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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第41章 燈篭悪魔
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第4話 悪魔の噂

 酒場の長いテーブルを借りてパーティで分かれて向き合う。


 船の護衛をしていたのは5人のパーティ。

 拳闘士でリーダーをしているデラク。

 弓士の二人と魔法使いの二人。

 遠距離攻撃に偏ったパーティだが、彼らの専門は船の護衛。近接戦闘が必要な段階になった時点で終わりである船の上ならではの構成だった。

 普段からイシュガリア公国周辺で護衛をしている有名な冒険者だった。


 グレンヴァルガ帝国との航路が使えなくなってしまうのは国にとって痛手だ。助けるつもりで依頼を引き受けたが、かなり奮戦したものの次から次に現れる海月を倒し切るには至らなかった。


「で、何が聞きたい?」

「お前らが『悪魔』と呼んでいた海月は何だ?」

「そんな事を知ってどうするつもりだ」

「目的か。どうするか知る為にも情報が少しでも必要なんだ」


 腕を組んで考え事をしているデラク。

 いきなり情報の開示を求められても信用できていない相手では報酬を渡されても重い口を開くことができなかった。


「あの海月の魔物に困らされているのは見ていて分かった。率先して倒すつもりはないけど、もしも俺たちの敵になる魔物なら倒してやる」

「お前たちに何が……」

「できるさ」


 それだけの力は持っている。

 ただし、分体をいくら倒したところで意味がなく、本体を倒す必要がある。

 本体を見つける為にも情報が必要だった。


「いいだろう。『悪魔』について教えてやる。最初は誰もこんな事態になるなんて想像していなかった」


 今から半年ほど前、海上で船底に穴の空いた船が見つかるだけだった。

 その難破船には誰かが乗っていた形跡はあるものの、人の姿を見つけることはできず、何があったのか知る手掛かりすら得られなかった。


「船は数日前に近くの港から出たものだった」


 数日前まで船員も含めて無事だったことは確認されている。

 では、乗っていた人たちはどこへ消えてしまったのか。

 それから3カ月の間、何度か同じような事件が起きるものの何も分からずにいたところで進展があった。


「ようやく生存者が見つかったんだ」


 たった一人を除いて全員が消えてしまった船。

 一人の少年だけが生き残ったが、それは海月に襲われた際に乗員は小型の救命艇で逃げた。だが、船内の奥で雑用に従事していた見習い船員の少年だけは騒ぎに気付くのが遅れてしまったせいで船に取り残されてしまった。

 仕方なく海へ飛び込んで残骸にしがみ付きながら漂流していた。

 一人だけ別方向へ逃げたため海月は少年よりも救命艇で逃げた人々を襲うことを選び、おかげで少年だけは助かった。


 ――あれは、『悪魔』だ。


 海月の魔物に襲われたせいか、心を病んでしまった少年からどうにか事情を聞き出すことができた。

 船を溶かしてしまう海月。だが、溶かすのは船に留まらず人にまで及んでおり、親しかった人たちが跡形もなく溶かされる光景を遠くから見ているしかなかった。

 その光景は、少年の心に深い傷を残すには十分だった。


「俺たちの乗っていた船は最新式だから大丈夫だったのかもしれないけど、あいつらに触れられると溶けてしまうみたいなんだ」


 実際には溶けていたが、海中での出来事だった為に気付いていない。


「もしも海に落ちていたら俺たちも溶かされていたかもな」


 何が起こっているのか知ってからは護衛を増員した。

 それでも遭遇してしまえば僅かな生き残りだけしか残らない。

 最初の生き残りである少年の言葉もあって『悪魔』と呼ばれるようになった。


「正直言ってどうすればいいのか分かっていない状況なんだ。遭遇したら矢や魔法をぶっ放して船に近付けさせないようにする。俺たちも船の上ならそれなりに戦えると思っていたんだけどな」


 海蛇が現れなければ船は沈まされていた。

 デラクもそれが分かっているから報酬の件を最終的には受け入れていた。


「俺たちも分かっているのはそれぐらいだ」


 それ以上の情報はないようで仲間からも追加はない。

 言い終えたデラクが金貨の詰まった皮袋を投げ渡してくる。ただし、皮袋の中身は変わっていない。


「どういうつもりだ?」

「この程度の情報は冒険者ギルドでも教えてもらえる。情報料をもらうほどじゃないんだよ」


 高ランクの冒険者ともなれば事態解決を望む冒険者ギルドの方から情報を提供してもらえるようになる。


「そっか」


 それだけ言うと立ち上がり、酒場の店主に金貨を1枚渡す。


「おい」

「ここの酒代ぐらいは奢らせてくれ」


 依頼が完全な成功といかなかったなら自棄酒もしたくなるはず。

 金貨1枚は酒代にしては大きすぎるが、それだけの価値がある情報を貰えたので対価に見合ったと思える。


「どう思いますか?」


 酒場を出るとすぐにメリッサが尋ねてくる。


「どうやら船を襲ったのは分体で間違いないようだ」


 倒しても次から次に現れる。

 何かしらの方法で分体の数を増やす手段があり、人を襲うことで活動する為に必要なエネルギーを補給している。


「普通は溶かされる光景を見させられれば溶解液のような毒による手段で溶かしていると思いますが、悪魔が用いている方法は全く異なります」


 溶解液で溶かされたなら何かしらの痕跡が残っていてもおかしくない。

 だが、痕跡が全く残されていないとなれば別の手段が考えられ、悪魔が霊魂を素材に作られていることを考えれば一つの可能性が浮かび上がってくる。


「悪魔は人を襲って霊魂レベルで吸収しています」


 呪いの影響を受けた迷宮が、迷宮の魔力から作られた魔物を魔力に分解して吸収していたのと似ている。


「放置するととんでもないことになるかも」


 イリスも同じ結論に至っていたらしく頭を悩ませていた。

 もう普通の冒険者の手に余る事態になってしまっている。


「問題は、俺たちが関わるべき問題なのかっていうことだな」


 今回、手が空いているようなら手を貸してもよかった。

 だが、懸念事項がある。


「いらっしゃいませ」


 ノスワージの冒険者ギルドへ入ると依頼が張られている掲示板などを無視して受付嬢のいるカウンターへと向かう。


「あの……」


 6人もの大人数でカウンターへ近付けば委縮する。

 萎縮させてしまうつもりはなかったが、6人が一斉に自分のAランク冒険者であることを証明するカードを見せれば受付嬢の表情が変わる。


「どのような用件でしょうか?」


 6人全員がAランクの冒険者のパーティなど限られる。

 プロである受付嬢は一瞬で表情を真剣なものに変えていた。


「首都ウィンキア、もしくはイシュガリア公国で『悪魔』以外に何か異変が起きていたりしませんか」


 未だに『聖女』であるミシュリナさんとは連絡が取れない状況が続いている。


 『悪魔』の出現。

 全くの無関係ではないだろう。

 まずは、窮地に陥っているなら彼女の安否を確認する方が先だ。

無限とも思えるほど湧き出てくる海月の魔物。

公国の危機と言えば危機ですが主人公たちにとっては知り合いの安否を確認する方が先です。

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