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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第3話 身近な英才教育

「うん?」


 見られていることに気付いたシエラが振り向けばリオと目が合う。

 だが、見ている相手がガーディルたちの父親だと分かって安堵すると再び遊び始める。


「おい」

「いや、個人的にあの子がほしくなってな」

「やらないぞ!」


 7歳の子供を相手に何を言っているんだ!?

 アイラも椅子から立ち上がってシエラを確保しようと動いた。


「……勘違いしているようだから訂正しておくけど、俺の相手にほしいわけじゃないからな」

「じゃあ、どういう意味だよ」

「本気でガーディルの相手に考えている」


 以前、マリーさんの【未来観測(フューチャーヴィジョン)】で未来のシエラを見ることができた。

 未来を観測することができるスキル。もし、観測した通りの未来になるのならシエラはグレンヴァルガ帝国の皇妃になる。


 相手は当然ガーディル君だ。

 二人は俺たちが観測した未来について何も知らない。


「今のところガーディルだけがその気になっていて、シエラには相手にされていないみたいだな」


 お互いの子供たちを遊ばせた時、類稀なる血統のせいなのか同年代では負けなしだったガーディル君をシエラが剣で負かしてしまった。

 それ以来、シエラにリベンジするべく真面目に訓練に取り組んでいるガーディル君。

 本人の口からは「その気はない」といった言葉を聞いているが、心の底ではシエラの事を気にしているのが丸分かりだ。


「……はぁ」


 思わず溜息を吐かずにはいられなかった。

 たしかに見ることができた未来ではシエラも幸せそうにしていた。しかし、相手は皇帝だ。平民の手が届くような相手ではない。


「身分差を考えろ。他国の田舎で冒険者をしているような奴の子供が皇妃になれる訳がないだろ」

「お前は自分の評価を客観的に見られるようにした方がいいな。平民であろうと問題がないくらいに、お前の価値はあるんだよ」


 それは分かっている。

 俺がいるからこそメティス王国はグレンヴァルガ帝国から攻められずに済んでいる。それだけ前回の戦争で受けたトラウマは大きい。

 それでも生まれ持った身分は貴族社会において大きな影響を与える。


「たしかに家柄だけが取り柄の古い貴族連中は反発するだろう。だが、そういった連中ほど自分の既得権益を脅かされるのを怖れる。皇帝になってから派手に暴れたから、功績のある奴を批難するような真似をして俺の機嫌を損ねたりしないさ」


 実力主義で傾きかけていた国を立て直したグレンヴァルガ帝国。もっとも、そうしなければ人材不足によって疲弊してしまう状況だったため仕方なくだった。

 リオが皇帝になることに対して反発した貴族が多くいた。そういった者たちに対して実力行使に出たため優秀な人材が不足することとなった。

 もっとも、皇位継承は正道ではなかったものの、認められた方法ではあった。彼らは急激な変化によって自分たちの権利が脅かされるのを怖れて反発した。ただ、反発したことによって全てを失うこととなった。


「あれから数年が経過している。今は安定を求めている時代に突入しているんだ。そういう奴らにとってお前との衝突は恐怖以外のなにものでもない」

「ああ、そういうことか」


 自分の娘が嫁いだ国なら敵対することもない。

 恐怖の対象と見られているからこそ選択肢が生まれた。


「それに国の危機を何度も救ってる人の娘だ。支持してくれる人の方が多いと思う」


 リオの言いたいことも分かる。

 ただし、こういうことは本人の意思を無視して決めていいものではない。


「シエラ」

「なに?」


 名前を呼ぶとシエラが駆け寄ってくる。

 同時にガーディル君もついてきた。


「ガーディル君の事をどう思う?」

「……」


 質問されたシエラが深く考える。

 賢いシエラは幼いながら質問の意図を僅かながら感じ取っていた。


「弱い人にはきょうみない」

「え……」


 ガーディル君が思わず言葉に詰まってしまう。

 皇太子として生を受けてからそのような言葉を掛けられたことはなかった。シエラに容赦なく負けて敗北を知っていたものの、改めて言葉にされるとショックを受けざるを得なかった。

 近くで聞いていて口を塞ごうかと思ったが、この程度でショックを受けていては今後が問題になる。


「強い人じゃないとダメ」


 シエラが俺を見ながら言う。

 強い人、という基準を知ってしまったガーディル君が絶望に苛まれる。


「あ、すくなくても『わたしより強い人』っていう意味だからね」

「あ……」


 少なくともシエラよりも強くなればいい。

 希望が見えてきたことでガーディル君の顔に生気が戻る。


「おねえちゃん」


 妹から呼ばれてシエラが弟妹たちの所に戻る。


「しかし、どうやってあんなに優秀な子に育てたんだ?」

「特別な事は何もやっていないんだよな」


 パーティーでは貴族令嬢の相談に乗っていた。子供らしい恋愛相談から、問題を抱える領地をどうすればいいのか、他の貴族との付き合いについても的確にアドバイスをしていた。

 相談に対応するには相応の知識が必要になり、考える知力が求められる。

 おまけに相手の事を慮ることもできて初めて会う女の子なのに打ち解けていた。


「ええと、わたしが家事全般を教えて――」

「剣を教えてほしいって言うから鍛えて――」

「本を読んでいて、分からないところがあれば私が教えています」

「付き合い方や雑学系の知識は私が教えている」

「礼儀作法は簡単にわたしが担当している」


 シルビア、アイラ、メリッサ、イリス、ノエルから教えを受けていた。


「なるほど」


 それを聞いてリオは納得していた。

 特別な事は何もしていない。子供から「教えてほしい」と言われたから母親が自分の得意な事を教えていただけの話だ。

 しかも、シエラは率先して教わっていた。


 優秀な指導者が身近にいて、シエラも真面目だったからこそ今がある。


「こちらとしては、お前たちが功績を挙げてくれるのは賛成だ。そして、問題を解決した対価が必要だと言うのなら喜んで報酬を用意する」


 巡り巡ってシエラが嫁ぎやすい状況を作り出すことになる。

 言ってしまえばガーディル君の為の先行投資だった。


「盗賊の財宝を回収すれば、もしかしたら借金も完済できるかもしれないぞ」

「贔屓してくれたこともあって、おかげさまで完済までもう少しのところまで来たさ」


 迷宮を拡張させる際に作ってしまった借金。

 グレンヴァルガ帝国から借りている分はともかくとして、レジュラス商業国から借りている分は早急に返済する必要があった。


「盗賊が財宝を貯め込んでいなかった場合でも借金返済に必要な分の報酬ぐらいは用意してやるよ」

「善意は受け取っておくよ」


 依頼を受けると子供たちを連れて屋敷へと帰る。

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