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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第33話 呪いの戦士 ②

 空から落ちてくる巨大な岩。

 迷宮眷属になったことで強化された魔力だからこそ生み出すことが可能になった大きさは、広がっている呪いの泥よりも大きい。


「なっ……」


 天災のような大きさを前にして冒険者が言葉を失っている。


「――落ちろ」


 地面に落ちた大岩が呪いの泥を圧し潰す。

 呪いが相手であるため純粋な魔力による攻撃方法を模索していたジリーだったが、エルマーの【因果応報】のおかげでその制約を無視することができるようになった。


 落下した大岩には【因果応報】の力が込められている。

 大量に魔力を消耗してしまうことになったが、たった一撃で潰すことに成功していた。


「す、すげぇ……」

「やったな」


 大岩が落ちる光景を見ていた冒険者から称賛する声が溢れる。

 しかし、エルマーたちの表情は優れなかった。


「いえ、まだです」


 強化された感覚が呪いの息吹を感じ取っていた。


「そもそも持久戦で勝利するしかありません」


 落ちた大岩。その下からスライムのように真っ黒な泥が這い出てくる。


「こっちに来て」


 すぐさま【召喚(サモン)】でジリーを傍に呼び寄せる。

 近くに関係者以外がいるが、気にしていられる余裕もない。


「なんか、こっち見てない?」

「それでいいんだよ」


 スライムのようになった呪いの泥。

 もし、顔があるのだとしたらエルマーたちを睨んでいると思えるほど敵意を伴って体を向けている。


『足りない……』


 頭に響いて来る声。

 【迷宮同調】による念話に似ているが、エルマーたちによるものではない。


「なんだ、この声は!?」


 近くにいた冒険者たちにも聞こえていたようで、突然頭の中に聞こえてきた声に頭を押さえていた。

 しかも、声に驚いただけではない。


「ぐっ、気持ち悪い」


 耐性のない者では声を聞いただけで体調に異常を来してしまうほどの悪意が込められた声。

 普段から鍛えている冒険者だからこそ体調不良程度で済んでいた。


「本当に下がってください! いられると邪魔です」

「……どうやらそうみたい、だな。困らせるつもりはない」


 アドバイスに従ってパレントへ向かう。


「さて--」


 エルマーたちにしても全く影響がない訳ではない。ただし、体調に異常を来すほどではなく、少しばかり不快感を覚える程度だった。


「あの呪いがどのような性質なのかは知っている」


 大災害により淀んでしまった土地のエネルギーを迷宮に押し付けた。

 今でもシステムは生きているため呪いは蓄積され続けているのだが、蓄積されてしまったせいで呪いの性質に変化が生じてしまった。


「人間が憎い、っていうのも分かるかな」


 自分たちが楽をする為に押し付けた。

 憎しみと嫉妬が暴走した結果、人間を恨まずにはいられない。


「押し付けた人間を恨むのはいいんだけど、それでパレントにいる人たちを襲うのは違うからね」


 もう、押し付けた人間は生きていない。

 けれども『人間』なら近くにいる。

 見境なく人を襲う化け物と化してしまった。


「まあ、反省している」


 そのようになったきっかけは【因果応報】にある。

 拒絶されたことによって蓄積させていた思いを暴走させずにはいられなかった。


「安心して。エルマーが間違ったなら正す為に私たちも付き合ってあげる」

「当然だな。一蓮托生だろ」

「ちょっとマルスさんたちみたいな関係に憧れていたんだよね」


 4人ともエルマーのおかげで耐えられている。


「で、本当にどうやって倒すつもりだ?」


 弾いて潰した。

 それでもジェムには呪いの泥が減ったようには見えていなかった。


「いや、減っている」


 弾いても大部分が残っている。けれども、一部は弾いた時に消滅している。


「なら、やることは一つだ」

「全部が消滅するまで潰し続ける」


 やることが明確に分かれば行動に移すのは単純だ。


 だが、そうして敵意を燃やすのが失敗だった。


『こんな体ではダメだ』


 ただ飲み込むだけは同じような結果になってしまうことを理解した。


『もっと強い形が必要だ』


 呪いが強い肉体を求める。

 迷宮で自我を持つことになった呪いの泥にとって強者というのは迷宮を訪れていた冒険者たち、そして迷宮にいた魔物。


 中でも最も戦闘能力が高いのはボスであるゴーレム。

 ただし、アイラに敗北してしまっているため呪いの中で評価が下がっている。もしかしたらエルマーたちが相手なら通用するかもしれないが、既に敗北してしまった形を選ぶつもりはなかった。

 迷っているとゴーレムよりも強い存在に行き当たった。


 戦った訳ではないため実際はどれほど強いのか分からない。

 だが、それでもよかった。

 呪いの泥が求めていたのは強者の形。


「それは……」


 スライムが形を変えるように呪いの泥がある姿になる。


「ふぅ」


 息が吐き出される。

 形を得ただけで、泥そのものであるため呼吸に必要はないものの形を得たことで思わず実体がある存在と同じような動作を得てしまった。


「この体の持ち主を知っているな」


 呪いの泥が選んだのは魔剣を打っていたオーガ。

 戦闘能力の詳細は分からないが、それでも呪いに力に抗い続けていた姿は、まさに強者と呼ぶに相応しいものだった。

 人間よりも大きな体に備わった膂力。

 それは、オーガから見れば小さな体の人間には十分な脅威だった。


「おいおい随分と小さくなったな」


 呪いの泥の総量からずっと少なくなっている。

 何度も攻撃するつもりでいたジェムには自分の仕事が楽になったように見えた。


「ううん、違う」

「むしろ厄介になったかも」


 しかし、エルマーとディアが本質を捉えていた。


「あのサイズに凝縮されたことで弾くのが難しくなった。それに今度は向こうから攻撃してくることになる」

「けど、デメリットだってあるだろ」


 広い体を捨てたことでエルマーたちにとっても戦い易くなった。

 またスライムみたいな体だったことで柔軟な動きができていたが、それができなくなっているのも間違いない。


「絶対に直撃だけは受けないこと」

「ああ、あんなデカい手で潰されたらひとたまりもないからな」


 それだけではない。

 肉体そのものが呪いで構成されているため耐性を得たエルマーたちでも直撃を受ければ異常を来すことになる。


 力と呪い。

 その両方に気を付けながら戦う必要がある。

 己の役割を理解したジェムが盾を手にして前に出る。


「ジリーはさっきみたいに大きな攻撃をする必要はないから隙を見つけてガンガン攻撃して」

「任せて。魔力が増えたおかげで余裕があるわ」


 大岩を落としたことで魔力を消耗したものの収納リングから取り出した魔力回復薬で回復させている。

 メリッサに教わったせいか魔法の使用に関しては強気になっていた。


「さあ、ここからが本番だ」

第2形態:呪いのオーガ

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