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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第20話 『聖女』の心変わり

 男の子を抱えたノエルが必死に走る。


「大丈夫?」


 場所は屋根の上。かなりの高さである上、逃げる為に速さもあるため子供には大きな負担となっている。


「うん……」


 盗みを働いた時と比べてひどく沈んだ声で男の子が頷く。


「おっさんのあんな表情初めて見た」


 いつもは困った子供を見る目だった。

 ところが、先ほどは敵意を向けられ恐怖に足が竦んでしまった。


「わたしもさっきのはおかしいと思う」


 言いようのない不安だけがノエルの胸中に渦巻いていた。


「まずは信用できる人の所に逃げ込もう。その人なら事情を話せば匿ってくれるはずだから」

「だれ?」

「『聖女』様」

「え、無理だって!」


 平民よりも低い立場にいる男の子にとって『聖女』は建物の物陰から見つめる陽だまりのような人物だ。

 とてもではないが会えるような人物ではない。


「大丈夫。これでも友達だから」

「お姉さん、何者なの?」

「わたしはノエル。今はしがない二児の母親よ」


 ノエルにとって『巫女』の立場を失った今の方が誇らしかった。


「あなたの名前は?」

「ロレン」


 親すら知らない男の子にとって名前は与えられたものではなく、勝手に名乗っているだけのもの。

 それでも男の子にとってのアイデンティティとなっていた。


「そう。しっかり掴まっていて」

「うん……」


 屋根の上を逃げ回っていたノエルが大聖堂へ辿り着く。

 ここは多くの警備兵に守られており、大勢に追われていても彼らが簡単に入ってくることはない。


「ミシュリナ!」


 『聖女』のいる部屋の窓を大きく開け放つと誰に聞かれているのか分からない状況で名前を呼ぶ。


「ノエル……? どうしたのですか?」

「この子を匿って」


 少し前に別れたばかりのノエルが血相を変えて飛び込んで来た。

 語られる事情を真剣に聞いたミシュリナが結論を出す。


「その子は処刑しましょう」

「なんで!?」


 ロレンがノエルを盾のようにして後ろへ隠れる。


「どういうつもり?」


 最初はミシュリナの過激な発言に驚かされた。

 しかし、よくよく考えれば彼女らしくない言葉であることに気付かされた。


「何を言っているのですか。罪人を処罰するのは当然の事ですよ」


 ミシュリナが捕らえようとロレンへ手を伸ばす。

 だが、伸ばされた手がノエルによって叩かれる。


「何をしているのですか?」


 自分は当然の事をしている。

 その自然な表情が逆に不自然だった。


「あなたは誰?」

「おかしな事をいいますね。私は『聖女』ミシュリナです」

「少なくともわたしの知っているミシュリナはそんな事を言わない」


 事情のある子供を無情に処刑したりしない。

 なにより自分が『聖女』であることをひけらかしたりしない。


「……残念です」


 冷めた目でノエルを見る。


「これは……」


 すると瞳を通してミシュリナの奥底に何かが潜んでいることに気付いた。

 ロレンを後ろに庇いながら窓のある方へ1歩下がる。

 ミシュリナも当然のように前へ進む。だが、できることなら引き渡してほしい。彼女の力では迷宮眷属となったノエルには絶対に勝てない。


 緊張した空気が二人の間に張り詰め睨み合う。


「やっぱり……」


 それはノエルの時間稼ぎだった。

 睨み合っていたことで対峙してもミシュリナは疑問に思わなかった。


「そこにいたんだ」


 ミシュリナの魂の深い場所――それこそ魂と呼ぶべきものがある場所に彼女とは別の存在を感じる。

 間違いなく夢魔の存在だ。


 その時、ミシュリナの体からシャボン玉が浮かんで弾ける。


『チッ、バレたか』


 弾けたシャボン玉から聞こえる夢魔の声。

 次いで新たなシャボン玉が現れて弾ける。


『オレ様の力は既に次の段階へ移行している』

『もう誰にも止められない』

『お前に何ができる?』

『夢の中にいるオレを倒すことなど不可能』

『オレ様の力が通用しない、と言うのなら大人しく見ていろ』


 シャボン玉が発することのできる言葉は短い。しかし、次々と出すことで長いセリフも成立させている。


 自分の勝利は揺るがない。

 そんな自信に満ち溢れた言葉だった。


「バカにしないでもらえる? わたしたちは諦めるつもりはない」

『どう足掻いたところで無意味なのに?』


 夢魔が言うように夢の中にいる相手をどうにかする術はない。なにより昨日と同じ方法で追い出したとしても再び蘇ってしまう。

 それでは永遠に倒すことができない。


「その点なら安心してください」


 開け放たれた窓からメリッサが入って来る。

 夢魔との対峙に意識を集中させていたノエルは、この部屋にメリッサが近付いて来ていることに気付いていなかった。


「あのミシュリナは……」

「状況は把握しています。妙なものに憑かれているようですね」

『憑く? オレ様をそんなものと一緒にするなんて心外だな』


 新たな侵入者に対してミシュリナが……夢魔が部屋のベッドに立て掛けていた杖を手にする。


「無作法に人の部屋へ勝手に入る者は罰しなければなりません」


 言動が過激になっていく。


『オレ様は支配者たる者だ。人間共は大人しく、オレ様の見せる夢に魅せられていればいいんだ』


 強く踏み込んだミシュリナが杖を振るう。

 メリッサへ向けた振られた杖をノエルが割り込んで錫杖で受け止める。


「ちょっとメリッサ!?」


 回避する様子も見せずにミシュリナを見つめるメリッサ。


「ノエルさんには敵を捉えることができているのですよね」

「ま、まあ……」


 ぼんやりとだが夢魔の存在を感じ取ることはできていた。


「私の【魔力感知】には全く引っ掛かりません。夢魔を強く視てもらうことはできますか?」

「その前にこっちをどうにかしてほしいんだけど!?」


 弾き返すことはできる。

 しかし、迷宮眷属の力で弾き返してしまえばミシュリナの方が怪我をしてしまうし、こうして押さえておいた方が下手なことをされずに済む。

 ただし、押してくる相手を押さえ続けるにも絶妙な力加減が必要になる。何もしていないメリッサに代わってほしいところだ。


「申し訳ありませんが、私も手が離せません」

「……わかった」


 杖を押さえたままミシュリナの心の奥底を覗き込むように見つめる。

 最初はぼんやりとしか感じられなかった存在が『巫女』の持つ感知に引っ掛かった。


『また邪魔をするのか巫女ッ!?』

「昔の『巫女』とは違う理由だろうけど、わたしはわたしの理由で邪魔をさせてもらう!」


 完全に捉えた。

 次の瞬間、ノエルと感覚を同調させたメリッサが魔法を発動させる。


「――【深淵魔法・魂葬(こんそう)】」

『……ィ゛』


 言葉にならない悲鳴のようなものが聞こえたような気が二人ともする。

 しかし、魔法が発動した直後に意識を失ったように倒れたミシュリナを支えるため気にしている状況ではなくなる。


「とにかくベッドに寝かせましょう。おそらく成功しているはずです」


 ベッドへ運ばれて寝かされるミシュリナ。


「すげぇ!」


 部屋ではロレンが目を輝かせて目の前の出来事を見ていた。

 何が起こったのかは分からない。それでも膨大な魔力を用いた魔法が使用されたのは感じることができた。


「ミシュリナ様!?」


 【深淵魔法】の気配は部屋の外にも伝わっており、異様な気配を感じ取ったクラウディアが心配して駆け込んだ。


「安心してください。今は落ち着いています」

「本当ですか?」


 ただ寝ているようにしか見えないミシュリナ。

 だが、ここ最近の事を思えば寝ている状態の方こそ不安にさせられる。


「まだ誰一人として夢から覚めていません。どうにかして全員を起こす必要があります」

まあ、まだ20話なのでボスが倒されるはずがありません。

ただし、倒す方法が全くないわけではない。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、とりあえず電子ジャー(炊飯器)を用意したくなる。 ダイレクトに言えば魔封波ゲフンゲフン。
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