第15話 襲撃の大聖堂
部屋の外で宙に浮かぶ海月の魔物。
壁が溶かされたことで外が見えるようになり、部屋の中から見えるだけでも20体以上の悪魔の海月に囲まれている。
示し合わせたようなタイミングで全ての触手が向かって来る。
「イリス」
名前を呼ぶと一瞬で【氷神の加護】を発動させる。
羽衣を纏ったイリスの魔法によって触手が部屋の中へ入るよりも早く、壁があった場所に氷の壁が作られる。
氷の壁に阻まれる触手。
だが、触手の先端から流れ出る力が氷の壁を溶かそうとする。
「無駄」
氷の壁を溶かしてしまうよりも早く冷気が悪魔の海月を覆い尽くしてしまう。
氷の中に閉じ込められた悪魔の海月が地面に落ちる。
「どうやら酷い状況みたいだな」
外に出なくてもあちこちから聞こえてくる悲鳴を耳にするだけで酷い状況だというのが分かる。
イリスが解除した氷の壁があった場所から外へ出る。
「そんな……!」
同じように外へ出たクラウディアさんが驚いて口を開けたままになっている。
「どうして、こんな中枢に侵入されるまで気付かれなかったんですか!?」
建物の下部分が溶かされて崩れ落ちる。中に人が取り残されていれば潰されてひとたまりもない。
悪魔の海月による仕業。
ただし、そういった惨劇も大聖堂を中心に広がっている。建物を破壊している悪魔の海月の目的は足止め。建物を崩されたことで道が塞がり、近くの駐屯所から騎士が駆け付けるのが遅れる。
魔物とは思えない思考。
「メリッサ、お前は上から外で暴れている海月を狙い撃て」
「かしこまりました」
屋根の上へ跳び移ると杖を構えて建物を溶かしていた悪魔の海月を光の矢で射抜く。そのまま狙いを変えると別の海月を撃ち抜いていく。
「いったい、何体いるのですか……」
ここから感じられるだけでも30体以上の悪魔の海月がいる。
「数以上に現れた方法が分からないな」
場所は首都の中心。
都市を囲む外壁には魔物が嫌う塗料が塗られており、近付けないようになっている。
いや、それ以前に外から侵入したのなら大聖堂へ到達するまでの間に被害が出なかった理由が分からない。
「こんな深い所に侵入されるまで気付かなかったのですか!?」
「そ、それが……」
クラウディアさんが報告に訪れた神官に詰問している。
「魔物の襲来を伝えた兵士によれば『いきなり現れた』と言っておりまして。急に湧いて来るのを私も見ております」
『その方の言葉は嘘ではありません』
自分が見ている光景を共有するよう言うメリッサ。
彼女が見ている先では、何もない大通りの地面をすり抜けるようにして下から飛び出してくる悪魔の海月の集団がいた。
「まさか地面をすり抜けることができるから地下から来たのか!?」
『そうではありません』
今度は別の場所を見るように言ってから顔を向ける。
崩れた建物の上、何もない場所で唐突に悪魔の海月が姿を現す。
『敵はどこにでも出現することができます。どのような方法で出現しているのか知らないことには湧くのを止めることはできません』
まずは出現する方法を突き止めなくてはならない。
ただし、同じぐらいにしなければならないこともある。
「イリスはここでクラウディアさんたちの護衛」
「わかった」
「シルビアは走り回って怪しいものがないか探せ」
「具体的には?」
今のところは『怪しいもの』としか言いようがない。
「……いえ、探しに行きます」
具体的な答えがないことに気付いたシルビアが音もなく姿を消す。
「アイラとノエルは分かれて大聖堂を襲う海月を仕留めろ」
「ここにまだ来るの?」
「ああ」
後ろを振り向く。
すると、シャボン玉が弾けるような光景の後に海月が出現していた。
生まれると同時に触手を伸ばす。ギリギリで回避すると海月の体を神剣で貫いて地面に串刺しにする。
剣を引き抜くと同時に新たに生まれた2体の海月が触手を伸ばしてくる。
触れれば溶かされてしまう触手が迫っていても慌てない。
「二人とも、ご苦労」
触手が到達するよりも先にアイラとノエルが処分してくれる。
「明らかにここが狙われている」
理由は二つある。
一つは大聖堂に多くの人が集められていること。しかも、抵抗する術など持たない眠ったままの人々。これほど襲いやすい人もいない。
それよりも重要なのが俺たちの存在。
「どうやら敵は俺たちの存在が目障りらしい」
風の刃を飛ばして遠くに出現した海月を両断する。
どれだけ倒したところで諦めることなく向かって来るところを見ると起こす方法を見つけられるのは困るようだ。
「向こうは俺たちが眠っている人たちを見捨てられないことが分かっていて、同時進行で彼らも襲おうとしている。中途半端な事をした身として絶対に誰も犠牲にするな」
「「りょうかい」」
二人が反対方向へ走り出す。
大聖堂を中心に片っ端から目につく海月を倒していく作戦だ。
「で、マルスは?」
この場に残ることとなったイリスが尋ねてくる。
「あそこを見ろ」
街ではメリッサの攻撃以外に倒されている海月が現れ始めている。
首都であるウィンキアにはSランク冒険者が待機している。おそらく彼らによる攻撃だろう。
「俺たちからすれば海月は弱い。簡単に倒しているけど、他の冒険者が相手をするとなるとSランクや最低でもAランク相当の実力が必要になる」
10体の海月が横に並びながら宙に浮いて近付いて来ている。
進路上に土壁を出現させれば土壁に張り付いて溶かそうとする。全員が都合よく並んだ状態。横薙ぎの斬撃を飛ばせばまとめて落とせる。
「おそらく海にいた巨大な海月もそこら辺にいる海月共の寄せ集めにすぎない」
なら、指示を出している本当の本体がどこかにいる。
「この数を考えればSランク冒険者の協力が得られても自分たちで探すしかないだろうな」
「でも、どうやって?」
シルビアが怪しいものを探してくれているが、それも間に合うか不安になる。
それに襲撃を掻い潜りながらの探し物は大変だ。
「ちょっと時間を調達したいから準備に取り掛かるよ」
シャボン玉が弾けると、シャボン玉のような体の下に触手を何本も持った海月が生まれます。
現状、無限湧きしているような状態です。