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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第8章 食材狩猟
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第1話 酔い

 一人、酒場のカウンターに座ってエールを飲む。

 隣にはシルビアたち眷属の姿はない。

 俺が外で酒を飲むときは基本的に一人だ。


 なぜなら……


「おう、今日も飲んでいるみたいだな」


 右隣の席にブレイズさんが座ってきた。


「儂もいるぞ」


 左隣にはグレイさんが座ってきた。

 ここは酒場だから空いている席に座ったところで文句を言うわけにはいかない。


「で、今日は何杯目なんだ?」

「……3杯目」


 聞いてきたブレイズさんから視線を逸らしながら答える。


「その割には酒が進んでいないみたいだな」

「冒険者ならこれぐらいの酒は飲めないといけないぞ」


 俺の手の中にあるエールの入ったコップを見ながらニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 くっ、だから知り合いと飲むのは嫌なんだ。


「俺だって飲めるなら水のように飲みたいし、酔っ払ってテンションを上げてみたいさ」


 けど、俺はどれだけ酒を飲んでも酔っ払うことができなかった。

 頭が痛い。吐き気がする。

 そのため3杯以上飲むことができないでいた。


「ま、それでも最初に比べればマシになった方じゃないか」


 初めて酒を飲んだのはブレイズさんたちと一緒にやった依頼の完了を祝して酒場で飲んだ時だ。


 この国では、成人すると飲酒が認められるようになっており、15歳で成人したと見做される。両親が酒を飲んでいるのを見ながら律義にルールを守っていた俺は人生で初めて酒を飲んだ。

 結果、たった1杯でトイレに駆け込むことになった。


 ……あれは、悲惨だった。


 その後、酒を飲んで慣れてきたこともあってどうにか3杯目までは耐えられるようになった。


「顔真っ青だよ。そろそろ止めた方がいいんじゃない」


 酒場で給仕をしているミシェーラさんが呑むのを止めるように言ってくる。

 けれど、ここで止めるわけにはいかない。


「何事にも慣れが大事だ。今日こそ4杯目を飲んでみせる」


 3杯目のエールを飲み切った。


「マスター、エールをお願い」

「これでも薄めたやつなんだけどね」


 マスターから受け取ったエールをチビチビと飲む。

 俺には、もうこれが限界だ。


「そんな飲み方だと美味しくないぞ」


 俺が頼んだエールよりも度数の高い酒を頼んだグレイさんが一気飲みをしている。

 その表情は、すごく美味しそうだ。


「分かっていますよ」


 生前の父は仕事から帰って来ると夕食時に酒を嗜む人だった。母も父に付き合って平気な顔で晩酌をしていた。兄も時々だが、飲んでいるのを見たことがある。

 成人している家族の中で俺だけが酒を飲めない。

 迷宮主(ダンジョンマスター)になれる条件のこともあるし、家族と本当に血が繋がっているのか疑わしくなってきた。


「酒ばかり飲むから具合が悪くなるんだよ」


 マスターが漬物を出してくれた。

 たしかに胃が落ち着いていく。


「とはいえ、俺も先輩たちと飲んでいる時に酔えないのは困るんです」


 依頼を終えた冒険者のみんながテンションを上げているにもかかわらず、1人だけテンションの下がっていく俺。

 せめて一緒に酒が飲めるようになりたい。


「やれやれ、あれだけ強い冒険者なのに意外なところに弱点があったよな」


 ブレイズさんは俺と同じエールを頼んでゆっくりと飲んでいた。

 キツイ酒を頼んで多く飲みたいグレイさんとは違って、ブレイズさんはその場の雰囲気を楽しみながら酒をゆっくりと飲みたい人だ。


「この子は、そんなに強いのかい?」

「ああ、久しぶりに仕事を一緒にしたけど、俺の想像以上だったよ」

「前に魔物1000体を1人で倒したっていうのもあったね」

「たしかにインパクトで言えばそっちの方が凄いけど、俺たちが6人掛かりで苦戦させられていたゴーレムをコイツは1人で粉々にしていたんだぜ」

「それは、凄いね」


 何年も冒険者を相手に酒場で商売をしてきただけに魔物を1000体相手にしたり、ゴーレムを粉々にしたりすることの難しさについてはマスターもそれなりに理解していた。

 ただ、ブレイズさんの言葉を信じられないような状態でいるのは、ブレイズさんが俺によくしてくれる人だからであり、俺の姿から強そうには見えないからだ。


 酒場の中を見渡すと強そうな冒険者は何人かいる。

 実際、俺よりもランクの高いAランク冒険者だっているし、ベテランと呼ばれるだけの実績がある。


 そんな彼らは前衛なら体ががっしりとしており、素人が見ても鍛えられているのが分かる。

 逆に後衛の魔法使いなら杖を持ってローブを着ており、賢そうなイメージを抱かせてくれる。


 けれども俺は、そのどちらにも当てはまらない。

 体は筋肉が鍛えられているわけでもなく、着ているのはローブではなく動きやすい真っ黒なコート。


「まあ、冒険者の強さは見た目で判断するべきではないですからね」


 そう言ってコップを磨き始める。

 酒場の中は未だに喧騒に包まれて騒がしい。


「そういえば聞きたいことがあったんだよ」

「なんですか?」

「シルビアちゃんたちとは、もうやったのか?」

「なんのことですか?」


 適当にはぐらかす。


「そういう反応をするっていうことは、もうやったんだな。せっかくだから近い内に酒の次は女でも教えようかと思っていたんだけどな」

「な、何を……」


 こういう反応がいけないんだと分かっていても酒のせいか思考能力が鈍っている。


「前に誘った時は顔を赤くして逃げ出したぞ。それが今は、酔っているせいかもしれないが、顔を赤くすることもなく落ち着いている」

「なるほどな」


 ブレイズさんの指摘にグレイさんも頷いている。

 たしかシルビアと会う少し前に誘われた記憶がある。あの時は、色々と理由を述べて先に帰らせてもらった。


「ただ、気になるのは誰が本命なんだ?」

「本命も何も彼女たちは、けん……仲間ですよ」


 危ない。危うく眷属と言うところだった。


「チッ、全員とやっているのかよ」


 ブレイズさんが残っていた酒を一気に飲み干してマスターにお代わりを頼んでいる。


 俺としては3人の眷属は、彼女などではなく仲間として見ている。

 けれども女性として好ましく思っているのは間違いないし、していることはしているのでそういう間柄と言っても問題ない。


「で、料理の上手な愛しの彼女を家に置いてこんな場所で酒を飲んでいていいのかよ」

「こんな場所で悪かったね」

「一応、シルビアには夕食がいらないことを伝えてから飲みに来ています。たまには1人になって酒を飲みたい日だってありますよ」


 シルビアに与えたちょっとした休暇のつもりだ。

 俺が屋敷にいれば、俺の世話を優先させてしまうので休ませようと思うなら俺が屋敷にいない方がいい。

 メリッサは実家の方に帰っているし、アイラはいつの間にかいなくなっていた。


「とはいえ、いつまでも帰らないのもマズいので今飲んでいる4杯目を飲んだら帰るつもりです」

「まだ飲んでいたのかよ」


 話している間もチビチビと飲んでいたおかげで半分ほど飲むことができた。

 さあ、新記録目指して飲み干そう。


「おいおい、ここはいつから子供にも酒を出すようになったんだ?」


 声のした方を見ると店の入口に近い場所で見覚えのない冒険者が俺のことを見ていた。



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