

 馬車に積み込むなら何十台も必要になる量だ。普通なら一度に持ち帰れる量に限りがあるため持っていく物を吟味してしまうところだ。もし、持ち帰っている間に誰かが盗賊団のアジトを訪れ、財宝を持ち出されてしまうようなことになれば目も当てられない。

 だから少しでも価値のある物から持ち出す。


「ま、俺たちには関係がないけどな」


 【迷宮魔法:道具箱(アイテムボックス)】があれば財宝はいくらでも持ち出すことができる。

 だが、収納する前に何があるのか確認する必要はある。

 財宝部屋は、かなり広い。端の方には樽や木箱などが雑多に置かれている。


 木箱の一つから小さな蜘蛛の魔物が頭を出す。中には食料が収納されており、甘い匂いに耐え切れず食べてしまった口の周りに果汁がついていた。


「こんなに汚しちゃって」


 ポケットから取り出したハンカチで口元を拭ってあげる。


「まだダメなのか?」


 蜘蛛と触れ合うのも離れた場所から見ているアイラ。

 ノエル以外は蜘蛛が苦手で、以前は見るのも難しく、巨大な蜘蛛型の魔物を前にした時は主である俺を置いて逃げてしまう始末だった。


「いやいや……! さすがに慣れることはないから」


 蜘蛛の魔物を見れば即座に斬れるだけの精神は身に着けた。

 しかし、目の前にいるのは味方だ。敵なら容赦なく斬るのは問題ないが、味方の魔物を斬り捨てる訳にもいかない。

 まあ、今のやり取りだけでショックは与えた。蜘蛛の魔物が項垂れている。


「ああ、違うの……! そういうつもりじゃなくて!」

「ちゃんと謝っておけよ」


 アイラの失言によるものなので、彼女に任せるしかない。


「なるほど。どうして食料を財宝部屋にしまっているのか不思議だったけど、こいつは簡単に売るわけにはいかないな」


 蜘蛛の魔物が隠れていた木箱に収められていたのは、高級な果物だった。瑞々しく甘いことから好んで食べる貴族もおり、高値で取引されることもある。

 価値の分からない平民を相手に売る訳にはいかない。

 そこで、状態を保存することができる魔法道具の箱の中に入れて、財宝部屋で保管することにしていた。

 普通の食料なら自分たちで食べてしまう。だが、財宝部屋に置かれている食料は文字通りに財宝だった。


「ありがたくちょうだいしよう」


 シュッと消える。


「他のも収納してしまえ」


 武器や防具、それに見ただけでは用途の分からない魔法道具なんかも問答無用で収納する。

 中には金貨を詰め込んだ樽もあった。装備品は同じ物が多く、運んでいる途中の商人を襲って奪ったことが予想できる。商人なら大金を所持していてもおかしくない。


「盗賊が所持していた宝物の所有権は、盗賊を討伐した者にある。こいつらが貯め込んでいてくれたおかげで稼げたな」

「ううん……平和の為には盗賊が稼げていない方がいいんだろうけど、盗賊が稼げていたからあたしたちも儲かっているわけで……」


 アイラは矛盾した現象に頭を悩ませていた。

 盗賊のアジトから財宝を持ち出したが、この財宝には元々の所有者がいる。今も生きているのかは定かではないが、彼らに損をさせていることになる。


「こう言ったら悪いけど、盗賊に遭遇することを想定して護衛を用意していなかった人たちに問題があるんだ」

「でも……」

「そういう事態に備えて俺たち冒険者がいるんだろ」


 ただし、奮戦はしていたようだ。

 木箱から1本の剣を取り出す。


「それは……」

「商人を守っていた護衛が使っていた剣だろうな」


 盗賊が自分で使う武器なら財宝部屋に置いておくはずがない。こんな厳重に守られた部屋ではいざという時に使うことができない。

 そして、拭き取られた形跡があるが剣に血が付着していた。魔物とは違う、人間の血だ。


 護衛がいれば、戦って盗賊を斬ることもある。

 だが、戦っていた時に使っていた剣がこの場にあるということは、剣を手放さなければならない状態に陥ってしまった証だ。せめて命だけは助かっていることを祈るしかできない。


「ぅ……」


 呻き声と共に部屋の隅で倒れていた男が立ち上がる。薄汚れた服を着ており、いかにも盗賊だといった風貌だ。

 財宝部屋でガチャガチャと音を立てていたせいで起きてしまった。

 ただ、見た目は盗賊でも彼は盗賊ではない。


「いったい……俺は何をしていたんだ?」

「夢を見ていたんだよ」

「……夢?」


 近付いて囁くと男が反芻する。


「そうだ。すべては夢なんだ」

「……ああ」

「だから眠っていろ」


 首に衝撃を受けた男が再び崩れ落ちて意識を手放す。


「これでいいの?」


 アイラの攻撃が原因だった。


「この人たちは被害者なんだ。いくら隷属していたとはいえ、多くの人を襲った事実が消える訳じゃない」


 事情を説明し、情状酌量を与えてもらうつもりでいる。

 それでも襲った事実が、被害者であるはずの彼らを苛むことになる。

 なら、全ては夢だったと勘違いして眠ってもらった方がいい。


「これで今回の依頼は終わりだ。被害者――売られた人だけじゃなくて、盗賊にさせられていた人たちの事は心配だけど、ここから先のケアは領主や皇帝の仕事だ。あとは彼らに任せることにしよう」


 そう。リオから頼まれた仕事は終わった。


 ――だが、本当の意味では終わっていなかったことをこの時の俺たちは誰も気づいていなかった。

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