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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第42章 幻惑契約
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第2話 従順な奴隷

「奴隷……?」


 俺の言葉にシルビアがビクッと肩を強く震わせる。

 もう何年も前の話なのに初めて会った時の状況がトラウマになっていた。


「奴隷なんて珍しくないだろ」


 借金の返済ができなくなって身売りした者。

 犯罪者が罪を償う代わりに強制労働として身を堕としてしまう。

 事情を抱えた者が奴隷となり、仲介する奴隷商もいるため奴隷そのものは認められている。


「それが真っ当な奴隷なら俺も文句は言わないさ」


 ただし、事情もないのに奴隷となってしまう者もいる。


「盗賊か?」

「そうなんだろうな」

「おいおい……」

「具体的な事は分かっていない状況なんだ」


 リオの口から最近になって浮上してきた問題が語られる。

 問題の場所はグレンヴァルガ帝国の北東部――旧ガルディス帝国に近い場所。


「あれだけの難民を受け入れたんだから、周辺にも異常が起きたとしても仕方ないだろ」


 そのため以前から多くの間諜を忍ばせていた。

 そうして集められた情報の中に不可思議な言葉を見つけた。


「奴隷が売買されていた」

「奴隷商が仲介したんじゃないのか?」

「その奴隷が普通だったなら俺も不思議に思わなかったさ」


 取引された奴隷は主人の命令に従順で、文句一つ言うことすらない。

 主人の中には奴隷が反抗的な態度を取ることを望んでいる者おり、そういった趣向をしている者の望みを叶えるように反抗的な態度を取ることもある。

 まさに主人が望んだ奴隷。


「そんなはず……」


 奴隷商にいたシルビアだからこそ分かる。

 主人に心の底から誠心誠意仕える奴隷などいない。何かしらの事情があって従順になることは考えられるが、そんな奴隷が複数人もいるとは考えにくい。


「俺も不思議な奴隷が気になって宮廷魔導士を派遣したんだ」


 宮廷魔導士。

 帝国が抱える魔法使いで、豊富な知識から魔法使いの育成に尽力している。

 だが、今回リオが期待したのは育成能力ではなく、潤沢な知識の方だ。汎用的な知識から特殊な知識まで彼らは持ち合わせている。


「どうやら宮廷魔導士を派遣したのは正解だったらしい」


 奴隷に特殊な魔法が使われていることが判明した。

 闇属性魔法らしく、対象の認識に強い刷り込みを埋め込むことができる。

 主人を指定して『主人には心から仕えなければならない』という強い刷り込みが施されていた。


「らしい、っていうのは……?」

「何人かに調べさせたが、具体的な事までは分からなかった」


 そこで俺たちに白羽の矢が立った。

 迷宮主なら宮廷魔導士とは違った観点から確認することができる。


「もちろん報酬は用意している」


 依頼を迷宮主として受ける訳にはいかない。

 そのため表向きには懇意にしている冒険者に依頼することとなる。

 そうなれば当然のように報酬は必要となる。


「ただ、今回は問題の全容が事前にハッキリしていない」

「まず加害者だけでなく、被害者も判明していないからな」


 相場が判明していれば取り決めることはできる。

 しかし、被害者の状態すら判明していない状態では判断することができない。


「盗賊が関わっているのは間違いない」


 奴隷商から情報は得ている。

 さすがに奴隷商も最大国家を敵に回してまで取引相手の情報を守ろうとは思わない。相手が知られることで不利益を被るのならまだしも、一般的な奴隷商は好意的に接してくれる。

 複数の奴隷商が「奴隷は盗賊から買い受けた」と白状した。


「ただし、地域が問題だ」


 オネイロス平原近辺は難民が多いせいで治安維持の人手が足りていない。

 どこかにいる盗賊を捕らえたいところだが、どこにいるのか全く分からない盗賊を探せるほどの余裕はなかった。


「それで俺たちに話が回ってきたのか」


 話を聞くと冒険者が動く段階は過ぎ、既に国の方で事態解決に向けて動き出している。

 そこまで深く関わってしまうと冒険者ギルドに盗賊の討伐依頼を出すのもプライドが邪魔して難しくなる。


「いや、冒険者ギルドに依頼は出した」


 もう冒険者の派遣は行われていた。だが、事態の解決はされていない。


「だけど、もう依頼は取り下げている」

「何があった?」

「依頼を受けた冒険者まで洗脳されて奴隷になっていた」


 依頼がどうなったのか報告が全くされない。


 成功したのか、失敗したのか。

 状況を確認するべく冒険者ギルドは依頼を受けた冒険者の痕跡を探すよう依頼を出した。

 冒険者たちは必死に痕跡を探した。依頼を引き受けたこともそうだが、信頼ができる冒険者だった。仲間の仇を討つべく手掛かりを求めた。


 しかし、どれだけ盗賊がいるような場所を探したところで手掛かりを得られることはなかった。

 誰もが諦めた時――手掛かりは意外な所で見つかった。


「依頼を受けた街とは全く違う街で依頼を受けた冒険者の知り合いが奴隷として取引されている冒険者を見つけたんだ」


 すぐさま駆けつけて名前を呼んだ。

 だが、どれだけ呼び掛けたところで反応してくれることはなかった。

 焦点の定まらない目で宙を見つめたまま檻の中に入れられていた。


 奴隷となる前、盗賊との間に想像を絶するような出来事があり、自我が崩壊してしまったのだと見つけた者は思った。

 ただし、奴隷になった冒険者を観察していると奴隷商に指示されるまま肉体労働に従事していた。しかも、一切の文句を言わずに働いている。


 明らかな異常。

 見た目には健康上の問題がないように見えることが恐ろしかった。


「後の調査で冒険者も他の奴隷と同じような状態である事が分かった」

「なっ!?」


 これまでの話から盗賊が捕らえた相手を洗脳することができる力を持っている事は分かる。しかも、支配権を他者に譲ることまでできる。

 冒険者のように強い者であれば洗脳系の力に耐えることはできる。

 そんな耐性をものともせず、盗賊は他者を洗脳することができる。


「また面倒な奴が現れたな」


 弱い者を派遣しても奴隷にされて終わりだ。

 軍が数を頼りに盗賊を探しても奴隷にされてしまう。悪い状況を想定すれば洗脳されて嘘の報告をされ、永遠に見つからなくなってしまうことも考えられる。


 そうなると探す者の質を高める必要がある。

 しかし、Bランク冒険者でも不足だ。情報が不確かな依頼をAランクやSランク冒険者が引き受けるのもリスクがあるため難しい。


「ま、俺たちなら全員がSランク冒険者よりも強いからな」


 要求は満たしている。

 正体不明の盗賊の力にも対抗できる者を捜していたところに訪れたものだから、幸いと依頼をすることにした。


「引き受けてくれないか?」


 眷属の様子を見ると全員が頷いた。

 とくにシルビアが懇願するように強く頷いていた。

 彼女にとっては人の意思を無視した奴隷の存在は無視できない。


「分かった。依頼は引き受ける」

「相手は盗賊だ。奴らが貯め込んでいる財宝は好きにしていい」


 それが今回の依頼の報酬。

 盗賊が取引しているのは奴隷ばかりではない。襲った者が所有していた財宝も徴収している。

 基本的に盗賊を討伐した場合には、盗賊が所有していた財宝は討伐した者の物となる。

 ただし、盗まれた物の中に貴族の財宝があった場合、返却するよう貴族から求められる場合がある。そういった場合を気にする必要がない。


「皇帝からの依頼だ。俺が貰うことに文句を言うことはできないな」

「まあ、そういった場合には言い値で国が買い取らせてもらうことにする」

「おいおい……」


 気にしすぎ……そう思わないでもなかったが、皇帝とはいえ絶対的な権力者というわけではない。むしろ関係に気を遣わなければならなかった。


「財宝の所有者との関係は面倒になる。だけど、今は少しでも多くの功績をお前に積み上げてほしいところなんだ」


 そう言ってリオが離れた場所で遊んでいる子供たちへ目を向ける。

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