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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第4話 奴隷との不思議な対話

 ダレスデンの街。

 近くにある鉱山から採掘される鉱石と、それを加工できる職人を多く抱えることで発展した街。

 栄えているおかげで多くの人が訪れている。


 ただし、繁栄の光があれば陰りもある。


「いらっしゃいませ」


 シルビアとイリスを連れてダレスデンにある奴隷商を訪れる。

 奴隷の事が気になったシルビアはどうしてもついて行くと言い張り、イリスは護衛を兼ねて同行していた。相手の正体は今のところ判然としていない。護衛が多くいて困ることはない。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 商館の奥から現れたのはスーツを着た長身の男性。髪と同じ色の鬚に顔が覆われており、体の大きさもあって相手を威圧する雰囲気がある。

 気の弱い人物なら気圧されるところだ。だが、冒険者として何年も活動してきた俺たちには通用しない。


「おや」


 それを奴隷商も感じ取っていた。


「奴隷をお求めですか?」


 即座に切り替えて商談へと移る。


「ここの奴隷を見せてもらえますか?」

「ええ、構いません。ですが、どのような奴隷をお求めでしょうか。見たところ冒険者のようですが」

「拠点で留守を任せられる人を探しています。仲間なら足りていますが、拠点の留守を任せるとなれば信頼できる者でなければなりません」

「……そういうことでしたら適した者がおります」


 信頼のできる奴隷。

 主人の意に反した行動をした場合には首輪を締めることによって抑制することができる。だが、あくまでも主人の命令に反抗した場合の措置でしかない。主人の見ていない場所で何かをしていた場合にはどうしようもない。


 心から主人に仕えてくれる奴隷。

 留守を任せるのならそういう奴隷でなければならない。


「最近、仕入れることのできた奴隷がいるんです」


 商館の奥へと案内される。

 牢のような空間に複数人の簡素な服を着ただけの奴隷が入れられている。

 さすがに男女は別にされているが、共同生活とは言えない状況にシルビアが顔を顰める。


「こちらです」


 そこには3人の女性奴隷がいた。

 3人とも貫頭衣だけを纏っている。服装については奴隷としては普通であるため気にならない。気になるのは彼らの反応が乏しいことだ。


 奴隷の反応は2つある。

 一つは、金持ちや優しそうな主人に買ってもらおうと気に入った客が現れた場合に自分をアピールする。

 もう一つは全てを諦めてしまった状態。


 希望を持った状態と絶望に蝕まれた状態。

 だが、3人とも絶望している訳ではない。


「これは……」


 イリスも異様な状態に気付いた。


「彼女たちは?」

「はい。身寄りがなくなり困っていたところを私が引き受けました。彼女たちなら誠心誠意仕えてくれるはずです」

「そうですか」


 事前の調査で、異様な奴隷がいることは知っていた。

 しかし、それは彼女たちではない。宮廷魔導士が見つけた奴隷は男性の二人組だったはずだ。


「彼女たちだけですか?」

「そうですね。今おススメできるのは彼女たちだけです」


 事前に見つけられた奴隷は既に買われてしまった。

 奴隷商を問い詰めて買われた先を聞き出すのは簡単だ。だが、今のところは帝国から依頼を受けた冒険者が動いていることは知られたくない。


「家事はできますか?」

「ええ、それはもちろん」

「彼女たちから聞きたいんです」

「……! そうですね」


 勝手に答えた奴隷商へ殺気を飛ばせば後ろへ下がる。

 奴隷商の目が離れた隙に奴隷の様子を観察する。


「やっぱり……」


 離れた奴隷商を目で追っていた。

 彼女たちの今の主は奴隷を引き取った奴隷商だ。


「……」


 イリスの方を見ると首を横に振られた。

 見ただけで何か手掛かりを掴めないかと思ったが、姿を見ただけでは異常があるところまでは掴めても、異常そのものを感知することはできない。


「ご主人様……」


 シルビアにしても詳細が分からないのは同じ。

 しかし、今の彼女は自我というものを失くしてしまったかのような奴隷を気にしてそれどころではない。

 当初の予定通りに動くしかない。


「彼女たちを購入します。こちらの命令に従順だと言うのなら安心して留守を任せることができます。しかし、こちらに落ち度がないのに逃げられたりした場合には覚悟をしておいてください」

「……ええ! もちろんですとも!」


 部屋の鍵が開けられて奴隷が出てくる。

 すぐ傍で話をしていたから俺が次の主になることは理解しているはずだ。それでも彼女たちの視線は奴隷商に向けられたままだ。

 奴隷商が首輪に指を当てながらスキルを発動させる為に必要な呪文を唱える。奴隷商なら誰もが所持している【隷属】のスキルだ。

 このスキルを犯罪者以外に使用すると罪に問われるため、犯罪奴隷以外はお互いの合意の下で【隷属】のスキルを受けている。


「お前たちの主人は彼だ。今後は彼に仕えるんだぞ」

「はい。よろしくお願いします」


 メイドのように頭を下げる。

 話は聞いていたため自分たちが何をさせられるのか理解している。ただ、主人の命令に対して忠実になっているだけだ。


 料金は一人金貨50枚。

 シルビアが金貨42枚だった事を思えば高いように思える。


『いえ、わたしが高過ぎたくらいです。特殊なスキルは持っていないですし、突然の事態に逃げ出して反抗的だったんです。料金は吊り上がったような状態です』


 対して女性奴隷たちは『従順』という部分を強調されている。料金が大きくなるのは仕方ない。


「これで契約は完了です」

「それは見れば分かります」


 3人の視線が俺に向けられている。

 文句もなく従うつもりでいるが、それも特殊な状態にあるからだ。


「もう連れて行ってもいいですね」

「はい」


 3人を連れて商館を出る。


「マルスは奴隷商を疑っているみたいだけど、彼は真っ当な商売をしている方の奴隷商だから気にしない方がいい」

「そうなの?」


 イリスの言葉にシルビアが首を傾げる。

 元奴隷と言ってもシルビアが奴隷でいたのは1日にも満たない間の出来事で、その間にも食事が出されて着ていた服を没収されるようなこともなかった良識な対応をしてもらうことができた。


 シルビアが知っているのは自分の体験だけだ。

 そういう意味では買われることなく残った奴隷がどのような扱いをされることになるのか知らなかった。


「さて、適当な所で迷宮に帰るぞ」


 人目につかない場所へ移動すると【転移】で迷宮へと戻る。

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