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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第26話 VS夢魔 ③

「なるほど。外の事もあってわたしは早々に決着をつけるしかない」


 それは間違っていない。

 さらにノエルは最初から時間を掛けるつもりなどない。夢魔の言葉に付き合っていたのも現状を夢魔に把握させるのが目的だ。


「理解していないようだな。夢の世界で、夢を支配することができるオレ様を傷付けることはできない」


 錫杖で叩いた瞬間に返ってきた奇妙な感覚。

 それは、夢に干渉することで自分がダメージを負わない姿を上書きしたことで攻撃を無力化することができた。

 以前にミシュリナの部屋でも見せた防御。あの時、夢魔も自身の姿を隠した状態で部屋にいた。自身の存在を完全に消し、窓を開けることで閉鎖空間を解放した。そうして解放されたばかりだったため夢の世界の残滓が残っていて防御に力を使うこともできた。


 だが、一度は使用された能力。


「もうウチの優秀な参謀が対抗策を用意してくれている」


 その場で軽く跳ねる。

 跳ねる度に錫杖から音が奏でられる。


「無駄だ。何をしようとオレ様を傷付けるなど……がぁ! ぐわぁ! ぎゃ!?」


 ノエルの姿を見失った直後、体の前や後ろ、側面などといった様々な方向からの衝撃を受ける。


 攻撃を受けているのは分かる。

 だが、何をされたのか、いつされたのか分からない。


 これでは……


「どういう風に耐えた姿をイメージすればいいのか分からない?」

「キサマ……!」


 それが夢の干渉の弱点。

 夢の世界では、夢魔のイメージした姿が優先されることになる。だが、どんな姿をイメージすればいいのか分からなければ力が働かない。


 相手が認識することのできない攻撃をする。

 それがメリッサの思い付いた方法だった。


「この……!」


 肥大化した腕を振り上げる。


「ハズレ」


 どこかから聞こえてきた言葉だけで攻撃が当たらない。


「調子に乗るなよ!」


 怒声と共に手を地面へ押し当てると触手が肉壁となって立ちはだかる。

 分厚い肉壁を前にしてノエルが足を止める。


「なんだ、あの体は……?」


 ノエルでも攻撃を躊躇してしまうような肉壁を間に挟んでいても外の様子を夢魔は把握することができる。

 足を止めたノエルの体は雷撃を纏って光り輝いていた。


 【雷身化】。雷を纏うことで目にも留まらぬ速さで動くことができるようになる。さすがに迷宮眷属レベルが相手では捉えられてしまうが、相手はまともに戦闘を経験したことのない悪魔。ノエルの速さを捉えることができずに戸惑っている。

 そして、高速移動の正体を掴めずにいた。

 それでも素早く動いているのは理解することができた。


「力は捨てる」


 力に傾倒して肥大化した体がシュッと細くなる。

 体が引き絞られ、指と爪が異様に伸びると鈎爪のように変化する。さらには軽くなったことで速さが増している。

 これでノエルに追い付くことができる。


 肉壁が解かれる。


「――行くぞ」


 変わった体をノエルに晒すと同時に動き出す。

 ノエルに劣らない速さ。左から鈎爪で斬り掛かると、ノエルも瞬時に反応して錫杖で防御する。


「無意味だ」


 夢魔の手から斬撃が迸りノエルの体を斬り裂く。

 鮮血が舞うのを見ても夢魔の攻撃は止まらない。即座に右手でも斬り、姿勢が崩れたところを狙って両手で斬り捨てる。


「ハハッ、オレ様の邪魔をするからそういう目に遇うんだ」


 瀕死の重傷を負ったノエルが宙を舞うのを見て心が晴れやかになる想いだった。

 それは以前の夢魔にはあり得ない感情だった。無力な人が救われる事をなによりも望んでいた夢魔。人が無残に死んでしまう光景など望んでいない。


「いや、あいつはオレ様の邪魔をしたんだ」


 それだけで死に値する。

 そう思うことで自分を正当化しようとする。


「うん、やっぱり倒しておいた方がいいね」

「……!?」


 すぐ傍から聞こえてきた声。

 だが、そんなことはあり得ない。その声は今も宙を舞うノエルのものであり、今みたいに落ち着いた声を出せるような状態ではない。


「まさか……」


 宙を舞うノエルを意識して視る。

 すると蜃気楼のようにぼやけて消えてしまう。


「いや……違う!」


 本当に蜃気楼――幻だ。

 本物が懐にいることに気付く。


「幻術か!」

「正解」


 攻撃したノエルが幻だと認識した瞬間、宙を舞っていたノエルの姿が消える。

 だが、幻が消えても本物を目にすることはできない。


「もう、わたしの姿を認識することはできない」


 軽く胸に手が押し当てられる感覚がある。


「【雷震咆哮(ライトニングハウリング)】」


 ノエルの手から雷獣の雄叫びにも似た音と共に雷が放たれる。

 その攻撃は、夢魔の体の中心を吹き飛ばし、全身を灼き尽くす。


「こんな……」


 上半身と下半身に分かれ、黒焦げになった夢魔が壁に叩き付けられる。


「わたしが何の策も無しに攻撃していたと思う?」


 雷の速度で動いて攻撃している間、ずっとノエルの錫杖は音を奏でていた。

 規則的な音。ノエルの位置をどうにか探ろうとしていた夢魔は、音を頼りに特定しようと意識を集中させていた。

 それがいけなかった。

 いつしか音に囚われるようになってしまった夢魔。気付いた時には【舞踊】によって幻を見せられるようになっていた。


「オレ様は負けるのか……?」


 未だに信じられなかった。

 夢の世界という自分にとって絶対的に有利な世界で負けるなど考えられない。だが、全身を黒焦げにされてしまえば誰が見ても敗北は一目瞭然。

 もう立ち上がることができなかった。


「どうして負けたのか理解している?」

「夢の世界。圧倒的に有利な世界で、オレ様が最も幻術を扱うことができる――そんな自信が、慢心だった」

「それもそうだけど、一番は別にある」

「……」


 夢魔には分からなかった。


「簡単。それが、あなたの『限界』だったからよ」

「限界……?」

「そう。この世界ならあなたのイメージした通りに物事を進ませることができる。だけど、あなたの想像を越える事ができる相手が現れたらあなたの力は一切通用しなくなる」


 速過ぎるノエルの動きにどのように対処すればいいのか分からなくなり、混乱に陥ってしまう。

 理解が及ばない。

 夢魔のイメージではノエルのような強者をどうこうすることはできない。


「さっき言った『つまらない』っていうのはこういうこと」


 夢魔の支配する世界は平和だ。

 しかし、永遠に夢魔に可能な事を越えることができず、同じような毎日を過ごすことになる。

 そこに未来などない。


「そんな平和なら、わたしはいらない」

「何も苦しいことがない世界を拒むのか」

「たしかにそれはそれで平和かもしれない。けど、わたしが叶えられる幸せでしかない。思いもしなかった幸せ。少なくとも、わたしは娘たちのおかげで考えてもみなかった幸せの中にいる」


 育児には大変な事もある。

 ただし、それ以上に成長する日々の姿を見るのが楽しみで仕方ない。


 変化を楽しむ。それは、夢の世界では味わうことのできない出来事だ。


「わたしの幻術は、相手に偽りの画を見せて、偽りの音を聞かせるだけ」


 夢魔のように相手を支配するような能力はない。


「答えてもらうわ――誰が封印を解いたの?」


決着っぽいですが、③なので次があります。

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