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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第35話 呪いの戦士 ④

「困っているみたいだな」

「マルスさん!?」


 耳に届けられた声に周囲を見渡す。

 聞こえてきたのは間違いなくマルスの声。けれども近くにはおらず、改めて場所を確認しても観戦している場所から動いていない。

 耳元に残る魔力から【風魔法】で声を届けたのだと察する。


「そいつは過去に迷宮で騒ぎを起こした張本人で、迷宮眷属だ。はっきり言ってアイラ以上に強い剣士だ」


 倒せたのも【世界】があったからに過ぎない。


「と言っても、呪いで姿を再現しただけだろうけどな」


 オリジナルほどの力はない。

 それでも再現しただけあって脅威となっている。


「さしずめ呪いの剣士と言ったところか」


 リュゼと同じ姿をしているもののリュゼではない。


「もう対呪いに特化した方法は通用しないぞ」

「それでも、やりようはあります」


 剣を呪いの剣士に向かって振る。すると、剣に纏わり付いていた風が斬撃となって放たれる。

 だが、半歩下がられたことで呪いの剣士の眼前を通り過ぎていく。

 その表情からは余裕が感じられる。


「強い。ああ、本当に強い」


 一気にエルマーへ肉薄すると手首を掴んで力を込める。


「いたっ!」


 突然の攻撃に剣を取り落としてしまう。


「この……」


 ヒュン!

 頭を傾けた呪いの剣士の眼前をナイフが通り過ぎていく。


「ふっ」


 蹴り上げたディアの足が呪いの剣士の顎を打ち据えて吹き飛ばす。

 攻撃が決まったところにジェムが手を痛めたエルマーを回収して離れる。


「平気か?」

「これぐらいなら問題ない」


 すぐさま回復魔法を掛けようとしたジリーを手で制して止め、道具箱から取り出した回復薬で癒す。

 今は道具でできることは道具で行った方がいい。

 攻撃に使える魔力は少しでも温存しておくべきだ。


「こんなもの?」


 着地をした時に受け身を取って何事もなかったように立つと、服についた汚れを払って落とす。

 戦い方が体に染み付いた慣れた者の行動だった。


「この体ならさっきみたいに無様な真似は晒さないよ」


 見た目を再現しただけではない。リュゼが身に付けていた癖や動作といった経験によって得られるものまで再現されていた。

 エルマーの剣から放たれた電撃が呪いの剣士へ向かう。

 体を低くして一気に加速すると電撃を掻い潜ってエルマーへ手を伸ばす。


 エルマーまであと一歩というところで手が引かれる。振り下ろされたジェムの剣が手を伸ばしていた場所を通り過ぎ、ディアの足が後ろへ跳んだ場所に叩き付けられる。しかし、止まることなく跳んだことでディアの攻撃は当たらない。


「あははっ、そんな攻撃当たらないよ」

「これならどう!」


 ジリーの炎を圧縮して作られた弾丸が迫る。

 体を反らして踊るように回避されると弾丸が通り過ぎていく。


「【爆竜煉舞】」


 炎から作られた胴の長い竜がジリーの傍に作られ、体を唸らせながら進む。

 ジリーによって操作された竜はどこまでも呪いの剣士を追い続ける。


「さすがに、それはマズいかな」


 手を空に向かって掲げる呪いの剣士。

 すると、何もなかった手に周囲から呪いが集まり、剣が形作られる。


「それって……」


 エルマーが気付いた。

 ただの剣ではない。魔剣だ。


「カチンッ!」


 呪いの剣士の口から竜の様子が言葉になって口から紡がれる。


 竜の頭が上から下に斬られる。

 普通の剣が相手だったなら何事もなく進むところだが、斬られた場所から冷気が竜を覆い尽くして地に這いつくさせてしまう。

 ジリーがどれだけ操作しようとしても竜はピクリとも動かない。


「次」


 冷気の剣を左手に持ち、再び右手を掲げると新たな魔剣が形作られる。


 新たな魔剣を振るう度に風の斬撃が生まれ、ジリーへと放たれる。

 凄まじい速度で迫る斬撃を何度も回避することができないジリー。初撃はどうにか転がりながら回避したものの二撃目が目前に迫っていながら動くことができずにいた。

 だが、大盾を構えたジェムが割り込んで防御してくれたおかげで助かる。


「ぅ……」


 ただし、防御したジェムが大盾を持っていた左手から力が抜けてしまい、大盾を取り落としてしまう。


「防御したらダメだよ」


 大盾で正面を塞いでいる間に呪いの剣士が迫っていた。

 既に剣が振られている。落としてしまった大盾での防御を即座に諦めると、力の入る右手に持つ剣で迎撃する。


「ぐっ……そういうことか」

「この剣の攻撃は防御しちゃいけないの」


 魔剣に備わった能力は『麻痺』。

 魔剣による直接的な攻撃だけでなく、飛ばされた斬撃を受けても相手を麻痺させることのできる魔剣。

 大盾を手にしていた左手を麻痺させられ、魔剣を迎撃した瞬間に右手も麻痺させられてしまう。


 止めを差すべく冷気の魔剣が迫る。


「4人と戦っていることを忘れていますよ」


 背後から剣を構えて迫るエルマーが声を掛ける。

 まずはジェムから意識を逸らさせる必要がある。


「忘れていないよ」


 足を軸に回転させて前後を入れ替えた呪いの剣士が麻痺の魔剣を振るう。

 魔剣の効果がどのようなものなのか、ジェムの苦しむ姿を見て知っていたため敢えて剣を手放し、体を屈める。

 頭上を通り過ぎていく魔剣を尻目に魔力を纏った両手を叩き付ける。


「【魔導衝波】」


 魔力を叩き付けられた呪いの剣士が内側から爆発したように上半身を四散する。

 マルスが使用していたところを見ている。扱えるようにはなっていたが、失敗してしまえば自分の腕の方が傷付いてしまう危険な技。それでも使用したのは、魔力を叩き付ける攻撃が有効な敵だったためだ。


 上半身を吹き飛ばされたことで仰け反るようになった下半身。魔剣が形成された時と同様に呪いが集まり、魔剣を手にした上半身が形成される。

 ただし、手にしている魔剣の形が変わっている。


「何度やっても無駄」

「そうでもないですよ」

「吹き飛ばされる度に呪いが減っている。そう言いたいんでしょ」


 攻撃を受ける度に減っている。

 ただし、総量に比べたら微々たるものでしかなく、あと何度攻撃すればいいのか分からない。


 終わりの見えない戦闘に焦りを覚えていた。

 対して呪いの剣士には余裕がある。何度でも再生が可能な体に、リュゼを元にした体が全能感にも似た高揚感を与えてくれる。


「アナタたちの実力は分かったよ。アタシの邪魔をしないでくれるかな」

「そういうわけにはいきません」

「なら、仕方ないか」


 溜息を吐く呪いの剣士。

 次の瞬間、離れた場所にいたジリーの胸に地面から飛び出した刃が突き刺さる。


「油断したらダメだよ。この手にある魔剣だけだと思ったら大間違いだよ」


 呪いの剣士が持つ魔剣は、あくまでも呪いを剣の形に凝縮させたもの。魔剣と元となっている物が同じだからこそ魔剣として扱うことができている。


「これで一人」


 魔剣に貫かれた場所から体が石になっていくジリー。

 斬った物を石化させることのできる魔剣によって動けない体へと変貌していった。


「ジリー!」


 すぐさまジェムが駆け寄ろうとする。


「隙あり」


 そこへ呪いの剣士が魔剣を手にして飛び掛かる。

 ジリーの負傷に動揺したエルマーとディアの二人は動けない。


 ――ギィィィン!


 魔剣が弾かれた音が響く。



 ☆ ☆ ☆



「ようやくお出ましなんだ」


 もう見ていられず飛び出してしまった。

 魔剣を叩いた剣を持っていた右腕が痺れるけど、この程度は気合でどうにかなるレベルだ。

 石化の始まっていたジリーもイリスの手によって何事もなかったように戻されている。


「ここからは俺が戦う」


 飛び出してきたのは俺とイリスだけ。

 治療にイリスは必要だったが、相手はリュゼを模倣しただけの呪いの剣士。ゼオンの援護もないし、リュゼ本人と比べても格段に強さが落ちている。

 油断していなければ負ける要素すらないが、ジリーに致命傷を負わされた今は油断するつもりなどない。


「うん、いいよ」

「待ってください」


 呪いの剣士は承諾したが、エルマーの方が承諾できなかった。


「僕は諦めたつもりはありませんよ」

「手が出ない状況で諦めないのは立派だけど、敵わないなら強い奴に任せた方がいいぞ」

「たしかに追い詰められました。ですが、手段を選ばなければ呪いの剣士に勝つ手段だけでなく、ジリーを救う手段だってあったのは間違いないです」


 何も持っていない右手を正面に掲げるエルマー。


「来い――聖剣チェルディッシュ」

魔剣が相手なんですから最後は聖剣を使うべきでしょう。

ということで次話で最後です。

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