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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第8話 囚われの令嬢

「ふあ~あ」

「おい」

「だってよ、退屈なんだよ」


 牢の前には二人の男がいる。

 彼らの役割は、牢の中で捕らわれている者たちが逃げ出さないよう見張っておくこと。もっとも、今の牢にいる者たちでは逃げ出すのを警戒する必要などない。


「こんな場所で見張りをしているぐらいなら、外で見張りをしている方が気は紛れるさ」

「ああ、なにせ全く反応がないからな」


 牢の中には十数人の人間がいる。

 だが、いくら夜とはいえ盗賊に捕らわれている状況で全く反応しないのはおかしい。


「目の前にごちそうがあるんだから、ちょっとぐらい楽しませてくれればいいんだけどな」

「バカ……こいつらは商品なんだよ。手なんか出して商品の価値を下げたらどうする!? あの野郎がどうなったのか忘れたのか?」

「悪い。あまりに暇だったんで」


 盗賊に捕まった者の末路は悲惨だ。捕まる前と同じ状態で元の生活に戻れる方が稀だ。

 盗賊も己の力に任せて捕らえた者を貶める。

 このアジトにいる盗賊は、捕らえた相手を高値で売り飛ばすことを目的にしているが、それでも我慢できない者は出てきてしまう。


「ま、俺は嫌がる女を相手にした方がいいからな。こんな何の抵抗もしない奴らを相手にしたってつまらないさ」

「そうか? これはこれで従順だって言えるから楽しめるぞ」


 下種な笑みを浮かべながら牢の中にいる女性たちを見る盗賊たち。

 そんな目で見られれば怯えてもよさそうなものだが、やはり無反応なままだ。


「もう、いいだろう」

「……ん? 何か言ったか?」

「ははっ、なに言ってるんだよ」

「それもそうだ……っ!?」


 言葉の途中で男がガクッと崩れ落ちる。

 それを見ていただけの男も意識を失って崩れ落ちた。


「どうしますか?」


 【迷宮魔法:睡眠】で眠らされた男たちは最低でも数時間は目を覚まさない。


「適当に放り出しておけ」

「では――」


 牢は頑丈だけで鍵がされていなかった。牢を開けるとシルビアが盗賊たちを放り込む。


「……やはり反応を示しませんね」


 自分たちを捕らえた盗賊が同じ牢に入れられた。

 恐怖に怯えた者なら離れようとする。

 憎しみに駆られた者なら憂さ晴らしに攻撃をしてもおかしくない。

 だからこそ、全く反応を示さない状況が不気味でしかなかった。


「……」


 そんな中、一人だけ反応を示す人物がいた。

 反応、と言うには小さなものだが、たしかに視線だけを横に向けて様子を見ている。


「もう大丈夫よ」


 笑顔を浮かべて見られている方向へ顔を向ける。

 そこにいたのは少女。敵意はなく、必死に怯える感情を抑えようとしていた。

 そんな必死な様子にシルビアが気付かないはずもなく、少女を安心させる為に笑みを浮かべた。


「ぁ……」


 安堵した瞬間、思わず少女の口から嗚咽が漏れてしまった。

 他に捕まっている人たちにはない反応。


「君は何もされていないみたいだね」

「ち、違うんです……」


 少女の口から必死に言葉が紡がれる。


「これ……」


 首から下げていたネックレスが外される。


「毒とかを防いでくれるお守りなんです」

「見たことがある」


 後ろで警戒をしていたイリスがネックレスを知っていた。


「貴族は毒殺とかに警戒しないといけないから状態異常を防いでくれる魔法道具を持っていることがある。このネックレスも魔法道具の一つなはず」


 言われればネックレスから微量ながら魔力を感じる。魔法道具である証だ。

 効力は毒などの状態異常を防ぐ。単純だからこそ効果的な力を発揮してくれたのだろう。


「何があったのか説明できる?」

「私たちは貴女を助けに来た」

「はい……」


 イリスの『助けに来た』という言葉を聞いた瞬間、少女の目から涙が零れた。


「わたしはリタ。サンクンド家の者です。護衛やメイドと一緒に出掛けた帰りに捕まったんです」

「お父さんから話は聞いている。すごく心配していたよ」

「お父様が……」

「無事だけなのは君だけかな?」

「はい。一緒に捕まった者は全員が正気を失ってしまいました」


 メイドのうち3人はアジトからもいなくなった。それがフレイたちの事だ。

 そして、奴隷商に引き渡されるのを待っているのが一人だけ牢に残されていた。彼女は盗賊の慰み者となってしまったため価値が下がり、盗賊たちも扱いに困っていたため残されていた。


「わたし、すごく怖くて……」


 正常な精神のままでいる事が知られれば自分も同じような目に遭う。襲われたメイドを申し訳なく思いつつも必死に心を閉ざすことにした。


「もう大丈夫だからね」


 優しくシルビアがリタを抱きしめる。

 思わず縋り付きたくなるが、重要な情報を話していないことを思い出してハッと離れる。


「あの、護衛だった者たちも助けてください」

「うん? どこか別の場所にいるのか?」


 アジトの地図を確認するものの、ここ以外に人が捕らえられている牢は見つからない。

 盗賊は全員が奥にある広間で寛いでいる。


「このアジトにいます」

「まさか……」


 強い目は間違ったことを言っていないことの証だった。

 だが、アジトに盗賊らしき者以外に人がいないのも間違いない。


「はい、洗脳されて盗賊にさせられています」


 リタの護衛だった二人の騎士。

 人間を主に忠実な奴隷にすることが可能なら――捕らえた者を自分と親密な仲間に仕立て上げることも可能だ。

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