第22話 遺跡の夜
助けたブレイズさんパーティ、それから偶然遭遇したイリスティアパーティと共に近くにあった部屋の中にいる。
「ありがとう」
「いえ、痕とか残らなくて良かったです」
ゴーレムの攻撃を受けて傷を負ったマリアンヌさんをメリッサが治療していた。
他にもギルダーツさんとかが疲れて座り込んでいた。
「みなさん、準備ができましたよ」
「おっ、シルビアちゃんの料理だな」
シルビアには大人数でも食べられるシチューを用意してもらっていた。
部屋の中心では薪を用意し、魔法で火を熾せば調理など簡単だ。
グレイさんがシルビアの料理を気に入ったのか食い付いている。
「あ、こら!」
リシュアさんがグレイさんを止めている。
相変わらず仲のいいパーティ……幼馴染たちだ。
アイラも手伝って皆にシチューを配る。容器は、形はバラバラだが色々と収納してあるので大人数で食べても対応できる。
「私たちまでご馳走になってよかったのでしょうか?」
「はい。大丈夫ですよ」
食糧は大人数で食べても問題ないほど持ってきているので3つのパーティが合流しても問題ない。
その代わりに情報を聞かせてもらう。
全員にシチューが行き渡ったのを確認してから聞いてみる。
「みなさんは俺たちよりも早く4階に来ていたと思うんですけど、5階には行かなかったんですか?」
ギルドの予想では遺跡は5階までだとされていた。
遺跡は上に行けば行くほど狭くなっていくので4階ともなればすぐに探索は終わるし、5階には遺跡の最奥を守るボスがいるだけかもしれない。
「そういえば強いせいですっかり忘れていましたけど、遺跡探索は今回が初めてでしたね」
イリスティアが温かいシチューを食べながら教えてくれる。
「遺跡の最奥にいるボスは、これまでの遺跡の中にいた相手とは比べ物にならないほど強い相手です。おそらくあなたが先ほど倒したゴーレムよりも強いゴーレムが控えていると思います」
体が硬く、重い一撃を繰り出すことのできるゴーレムは番人には打って付けと言えた。
「つまり、他のパーティと一緒に合同で倒すことになっている?」
「そんな取り決めがあるわけではありません。ただ、1つのパーティだけで挑んだ場合には良くて怪我をしてしまう、最悪の場合には壊滅的な被害を受けることになるので協力しようということになっているんです」
「なるほど」
「4階までの探索でほとんどのパーティが疲れているでしょうから、私たちと同じようにどこかの部屋で休んで明日の朝にでも合流して討伐するというのが暗黙の了解になっています」
そういうことなら納得だ。
イリスティアパーティは疲れているようには見えないが、ブレイズさんたちは仲間が負傷したこともあって疲労してしまっている。それに疲れていないように見えてもボスに挑むのは危険かもしれない。
俺たちは……
「とはいえ、それはあくまでも暗黙の了解。誰かが合流前にボスを倒してしまっても文句は言えません。遺跡の最奥にある財宝はボスを倒したパーティにだけ所有権を主張する権利がありますので、フライングをする冒険者がいないとも限りません」
「いいんですか、そんなことをして?」
「いいんだよ。俺たちは、協力することはあっても仲良く遺跡を探索しているわけじゃない。遺跡の中で得られる物なんて早い者勝ちなんだからよ」
ブレイズさんが教えてくれる。
イリスティアも同じ意見なのか何も言わなかった。
まあ、俺たちよりも冒険者として先輩の2人が言うのだから間違いない。
「とはいえ、ここに遺跡のボスを倒せるだけの実力があって消耗もしていない奴がいるけどな」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらブレイズさんが俺のことを見てくる。
「俺は、ボスを倒すつもりはありませんよ」
この数日で色々と稼がせてもらったし、貴重な経験まで積ませてくれた。
これで遺跡の最奥にある財宝の所有権まで手に入れてしまっては他の冒険者から恨まれることになりそうだ。なので、明日ボスに挑む時にはサポートに徹して戦いを遠くから見させてもらうつもりだ。
その後、4階にどんな物があったのか話を聞かせてもらいながら夕食を食べていた。
彼らから聞く話によれば既に4階の探索はほとんど終了しており、目ぼしい財宝も残されていないとのことだ。後は、最奥にいるボスを倒すぐらいなので今日できることは何もないらしい。
と、和気藹々と話をしながらパーティメンバーだけで夕食の片づけをしていると……
「おい、イリスティアはいるか!?」
扉を開け放って1人の冒険者が部屋の中にいる冒険者の中からイリスティアを見つけ出していた。
「あなたは……」
イリスティアが見覚えのある冒険者に眉を顰める。
俺も見覚えがある。たしかルフランの仲間の冒険者の1人だ。
「頼む! ルフランさんたちがボスの前に取り残されているんだ!」
冒険者の言葉に思わずイリスティアも溜息を吐いてしまう。
俺も溜息を吐きたくなってしまった。
「あなたたちは、自分たちだけでは敵わないと知りながらボスに挑んだんですか?」
大方遺跡の最奥にある財宝を自分たちだけで独占する為に挑んだんだろう。
「仕方ないだろ。3階と4階とそれなりの稼ぎを得たけど、換金すれば金貨20枚程度の価値しかない。そこからお前から買った地図の代金を支払ったら余裕なんて残らねぇよ」
彼らも遺跡に挑むに当たって色々と準備をしてきた。
黒字にするつもりなら少しでも多く財宝が欲しいところだ。
「だからボスに挑むしかなかったんだ!」
なんだ、そんなことか。
「それで?」
「お前も俺たちと同郷の冒険者なら助けてくれ! ルフランさんたちは、俺に助けを呼んで来いって言って1人だけ逃がしてくれたんだ……って、おい!」
自分の言葉を無視して片付けを続ける俺たちを見て冒険者が怒っていた。
俺も仲間が危険に晒されている状態でこんな態度を取られたら怒りたくなる。それが分かっているからこそ、そんな事態にならないように準備し、生き残る為に最善を尽くす。
もう、俺1人だけの人生ではない。
正義感に駆られて助けに行くような真似はしない。
それは、イリスティアも同じなのか冒険者を無視して火の前で体を暖め始めた。
「まさか……助けないのか?」
「冒険者は、自由である代わりに己の行動に責任を持たなければなりません。あなたたちは財宝を欲しいが為に暗黙の了解を破った。ま、ボスの討伐はここにいるメンバーで戦えば問題ないので、明日の朝にでも倒しますよ」
「それじゃあ、間に合わないんだよ!」
冒険者が暗黙の了解を破った自分たちの行動を棚に上げてギャアギャアと言っている。
なんとなく見覚えのある光景だと思って眺めていると理由を思い出した。
あれは、俺が迷宮主になったばかりのことで、迷宮から出てくると死んだ仲間の遺体を運ぶのを手伝ってくれ、行方不明になった仲間を探してくれとサポーターの男が叫んでいた。
結果、アルミラさんの提案もあって冒険者ギルドで冒険者を募って仲間の遺体を回収することはできたが、行方不明になった冒険者を見つけることはできなかった。
ま、2人を殺したのも見つからない場所に叩き落としたのも俺なんだけどな。
「そこまで助けてほしいっていうなら俺たちが助けてあげなくもないですよ」
「本当か!?」
「ただし、報酬は貰いますからね」
「……え?」
俺の言葉がよほど意外だったのか呆然としている。
あの時、遺体回収に協力してくれた冒険者だがサポーターが持っていた金貨数枚分はする宝石と交換に仕事を引き受けていた。
それと同じように俺も報酬の代わりにルフランたちの命を助けてあげようと提案してあげているだけだ。
「金貨で10枚。きちんと支払ってくれるなら助けてあげますよ」
「……っ、そんな大金払えるわけがない!」
「だったらこの話はナシですね」
命には代えられないのか値下げ交渉に入り出した。
「金貨5枚だ」
「10枚」
「……7枚まで出そう。これ以上は――」
「10枚」
値下げしようとしているが、はっきり言って付き合うつもりはない。
金貨10枚からの変更などありえない。
俺たちだけで最奥にある財宝を独り占めにしてしまうのはよくないが、高額な報酬を提示されたから仕方なくボスを倒した。これでいこう。
「分かった。金貨10枚で手を打とう」
「まいど」
「その代わりにきちんと助けろよ!」
そういうことなら急いでボスのいる場所へと向かうことにしよう。
食事をしながら階段の場所は聞いているので問題ない。
シルビアたちを連れて出ようとするとルフランの仲間の冒険者だけでなく、イリスティアやブレイズさんたちまで付いて来た。
「……なにしているんですか?」
「いや、俺たちも助けることには興味ないが、お前が戦っているところを見てみたいんだよ」
思わず溜息を吐きたくなってしまったが、構わずにボスのいる場所に向かって走る。
「そういえば、ボスってどんな奴なんだ?」
「とにかくデカくて異常に硬いゴーレムだ」
ゴーレムか。
俺の魔導衝波でも問題なく倒せるだろうけど、パーティメンバーなら誰でも問題なく倒せそうな気がする。
1分も走ると階段が見え、一気に駆け上がると何もない広大な部屋に出る。
そこには……
「ぐっ……」
ゴーレムの一撃を受けて倒れるルフラン。
他にもルフランの仲間が何人か倒れているものの怪我をしているだけで命に別状はなさそうだ。
「問題は、ボスの方だな」
銀色に輝く巨大な人型の魔物。
うん、ミスリルゴーレムだな。