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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第11話 夢の通路-後-

 触手を叩き落とすと、そのまま錫杖を向けて風の弾丸を放つ。

 悪魔の海月が持つ能力が外と変わらないのなら触手に触れるのは危険だ。できるのなら遠距離からの攻撃が望ましい。

 風の弾丸の直撃を受けた悪魔の海月の1体が弾け飛ぶ。


「よし!」


 どうやら外で遭遇した時と変わらない強さらしい。


「さ、お母さんの所に帰るよ」

「でも、どうやって……?」

「お姉さんの手を掴んでいればいいから」


 左手でドル君の手を掴むと右手の錫杖を悪魔の海月がいる方へ向ける。


「通しなさい」


 海月たちが困惑したように体を向け合う。

 そこから口が裂けて笑顔を浮かべるとノエルを見据える。


「きもちわるっ」


 ひどく不気味な笑い方。


「あれ……?」


 普段通りなら錫杖の先から発生するはずの風が発生しない。


「どうして!?」


 起こるはずの攻撃が起きない。

 戦闘中において、それは致命的な隙を生み出すことになる。


「ケヒヒヒヒッ!」


 笑いながら悪魔の海月が殺到する。

 ただし、向かう先はノエルではなくドル君の方だ。


「ドル君!」


 呆然と立つドル君を守るように立つと錫杖を向ける。

 だが、迎撃に必要な錫杖が泡のように消えてしまう。


「なんで!?」


 武器が失われては迎え撃つことができない。

 咄嗟にドル君を守る為に覆いかぶさる。


「ケヒ……ッ!」


 背を向けた後、襲撃がなく気味の悪い笑い声まで消えてしまったことに気付いて顔を後ろへ向ける。


「まったく……感覚を同調させすぎるのも問題だな」


 頭に響く声。

 奇妙な世界で聞こえる声ではなく、本体の耳に届けられた声。


「これ、マルスがやったの?」

「俺とシルビアだ」


 20体以上いた悪魔の海月全てが宙に浮かんだまま締め上げられて苦しそうにしていた。

 しかし、締め上げているものが分からない。

 敵を締め上げているのは【虚空の手】で、二人で分担してどうにか全員を締め上げることに成功した。


「どうやって……」

「お前の視界を借りてそっちの様子を覗くことはできるんだ。これぐらいの芸当もできるさ」


 悪魔の海月を壁に叩き付ける。

 そうなれば塞がっていた道が開けられる。


「さっさと脱出しろ」


 スキルを発動させるだけでもギリギリな世界。

 おまけに奇妙な力が働いていて頭がガンガンする。


「逃げるよ」

「うん」


 今度こそドル君の手を引いてノエルが走る。

 絞めつけられた悪魔の海月を置き去りにすると、海月たちから強烈な怒気が発せられる。


「うそっ!?」


 まるでガラスが割れるような音を聞いたノエルが走りながら振り向くと【虚空の手】が消えてしまう光景を目にする。

 奇妙な力に干渉されて【虚空の手】が消えた。

 拘束する力がなくなれば悪魔の海月が逃げる二人を追い始める。


「もう一度だ!」

「はい」


 弾かれた時の衝撃で離れてしまったが、再びノエルの背に手をついて感覚を強く同調させスキルを発動させようとする。


「なんで!?」

「ダメです!」


 二人ともスキルが発動しない。


「代わってください」


 メリッサの言葉と共に彼女の手が肩に置かれるのが分かった。

 風の弾丸が悪魔の海月の中心を吹き飛ばし、打ち上げられた悪魔の海月を風の刃が切断する。


「……なるほど。理解しました」

「おい」


 10秒ほどの空白を開けて何かに納得していた。


「今、3度ほど風の刃と弾丸を生み出そうとしました。ですが、結果は失敗どころか発動すらしませんでした」


 俺とシルビアの【虚空の手】が発動しなかった時と同じだ。


「こうすればいいだけの話です」


 通路を覆うように土壁が出現する。

 逃げるノエルとドル君、悪魔の海月が分断される。


「以前に遭遇した悪魔の海月はそのような手段を持っていませんでした。なら、この奇妙な空間特有の効果だと思われます」


 土壁に悪魔の海月が張り付く。

 どんな物でも溶かしてしまえる触手で土壁を溶かすつもりだ。


「あの世界では同じ攻撃は発動すらしません。そして、発動した力を打ち消してしまう力も働きます」


 触手によって溶かされてしまう前に土壁が何事もなかったように泡となって消えてしまう。

 ノエルの錫杖が消えてしまった時と同じだ。


「その世界では長くいるのも危険です。ノエルさんやドル君自身は問題ないみたいですけど、サポートするのも限界です」

「あと、ちょっと……」


 子供の手を引きながら走るのは重労働だ。


「にげれるの?」

「うん!」


 安心させる為に満面の笑みを浮かべながら頷く。


「お姉さんを信じなさい。後ろは見ちゃだめだからね」


 自分の手を引いてくれるノエルを信じてドル君が前だけ見て走る。


「ぅぅん……」


 ベッドで寝かされていたドル君が小さく唸る。


「お、戻ってきたな」

「ぷはぁ!」


 ノエルが酸素を求めるように大きく息を吐き出す。

 肉体に感覚が戻ったことによるズレから負担が圧し掛かっていた。


「……おねえさん?」

「そう。ちゃんと戻って来られたでしょ」

「うん」


 ノエルだけが戻るだけならスキルを解除するだけでよかった。

 しかし、あの奇妙な世界に囚われていたドル君を連れ戻す為にはそれだけでは足りない。


 魂だけの存在。本来なら肉体があるのならそちらへ引っ張られる。

 だが、奇妙な世界に囚われているせいで戻ることができずにいた。

 囚われている魂を奇妙な世界から脱出させる。そこで、まずは『脱出することができる』と思い込ませる必要があった。


 手を引いて脱出できる、と強く言い続けることで認識を変える。

 上手くいってくれたみたいでよかった。


「疲れたでしょ。寝ているといいよ」

「でも、またあそこへ行ったら……」


 寝ていたら気付けばおかしな世界にいた。

 寝ることが怖くなっても仕方ない。


「大丈夫。お姉さんが傍にいてあげるし、また連れ去られても連れ戻してあげる」

「ありがとぅ……」


 ドル君がすぐに眠ってしまう。

 肉体は眠っていたが、精神の方は奇妙な世界でずっと彷徨っていた。子供なのに徹夜したのと変わらない状態であるため戻って来られた安堵もあって簡単に眠ってしまった。

 ただし、安全である保障はない。


「メリッサ、空間魔法でこの部屋を完全に遮断。わたしはこの子の魂を守り続けることにする」

「それは構いませんが、まずは部屋の【世界】を解除することにしましょう」

「あ……」


 停止したままの二人。

 部屋の時間が停止する前の状態を思い出しながら元の位置に戻ると時間が停止していたことが悟られないように【世界】を解除する。


チートな空間を作り出すことができる敵が今章のボスです。

現時点で初見の攻撃以外は無効化どころか発動しないチート空間。

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