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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第36話 呪いの戦士 ⑤

 聖剣チェルディッシュ。

 金色に輝く、荘厳な鞘に収まった剣がどこからともなくエルマーの手に現れる。

 収納リングや道具箱から出したのとは違う。いきなり現れていた。


『ようやく使う気になったか』


 この場に誰とも違う青年の声が頭に響く。


「そう言わないで。使えない事情も分かっているでしょ」

『ハッ、あんな連中の事なんて気にせず使えばいいんだ。今の担い手は間違いなくお前だ』


 手にした剣に語り掛けるエルマー。

 どうやら意思を持った剣らしく、声を発することもできていた。


「ど、どういうことですか!?」


 ヒュッ、と【転移】でメリッサが姿を現す。

 聖剣を知っているらしく、顔を近くまで持っていくと驚いていた。


『お、美人さんだね。オレは大歓迎だよ』

「……偽物?」

「知っているんですね。聖剣らしくない言葉遣いですけど、間違いなく本物です」


 興奮が冷めてしまったらしくメリッサが離れたのを確認してから聖剣を下に振る。

 剣の停止した先が斬られたように抉られ、不可視の力が働いているのが離れた場所からでも感じ取れた。


『で、どうする?』

「治療はイリスさんがしてくれたからいい。それよりも僕たちは、あっちを倒すことに専念しよう」

『なるほどね』


 戦場の様子など知らなかった聖剣だが、魔剣を目にしたことで最低限の情報は把握した。

 誰が敵で、どれほど追い詰められていたのか。

 戦闘においては、それだけ分かっていれば十分だ。


「細かい調整はそっちでやって」

『任せて。そっちは斬ることにだけ集中して』


 聖剣から凄まじい光が放たれる。


「へぇ、面白いじゃない」


 ただの光ではなく、魔力を持った光。

 それがエルマーへと移る。


「抜剣」


 鞘から抜かれた瞬間、エルマーの姿が消える。


「え……?」


 呪いの剣士は目で追うことすらできていない。

 俺たちは呪いの剣士の眼前で停止したエルマーを追う。


「いつの間に……!」


 咄嗟に魔剣を振り上げる。

 しかし、懐に飛び込まれてしまっているため斬れるような状態ではない。


「――斬り刻め」


 一閃。

 胴を斬るように振られた剣と共に呪いの剣士の後ろに躍り出る。


「なかなかやるじゃない」


 左脇腹から右胸にかけてパックリと斬られる呪いの剣士。

 しかし、削られるだけでダメージを感じない相手では攻撃に成功した感じが乏しい。


「この程度の欠損は、すぐに直してあげる」

「この程度?」


 聖剣を振り払う。


「へ……?」


 次の瞬間、呪いの剣士の視界が下に落ちる。


「どういうこと!?」


 首を斬られたことで頭部が地面に落ちていた。

 頭部だけではない。腕や足、胴体の至る所に斬撃が迸った結果、バラバラにさせられていた。


 許容限界を越えたダメージ。

 斬られた体の接合を諦めると全身が溶けるように消える。


「面白い能力じゃない」


 斬られた場所からエルマーを挟んで反対側で体を再構築すると、エルマーの立っていた場所に向かって声を掛ける。


「それは、どうも」

「……っ!?」


 しかし、一瞬で距離を詰められて同じような状況になってしまう。


「アタシだって何も考えていない訳じゃない」


 2本の魔剣から迸る炎と電撃がエルマーを吹き飛ばす。

 爆心地の中心にいる呪いの剣士もダメージを受けることになるが、呪いによって何度でも再生するつもりでいるため気にした様子はない。


「まだまだ」


 離れたエルマーに向かって炎を出した魔剣を掲げる。

 魔剣の先端から渦巻く炎が放たれる。


「耐えてね」

『誰に言っているの』


 炎を向けられたエルマーが剣を突き出し、炎に向かって突っ込んで行く。


「うそっ!?」


 呪いの剣士も炎を斬り裂いて突っ込んで来る相手に気付いた。

 聖剣で炎を斬り裂いて左右に流し、作られた道を進んでいる。

 炎を受けることになった聖剣が壊れてしまいそうな方法だが、聖剣は朽ちる様子もなく炎を斬り裂き続けている。


「だったら……!」


 炎を止めると同時に新たに得た魔剣を振り下ろし、真っ黒な斬撃を飛ばす。

 それは呪いを凝縮して作られた斬撃。触れる物全てを腐食させてしまう効果がある。


「チェルディッシュ!」

『おう!』


 炎を抜けたエルマーも聖剣を振って斬撃を生み出す。

 黒と金の斬撃が衝突し、周囲に衝撃を撒き散らす。


 ――パァン!


 拮抗していた力が霧散して消える。


「ははっ、どんなもん……」

「今度こそ逃がさない」


 衝撃波に構うことなく突き進んで来たエルマー。体には至る所に傷があるが、攻撃に支障を来たすほどではない。

 今まで以上に強く光り輝いた剣で斬られる。

 今度は、十数回なんていうレベルの斬撃ではない。百を優に超える斬撃が呪いの剣士の体を細切れにする。


「これだけ小さくすれば大丈夫でしょう」


 ――なんで?


 戸惑うような想いだけが伝わって来る。


「聖剣チェルディッシュには斬ると同時に、魔力による複数の斬撃を叩き込む能力が備わっています。魔力を込めれば込めるほど斬撃の数は多くなり、相手を小さく細切れにすることができます」


 最後の一撃に全ての魔力を込めるつもりで攻撃した。


「さらに僕の【因果応報】も込めました。もう元の場所に戻るべきです」


 ――!?


 既に呪った張本人はいない。だからこそ戻ることができずに溜まっていた呪いが実体を得るにまでなってしまった。


「汚染された土地の力を押し付けられたものです。押し付けた張本人は亡くなっていても、土地は今もあります」


 ――あ!


 その事実を認識した瞬間、別の場所へ引き寄せられるようになってしまう。


「消えた」


 近くには呪いが全く残されていなかった。


「ふぅ」


 息を吐いたエルマーがふらつく体を剣で支えながら耐える。


「それにしても【因果応報】でどうにかなるなら、もっと早い段階でできたんじゃないか?」

「そういう訳にもいかなかったんですよ。あそこまで凝縮されてしまった状態だと【因果応報】も発動してくれなかったんです」


 【魔導衝波】で叩き付けた時も、衝撃によって破壊することには成功したが、呪いを戻すことまでは至らなかった。

 だが、細切れにして小さな破片にしてしまえば【因果応報】も通用した。


「すみません。後は頼んでもいいですか?」


 戦闘が終わった瞬間、気が抜けたエルマーが地面に倒れてしまう。

 仲間の3人も気絶するほどではないがヘトヘトな状態で倒れる寸前といった様子だ。


「安心しろ。俺たちの手を煩わせることなく問題を解決した。ジリーを救う手段だって聖剣と同じようにあったんだろ。なら、何も文句はない。後始末ぐらいは引き受けてやるさ」

「……ありがとうございます」


 気絶して眠ってしまう。


「イリスとアイラは来い。街の連中に最低限の説明だけしてくるぞ」

「では、わたしとノエルで子供たちは引き受けますね」

「ああ、よろしく頼む」

聖剣については次回です。

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