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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第8話 乗合馬車の母子

 ガタゴト。

 大人数が乗れる乗合馬車に体を揺られながら首都へ向かう。

 俺たち以外にも8人の乗客がおり、穏やかな空気が流れていた。


「たまにはこういうのもいいな」


 普段は急いでばかりの移動。

 あまり目立つ訳にはいかないためノスワージから出ていた馬車に乗せてもらって移動していた。


 馬車の周囲には5人の冒険者が護衛としてついていた。

 いつあるともしれない魔物の襲撃に備えるのが彼らの仕事だ。


「この商売は儲かるのかな?」


 乗客14人を乗せての移動。

 護衛も雇っており、利益がいいとは言い難い。


「さて、どうでしょうね」


 隣の老紳士が応えてくれた。

 人当たりのいい対応でシルビアが聞き出したところ、どうやら田舎の村からノスワージで生活する息子夫婦や孫の顔を見る為に遊びに来ていたらしい。


 本来なら数日滞在する予定でいた。

 だが、巨大海月の襲撃があって急遽村へ帰ることにしたらしい。


「大変でしたね」

「私たちの事はいいのですよ。ただ、あの街で生活している孫が心配ですね」


 悪魔の海月によって港は使い物にならないほど壊れてしまった。

 襲撃そのものは港で食い止めることには成功したが、パニックになってしまったため避難する人々によって街にも少なくない被害が出ている。

 ただし、海蛇によって巨大海月が消滅させられる光景を見ていた人が多くいたため人々の表情は明るかった。


「乗合馬車を出してくれるおかげで私たちは避難することができますから本当に助かっていますよ」

「ええ、本当に教会には感謝しかないですよ」


 乗合馬車は、乗客の運賃だけではやり繰りすることができない。

 それでも維持することができているのは教会から補助金が出ているから。長距離を移動することができない一般の人たちにも気軽に遠出ができるように、という思いから乗合馬車の組合は維持されていた。


「あなたたちは冒険者?」

「はい」

「何か依頼を受けているのかしら?」

「あ、そういう訳じゃないんです。今回はちょっと知り合いに会いに行こうと思うんです」


 老婆と親しく話をするシルビア。

 収納リングから簡単なお菓子を取り出せば老婆の機嫌がよくなる。


「あら、お上手ね」

「ありがとうございます……ん?」


 シルビアからクッキーを渡されると、離れた席に座っていた男の子から見つめられていることにシルビアが気付いた。


「食べる?」


 クッキーをシルビアが差し出せば男の子が近付いて来て受け取る。


「あ、ありがとうございます!」


 お礼も言わず食べ始めた男の子に代わって隣に座っていた母親が申し訳なさそうにお礼を言っている。


「この子ったら……」


 母親が呆れながら男の子を見て、自分の膝の上で寝ている女の子を撫でている。

 姉と弟。馬車が退屈になってしまった姉はすっかり熟睡してしまっている。


「魔物だ!」


 その時、馬車の外から冒険者の怒号が聞こえてくる。

 現れたのは強角鹿(ストロングホーンディア)。角が異様に発達した魔物で、大きな群れを率いるようなボスともなれば体よりも角の方が大きく見えるほど発達している。

 だが、襲ってきたストロングホーンディアは4体。群れ、というよりは家族みたいなもので、冒険者5人の脅威となるような規模ではない。


 安全のため乗合馬車が停止し、一人が残って4人で襲撃に対処している。

 御者も襲撃に対して落ち着いている。


「襲撃はよくあることなんですか?」

「以前はそうでもありませんでしたよ」


 全く襲撃されることなく首都まで辿り着くこともあった。


「ですが、ここ半年ほどは多くなりましたね」


 人間を見ると襲わずにはいられない魔物が増えてしまった。

 魔物の凶暴性が増していた。


「半年……」


 その期間に奇妙な感覚を覚えていた。


「ふぅ」


 御者と話をしていると魔物との戦闘を終えた冒険者が戻って来る。

 さらなる襲撃を警戒して一人が残っていたが、結局は一度の襲撃で終わった。


「ニナ」


 母親が眠っている女の子を揺り起こそうとしているが、女の子は魔物の襲撃があっても動じることなく眠り続けている。

 やがて弟の方も姉が眠っているせいで退屈になってしまったのか母親の膝を半分だけ借りて眠ってしまった。



 ☆ ☆ ☆



 しばらくしてある村に辿り着く。

 老夫婦が住んでいる村で、今日の休む村だ。

 首都までの旅は4日を予定している。まだまだ先は長く、馬車での移動は時間が掛かる。


「何もない村だけど、ゆっくりしていってね」


 村だが、乗合馬車が立ち寄るため宿がある。

 豪勢な出迎えとはいかないが、それでも体を休めるだけなら十分だ。


「さ、着いたわよ」

「ううん……」


 馬車の中でずっと眠っていた女の子が母親に体を揺すられて目を擦りながら体を起こす。

 外が暗くなり始めたことに気付くと、急に空腹を覚えてしまったらしくお腹を押さえてしまった。

 次いで、自分と同じように寝ていた弟に気付いた。


「ドル」


 自分がされたように揺らして起こそうとする。

 母子も早く宿へ向かう必要があるため馬車を下りなくてはいけない。


「困ったわね」


 しかし、弟は全く起きようとしない。

 姉の次は弟が眠ったまま。

 困り果てた母親が男の子を抱えて下りようとする。


「代わりますよ」

「いえ、そんな……見ず知らずの方にそのようなことをしていただく訳には……」

「同じ馬車に乗った仲です。困っているなら手伝いますよ」


 母親は片手を女の子と繋いでいる。

 幼いと言っても寝ている男の子を片手で持つのは大変だ。近くの宿まで連れて行くぐらいなら問題ない。


「それにしてもよく寝ているな」

「慣れていますね」

「これでも家にたくさん子供がいますからね」


 寝ている子供を抱き上げるなど簡単だ。


「本当によく眠っていますね」


 顔が肩の近くにあるおかげで規則正しい寝息が聞こえてくる。


「――失礼」


 真剣な表情をしたイリスが抱えられた男の子に手を当てて状態を確認する。

 さらにノエルを招き寄せると彼女にも男の子の状態を見るように言う。


「これは……」

「いえ、なんでもありません。馬車に乗っていたせいで疲れてしまったのかぐっすりですね」

「まだまだ子供ですよね」


 笑い合いながら子供を宿まで連れて行く。

 母親はこの先にある村で刺繍をして街へ売りに行くことで生計を立てている。父親は冒険者なのだが、低ランクであるため収入が安定せず長期の仕事で家を空けてしまうことが多かった。

 そのため家に子供だけを残す訳にはいかない母親が子供も連れて刺繍の納品にノスワージまで出掛けていた。


「ありがとうございました」


 未だに眠ったままの男の子を渡すと母子が宿の一室に入っていく。

 俺たちも3人ずつ二部屋を借りてベッドに腰掛ける。


『で、何に気付いた?』


 念話で会話をすれば別の部屋にいても打ち合わせをすることができる。

 懸念はイリスとノエルが男の子を見て気付いた事だ。


『残念だけど、あの子の体は空っぽだった』

『肉体的には生きている。けど、中身の魂が全く見つからないの』

「は?」


 念話ではなく、思わず口から言葉が出てしまうほど唖然とさせられてしまった。


海での戦闘はオマケ。こっちがメインです。

何がヤバイかと言うと同じ馬車にいたのに至近距離で触れるまで異常に気付かなかったこと。

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