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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第19話 剣呑なウィンキア

 封印があるとされていた場所には残骸だけがあった。


「え、壊れている?」


 シルビアの言葉を伝えたところミシュリナさんは信じられずにいた。


「そんなことはありません。封印というものは正式な手順を踏まなければ解除ができないようになっています。今となっては『聖女』である私だけが解除することができます」


 しかし、シルビアと視界を共有することのできる俺たちには封印が壊されているようにしか見えない。


「封印というのは棺のような物ですか?」

「そうです」


 ミシュリナさんが言うのだから最後に確認した時には棺があったのだろう。


「誰かの手によって破壊されたのは間違いないようですね」


 シルビアの後ろには人が通れるサイズの硬い扉がある。

 扉とは反対側に残骸が散らばっていた。扉から入ってきた誰かがそのまま破壊したことを意味している。


「どうやら封印されていた夢魔が誰かによって解き放たれ、再び暴れているのが原因のようですね」


 敵の正体は分かった。

 次に考えるべきは対策だ。


「どうすれば倒せると思いますか?」


 メリッサの問いにミシュリナさんが首を横に振る。


「倒す方法はありません。そして、再び封印することもできないとなると……」


 対処のしようがない。

 頭を悩ませたミシュリナさんが現実から逃避するように、俺たちがいるのとは反対にある窓の方へ顔を向ける。

 そこには眠っていた人々が起き出したことで本来の姿を取り戻しつつある光景が広がっていた。


「復活するまでも数日あるはずです。その間に対策を考えることにしましょう」



 ☆ ☆ ☆



「本当にどうするかな?」


 大通りを歩きながら呟いてしまった。

 夢魔の復活。一般人に聞かせるべき内容ではないが、起き出したことを祝した祭りのような騒ぎになっている。


 露店では昨日までの騒ぎが嘘のように食べ物が売られていた。


「一つもらえますか?」

「あいよ」


 特製のクリームが塗られた10枚のクッキーが入った容器が渡される。

 ちょうど甘い食べ物が欲しかったところなので思わず買ってしまった。


「はい」


 誰も手を付けていない容器を隣に差し出す。


「気付かれましたか」

「そろそろ戻って来る頃だと思ってな」


 封印場所から疾走してきたシルビアが現れた。

 息は乱れていないが、走り疲れた体が甘い物を欲しているはずだ。


「ありがとうございます。さすがに疲れていたんです」


 言葉では疲れたと言っているものの疲れた様子を表情に出していない。

 彼女が見てきたメイドは屋敷の雑務を引き受ける激務でありながら主や客の前に出れば疲れた様子を一切見せていないことから、メイドとして普段からそのようにあろうとしているらしい。


「で、何か気付いたことはあるか?」


 行きよりも時間を掛けて戻って来ていた。

 別に疲れている訳ではなく、何か不審な点がないか探りに行っていた。


「普段通りの光景を取り戻していました」


 以前に引き受けた依頼の報酬を受け取る為にパーティの中で最もウィンキアを訪れたことのあるシルビア。彼女でも気付けないのなら俺たちが見ても気付けないだろう。


「本当にどうするんですか?」

「倒せない相手だって言うなら手段は限られている」


 『封印』と『調教』。

 封印は『巫女』が施した物とは違って物理的な手段に頼ってしまう。迷宮まで連れ帰って奥底に閉じ込めてしまう。夢に干渉することで力を発揮する悪魔なのだろうが、魔物の多くは夢を見ることがないため無力になる可能性が高い。

 調教も同様に迷宮へ連れ帰る必要があるが、迷宮の魔物と化すことができれば完全に無力化することができる。ただし、その為には屈服させる必要があるのだが夢に隠れられるような相手を屈服させる方法が思い付けない。


「どちらの方法にしても奴をもう一度夢から出す必要がある」

「けど、昨日の方法は絶対に警戒されているわよ」

「それならそれで逆に利用できる」


 アイラの言葉にイリスが利用する方法を言う。


「結界を警戒しているなら、結界を起動できる人物や装置を狙うはず。その人たちを見張っていれば向こうから姿を現すはず」

「なるほど」


 納得しているアイラだが、教えたイリスの方が自分の言葉に納得していなかった。

 それぐらいの事は真っ先に考える。当然、馬鹿でないのなら妨害されていた時の事にまで考えが及ぶはずだ。


「まあ、今は考えても仕方ないですよ」


 無料で配られていたお酒を手にしていたメリッサ。

 暗く沈んだ気持ちを吹き飛ばしてもらおうと配っているお酒で、決して酒豪が呑むような代物ではない。


「ほどほどにしておけよ」

「承知しています……うん?」


 メリッサが何かに気付いた。

 酒を飲むと普段以上に神経が研ぎ澄まされるというのもおかしな話だが、シルビアよりも先に遠くの喧騒に気付いた。

 ただし、話の内容までは分からない。


「なんでしょうか……随分と剣呑な雰囲気ですが……」


 シルビアは騒ぎの気配が異様であることに気付いた。


「行ってみよう」


 騒ぎの中心はある露店。

 布切れかと思うほどボロボロな服を着た男の子が店の前で尻もちをついて倒れており、大きな体をした店主が子供の前で仁王立ちをしていた。


「おい、盗みはいけないことだって教えてやったよな」


 塊のような肉を切って鉄板で焼いた物を売っていた店らしく、そこへ男の子が盗みに入っていた。


「あの格好からして路地裏にいる子供でしょうか」

「孤児が盗みを働くなんて珍しくない」


 たしかにアリスターでも同じような光景を見たことがある。


「……」


 そんな光景を見る度にノエルが心を痛めているのも分かっているのだが、お金を渡したところで一時凌ぎにしかならない。

 盗みをしなければならない理由を大人も分かっている。だから、教育の為に叱って分からせて放してあげる。

 ウィンキアでも同じようにしていたのをシルビアが以前に目撃している。


「へ、しばらく寝ていたから腑抜けているのかと思ったらそうでもなかったみたいだな」


 盗みを働いた男の子が不敵に笑う。

 以前から盗みを働いていたらしく、叱られても反省はその場凌ぎで毎日を生きる為に何度でも盗みを働いている。

 そして、常習的に襲われているのが肉屋の店主。


「何度言ったら分かるんだ?」

「こっちは生きていく為にやっているんだ」

「その度に俺たちが困っているんだぞ」

「そんなのおれの知ったことじゃないさ」


 呆れたように溜息を吐く店主。


「そうか」


 騒ぎそのものは見慣れたものなのに異様に感じられた理由が分かった。


「なんか雰囲気が悪くない?」


 当事者の店主と少年が、ではない。

 騒ぎを見ている人々の雰囲気が険しい。


「悪いが憲兵に突き出させてもらう」

「そうだ。そんな反省しない奴は一生牢屋にでも入っていればいいんだ!」

「いや、いっそ死刑にでもした方がそいつの為なんじゃないか?」

「そりゃいい!」


 過激な事を言い出し、終いには笑い出してしまう人々。

 内容もそうだが、普段とは全く違う様子にようやく気付いた男の子が尻もちをついたまま後退る。


「悪いことをした奴は捕まる。子供でも分かる事だ」

「な、なんでだよ! いつもなら……」


 男の子も自分が子供で、頼る相手のいないことで見逃してもらえていたことを知っていた。だから強く言い返すことができない。


「来い」

「い、いやだ……!」


 男の子へ伸ばされる手。

 しかし、その手が辿り着くよりも早く男の子の姿が掻き消える。


「え……」


 男の子を抱えたノエルが近くの建物の上におり、その場から逃げる為に走って離れた。


「あそこだ!」

「おい、そこの女!」

「追うぞ!」


 血走った目で追う人々。

 全員が追い始めた訳ではなく、騒ぎを見ていた半数近くが戸惑った様子で追う人々を見ていた。


「どうしたんだ、あいつら……?」

「ちょっと話を聞かせてもらえませんか?


数日なんて猶予はありません。

事態は誰も知らないところで深刻な状況になっています。

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