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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第38話 聖剣のプレゼント

 エルマーたち4人。

 こちらからはアイラとイリス、それにメリッサを加えてパレント家の屋敷を訪れた。

 アポがなく、忙しなく動き回っている屋敷だったが、何事もなく執事に通されて待たされていた。


「貴族だから出直す必要があると思っていました」

「簡単な事情説明ならイリスが冒険者ギルドに昨日していた。俺たちが詳しい事情を知っているのは向こうも知っているんだ。なら、向こうの方が接触したいと思っているぐらいだ」

「言われればそうですね」


 ジェムが納得すると応接室の扉が開け放たれる。


「いったい何をした!?」


 姿を現した瞬間、怒鳴るように尋ねてきた。


「こっちは依頼を果たしただけです。迷宮で何が起こっていたのか説明します」


 迷宮の異状の原因。

 それは許容を越えた呪いに乗っ取られてしまったことによる暴走。もはや人間を襲うことしか考えられなくなり、迷宮の事情など全く考慮されなくなった。

 最終的にエルマーが迷宮主になることで呪いを追い出すことになった。


 経緯の説明をする。ただし、詳細まで語るつもりはなく、【因果応報】やオーガがどのような状態だったのかなどは語らない。

 パレント家にとって大切なのは、あくまでも迷宮が過去の状態を取り戻せたかどうかなはずだ。


「つまり以前のようになるんだな」


 その質問には簡単に頷けない。


「どうした? お前が管理しているのなら難しくないだろ」

「そうですね。設定すればいいだけですから、元の状態に戻すのは簡単です。ですが、その為に必要な魔力が不足しています」


 今回の一件で迷宮が蓄えていた魔力が枯渇寸前まで使用されてしまった。

 以前の状態を取り戻すには大量の魔力が必要になる。


「金が必要なのか?」

「そこまで単純な話ではないです。金と魔力では、単純な等価交換にならないのでけっこうな金額が必要になります」


 パレント迷宮最大の目玉といえば魔剣だ。

 あれだけの騒ぎが後でも魔剣を求める冒険者は街に多く残っていた。


「なにより魔剣を造る為に必要な呪いが全く残されていません」


 呪怨石も力を失い、ただの鉱石になってしまった。

 平穏を取り戻すことには成功したが、以前の状態を取り戻すには至っていない。


「そんな……」


 魔剣が手に入らないとなれば冒険者が離れて行くことになる。

 冒険者の数が少なくなれば、街の外に出現する魔物への対処が疎かになってしまう。

 その問題は領主の頭を悩ませ、今のパレント家ではガルシュが直面することになる問題だ。


「では、取引といきましょうか」

「なに……?」


 聞こえてきた言葉にガルシュが戸惑う。


「魔剣の素材はこちらが提供します。ただし、タダで譲る訳にはいきませんね」

「予算の許す範囲で許可しよう」

「ありがとうございます」

「ただし、適正価格を提示することが条件だ」

「騙すような真似はしませんから安心してください」


 なにせ今の迷宮主はエルマーだ。清く正しい付き合いを続けるつもりでいる。


「それよりも報酬は忘れていませんよね?」

「ああ、あの程度なら好きにして構わない」


 ガルシュは軽く考えているが、俺とアイラが欲したのは金を積んだだけでは手に入れることのできない代物だ。


「金の方も冒険者ギルドへ既に渡しているから後で受け取ればいい」


 依頼の件はここまで。


「昨日のアレは何だ?」


 ずっと突如として現れた化け物への対処に追われていた。

 途中でオーガの姿にもなっていたから迷宮の下層にいるオーガの存在も黙っていた。


「迷宮に溜まっていた呪いの成れの果て。それが昨日の化け物です」

「正体についてはいい。どうせ聞いたところで公表できるようなものではない。それよりも気になるのは再び現れる可能性があるのかどうかだ」

「それはないと断言します」


 今後はエルマーが迷宮を管理する。同じ失敗はしない。

 なにより呪いが蓄積するような事態にはならない。


「ガルシュ様」

「どうした」


 応接室に執事が入って来る。

 来客中に入って来るなど余程の事態だ。


「なに……!?」


 報告を耳打ちされたガルシュは信じられずにいた。


「ルーデンスで何かありましたか?」

「……!? 知っていたのか」


 パレントの北部にある穀倉地帯を抱えるルーデンス。

 異常が発生したことはメリッサが調べてくれていた。


 執事が退室したのを確認してからメリッサが調べた内容を口にする。


「先ほども説明しましたが呪いは追い出しました。手違いがあってパレントに踏み止まってしまうことになりましたが、最終的には元の場所へ還すことに成功しました」


 気になったのは『元の場所』がどこかだ。

 戦闘後、俺たちの側を離れるとメリッサは呪いがどこへ行くのか調べた。


「追ってみたところルーデンスへ行き着きました」


 もちろん呪いが返ったことで、どのようになったのか自分の目で確認している。

 ガルシュの元へは連絡用の魔法道具で知らされたせいで時間が掛かってしまったが、魔法道具使用のコストを考えれば早い方だ。


「穀倉地帯の作物が一夜にして全て枯れ果ててしまった。しかも土まで駄目になってしまっているらしく、来年以降の収穫も絶望的らしい」


 一夜にして畑を失った穀倉地帯。

 その街の問題だけで収まらず、収穫される作物を頼りにしていた他の街にも影響は及ぶことになる。


「これが呪いの返った結果です」

「まさか、ルーデンス家が?」

「いえ、あの清廉な一族がそのような事をするとは思えません」


 呪いを掛けたのはルーデンス家が携わるよりも前の話。

 豊穣な土地を求めた呪術師が負の力をパレントに押し付けることでルーデンスの土地を清らかにした。

 それから何百年も経てば何の関係もない者に領主は変わる。

 そうして引き継いだルーデンス家は呪いの事など何も知らなかった。


「在るべき姿に戻った。パレント家に責任はありません」

「だが--」


 少し調べれば枯れ果てる直前にパレントで騒動が起こっていたのは分かる。

 二つの因果関係を結ぶのは難しくなく、ルーデンス家が批難するのは目に見えていた。


「たしかに多くの人が見ていました。ですが、何かしらの関係があるように思えても憶測でしかありません。証拠など出てこないのですから堂々としていればいいのです」


 そう。どれだけ批難したところで因果関係を結ぶ証拠がないのだから憶測でしかない。


「せめて呪いをどのようにしたのか教えてくれないか?」


 騒ぎが起きた時、街から多くの人が見ていた。

 そして誰もが印象深く覚えていたのが聖剣の輝き。

 パレント家として正体を知りたくて仕方なかった。


「これですね」


 エルマーが光り輝く聖剣を取り出す。

 聖剣チェルディッシュには最初は反対されたが、どうにか説得して収納リングの中にいてもらった。


「それは、まさか--」

「ええ。俺のプレゼントした聖剣です」

「――なに?」


 おそらく聖剣チェルディッシュだと思ったのだろう。


「ちょっと値は張りますけど聖剣を用意するぐらいは問題ありません。それほど年齢は離れていませんけど、実の息子のように思っていた子供です。門出に聖剣をプレゼントしても不思議ではないでしょう。あなただって子供からお願いされればプレゼントぐらいするでしょう」

「あ、ああ……」


 どうにか言い包める。

 あくまでも俺たちが用意した聖剣で、旅立つ子供の為にプレゼントしたという体で、聖剣チェルディッシュとは全く関係ない。


 聖剣を用意できてしまうことが知られてしまうが、これが最も無理のない言い訳で、子供たちの為を思うなら背負うべきトラブルだ。


「では以前の状態を取り戻すことを最優先に行動します。請求書については後でお送りさせていただきます」

必要経費の捻出を約束させ、聖剣がある貴族とは関係のない代物だと認めさせた。

ばっちり重要な部分は録音しているので後ろ盾を得たようなものです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  アリスター家とマルス達のような関係になれば理想ですな。
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