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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第25話 VS夢魔 ②

 夢の世界は、夢魔の自由にすることができる。

 ただし、夢に『干渉』することで内容を書き換えているだけにすぎない。

 ノエル以外が相手なら問題はなかった。しかし、【深淵魔法】に守られているノエルが相手では直接干渉することができない。

 だから、生み出した触手で捕らえるという間接的な手段を採ることにした。ただし、その方法も素早く動くノエルを捕らえられるほどに速くイメージすることができずに殴られている。


「キサマもオレ様を邪魔するのか」

「邪魔?」

「オレ様は世界をよくしようとしているだけで、そのオレ様を邪魔するのがどういうことなのか分かっているのか」


 少しでも争いを減らして平和な世界を築く。

 それが悪魔になった後も夢魔が抱き続けている目的だ。


「たしかに平和は得られるかもしれない」

「そうだろう」

「だけど、そんな世界つまらない」

「つまらない!?」


 敵対しているのだから否定されるのは分かっていた。

 だが、その理由が「つまらない」などという単純な理由だとは思いもしなかったため驚いて起き上がらせた体を落としてしまう。


「せっかく世界には多くの人がいるんだから、それぞれの考え方や求める平和があってもいいはず」


 『巫女』だった頃は女神ティシュアの言葉を人々に届けて平和へ導いていればよかった。

 ある意味、『巫女』もやっていることは夢魔と変わらない。

 しかし、『巫女』を辞めて多くの人と接するうちに多様な考え方があることを知ることができた。


「わたしがしていたのはティシュア様の考える平和を押し付けていただけにすぎない。ま、みんながみんな自分の意見だけを押し通そうとしたら争いになるから結局は誰かの意見に従うしかないんだけどね」


 メンフィス王国では女神ティシュアの言葉を採用していただけにすぎない。


「話し合うこともなく、一方的に自分の意見だけを押し付けようとするのは間違っていると思うの」


 それがノエルの夢魔を認められない理由。

 なにより夢を見させられていた間のミシュリナはノエルの知る彼女とは掛け離れていた。

 友達を苦しめる相手を許すつもりはない。


「ハハッ、なら交渉は無意味みたいだ!」


 夢魔の体の輪郭が歪んで見える。


「ううん、見間違いなんかじゃない」


 目を擦って確認し直すもののマルスよりも少し大きかった夢魔の体が明らかに大きくなっている。


 ――ギエエエエエエエエッ!!


 夢の世界で夢魔が咆哮を上げ、魔力を迸らせる。


「随分と悪魔らしい姿になったじゃない」


 先ほどと同じように夢の世界を駆け抜ける。

 走り抜けるノエルを追うことすらできていない夢魔は、目で追うことすらもせずにゆっくりと腕を上げる。


 構わない。

 腕を貫く勢いで錫杖を叩き付ける。


「ほう……」


 夢魔から感心した声が漏れる。


「うそっ」


 対してノエルは錫杖がわずかにしか沈み込まなかったことに驚いていた。

 奇妙な手応えを感じる『何か』によって防がれている。


「……その腕、なに?」


 尋ねながら体を低くすると大きくなった足を蹴る。


「無駄だ。今のオレ様にその程度の攻撃は通用しない」


 夢魔の足から触手が飛び出す。瞬く間に蹴ったノエルの足を絡め取ると振り回している。

 さらに夢魔の正面へ出た瞬間、巨大化した拳が突き出される。


「ぐっ……!」


 咄嗟に錫杖を盾にして防御する。

 だが、殴られた時の衝撃によって先ほどの夢魔と同じように後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。

 違うのは着地の瞬間に体勢を整えていたことだ。すぐさま錫杖を構えて夢魔を睨み付けるものの、肝心の夢魔は直前の位置から1歩を踏み出した程度で追撃してくる様子はなかった。

 やる気がない、というよりも体が重たくて動けないようだった。


「慣れない体は大変?」


 夢魔が何をしたのかようやく理解した。


「わたし自身に干渉できない。夢の世界を書き換えてもわたしを捕らえることはできない。だから――自分を書き換えることにしたんだ」

「ここまでの改変は初めてだったが、実に心地いい。今なら自分の手で全てを壊せそうだ」


 ノエルの攻撃に耐えられる肉体と壊せる力を求めた夢魔。

 その願いを叶えられるよう肉体を干渉することで変化させることができたが、肉体の変化に伴って精神にも影響が生じていた。

 破壊を楽しむ悪魔らしい思考。


「けど、改変のし過ぎで体が動かし難いんでしょ」

「それならそれで問題ない。時間を稼いでもオレ様の勝ちだ」


 夢の世界の壁に外の光景が映し出される。



 ☆ ☆ ☆



 街中に発生した海月の魔物を騎士が剣で斬る。


「クソッ、どれだけ湧いて来るんだよ!」

「弱音を吐くな」

「ですが……」

「口を動かしている暇があるなら少しでも多くの敵を葬れ」


 彼らがいるのは大聖堂から少し離れた場所。

 前日のうちに翌日の早朝に夢魔を倒す為の計画を明かされた少数の騎士が大聖堂の護衛に当たっていた。

 魔物を寄せ付けない力を持つ結界を展開することのできる大聖堂は万が一にも侵入されてしまった場合の避難所となっている。もっとも、その避難所も海月の触手によって溶かされてしまえば長くはもたない。


「もっと動員できなかったんですか?」

「理由は昨日説明されただろ」


 信用できる騎士のみ。

 今回は、人間性や立場というよりも『夢を見させられていない』ことを基準に選ばれていた。少しでも眠ってしまった者は、どのようにかして夢魔に計画が伝わってしまう危険があったためだ。


 説明された事を若い騎士は理解していた。

 それでも隊長に任命された先輩に愚痴を吐かずにはいられなかった。


「俺たちの仕事は、人々が逃げ込む場所を守ることだ」

「はい」


 通りの向こうから5歳ぐらいの子供の手を引いた母親が駆けて来るのが二人にも見えた。

 若い騎士が迎えるため駆け出す。


「あの、バカ……!」


 彼らの仕事は大聖堂の護衛。

 たとえ逃げる親子を狙って近くの建物を海月がすり抜ける光景が見えたとしても持ち場を離れてはいけない。


「あ……」


 しかし、若い騎士の奮闘も虚しく海月から触手が伸ばされる。

 距離があってどれだけ急いだところで間に合わない。


「え?」


 絶望しかけた瞬間、伸ばされた触手がボロボロになって崩れてしまう。


「大丈夫?」


 子供に女性が話し掛けていた。


「うん」

「眠いかもしれないけど、お母さんと一緒に逃げてね」

「がんばる」

「偉いね」


 母親が助けてくれたシルビアに頭を下げながら大聖堂へと駆け、騎士に守られながら避難する。

 助からないと思っていた母子が助かった事に若い騎士が安堵する。


「こんな朝っぱらから働かされて大変かもしれない。だけど、彼らに比べたら簡単な方だ」

「彼ら――何者なんですか?」

「若いお前は知らないかもしれないけど、『聖女』様の知り合いで最も頼りにできる冒険者だ」


 シルビアは自身も障害物をすり抜けることができるため視覚から襲い掛かろうとしている海月を斬っている。

 アイラは最も人の多い通りで集まって来た海月の群れを相手にし、イリスが屋根の上のように高い場所から援護している。


「すぐに味方は増える。それまでの辛抱だ」


 起き出した騎士も信用することができるようになる。

 詳しく事情を説明している時間はないが、一緒に戦ってくれるのなら心強い。


「さすがに自分たちの進退を冒険者の一人に預けるなんて説明できないよな。彼女が負ければ俺たち全員が死ぬことになるんだ。伝えられるはずがない」


 ノエルの敗北は、そのまま夢魔の勝利となって海月が無限に溢れ出すことになり首都の人々は蹂躙されることになる。

 そして、夢魔を倒さなければ終わらない。

外の為にも早々に決着をつけなければならないノエル。

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