表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
1222/1458

第31話 返る呪い

 迷宮主になったことで変化の生じたステータス。

 ただし、今は数値の変化よりも迷宮主になったことで得られたスキルの方が重要だ。


「どうやらスキルを身に付ける説は正しかったようですね」

「あの心の在り様に関係するっていうやつか」


 取得するスキルは性格や考え方――適性に左右される傾向がある。

 前衛の剣士なら弓矢に関するスキルはギリギリ取得できたとしても遠距離からの高火力スキルは手にする事は滅多にない。逆に生粋の魔法使いも最前線で体を張れるようなスキルは手にする事がない。

 役割によるスキルを手に入れることが多いが、その人がどのような人間なのかによって変わってくる。


「それもそうなんですけど、人の願いに反応するという話です」


 強く願った時にスキルを手に入れられる。

 特に命の危機に瀕した際に強い力を心の底から願うことで、新しいスキルを手に入れられるパターンが冒険者に多いせいでそのように考えられていた。

 ただし、実験できるような代物ではない。もし、手に入らなければ命を落としてしまうような状況であるため試みるような人間はいない。


「だけど、僕が『この迷宮をどうにかしたい』と願いながら迷宮主になったせいか都合のいいスキルを手に入れました」

「どうして、そこまで助けようとする?」


 たしかに呪いを侵されたオーガは見ていて可哀想だった。

 俺たちと知り合いというのも大きなポイントだろうけど、危険を冒してしまうほどの関係がエルマーたちにある訳ではない。


「あのオーガもそうですけど、それ以上に迷宮をどうにかしたいと考えているんです。できることなら迷宮を元の状態に戻したいんです」

「え、そうなのか?」


 ジェムが予想外な言葉を聞いて疑問を口にしていた。


「うん。だって、この街はジェムとジリーの故郷なんだろ」

「……!?」

「そうだけど……」


 二人ともパレントが故郷だという自覚に乏しい。

 それでも幼い時期を過ごした街であることには変わらない。


「俺たちの中で故郷と言えばアリスターなんだ」

「故郷が二つあってもいいでしょ」


 つまり、ジェムとジリーにとってアリスターとパレントの両方が故郷になる。

 仲間の故郷が窮地に立たされているなら救ってあげたい。


「こんな理不尽な目に遇っているなら尚更です」

「理不尽?」

「はい。呪いのせいで迷宮核が機能不全を起こしています。自分で調べるしかなかったので正しい保障はないんですけど迷宮の情報を確認しました」


 エルマーによればパレント迷宮は生け贄のように選ばれた土地だった。

 周囲の土地に満ちる淀んだ魔力を呪いの力を借りることでパレント迷宮へ押し付けていた。

 そうすることで周囲の土地は清浄に保たれ、迷宮は逆に汚れ続けていった。


「それぐらいの事をしなければ生きられない世界だったみたいですね」

「この近くが酷かったんだろ」


 人々が迷宮の外で生きようと考え始めた頃の話だ。

 生きることに精一杯で、大を生かす為なら小に全ての責任を押し付けるぐらいのことはしてもおかしくない。

 それが大災害の残した爪痕の一つだ。


「僕にとっては好都合でした。ここにあるのは呪いに変換されていますけど、呪いも大元を辿れば『悪意』ですからね」


 妬み、憎しみ、怨みといった負の感情。

 それらに力を持たせたのが呪いだ。


「――【因果応報】」


 それは、エルマーが神との触れ合いによって手に入れた固有のスキル。

 自身に向けて放たれた悪意を相手に跳ね返すことができる。


「だけど、そのスキルを使ったって呪いを消せる訳じゃないだろ」


 エルマーのやりたい事は分かった。

 【因果応報】で悪意――呪いを跳ね返してしまう。


 だが、【因果応報】はエルマー自身を対象としたスキルであるため迷宮に向けて放たれた悪意まで跳ね返せる訳ではない。


「そこで使うスキルが迷宮主になって手に入れた――【迷宮同位】です」


 【迷宮同位】。

 迷宮主の感覚まで迷宮と同調させることができる。

 迷宮そのものと任意の感覚までも同調させることで状況を把握することができるようになる。


 俺たちも迷宮内の様子を探ることはできるが、迷宮内のどこなのか確認して状況を知ることで把握することができる。ただし、把握することができるのは一つの階層だけ。眷属が協力してくれれば複数の階層の出来事を把握することもできるが、迷宮にある階層の全てを把握することはできない。

 だが、エルマーの【迷宮同位】は全ての階層で起こっている出来事を瞬時に把握することができるようになる。

 ただスキルを持っているだけでは使うことはできない。スキルを使用した瞬間に齎される膨大な情報に使用者の頭を破壊させられてしまう可能性がある。


「ぐぅ……」


 苦しそうな表情をするもののスキルの使用を継続させていた。


「今はそこまで必要ではありませんから無視しています」


 重要となるのは『感覚を同調させることができる』という部分。


「このスキルを一緒に使うことで、僕を対象としたスキルの効果を迷宮全体に及ぼすことができます」


 スキルが使用された直後、迷宮全体が大きく揺れる。

 地震のように感じて踏み止まろうとするが、実際に地面や壁が揺れている訳ではない。


「そこら中に蓄積した呪いが剥がされているんです」

「……大丈夫なのか?」

「はい。今、迷宮に生きている人間は僕たちしかいません。僕たちさえ注意していれば問題ありません」


 その時、地面や壁から黒い靄が溢れ出てくる。

 【鑑定】で詳しく調べたところ蓄積していた呪いが無理矢理に引き剥がされてしまったことで生まれた物で、上にあった黒いマグマと同様の物だ。


 あっという間に黒い靄は水のような液体になり、しばらくするとドロドロとしたマグマに似た半液体へと形を変える。


「さあ、お行き」


 迷宮に在ることを許されなくなった呪いが、形を得て生き物のようにして迷宮の外へと飛び出していく。


「これで問題は解決ですね」

「ははっ」


 賭けには成功したと言っていい。

 今回は【因果応報】を持ち、【迷宮同位】を手にすることができたエルマーだからこそ救うことができた。


「誇っていいぞ。お前は立派だよ」


 救おうと願い、力を手に入れて実際に救うことに成功した。


「あ、ありがとうございます。どんな賛辞より嬉しいです」


 涙を流すエルマー。

 その言葉は、自身が立派な人間になれたことの何よりの証明になってくれたようだ。


「では報告に戻りましょうか。今後はパレントを拠点に活動することになるでしょうから」


 迷宮の管理を思えば最も近くにある街を拠点に活動した方がリアルタイムな情報を得られる。


「いいのか?」


 旅自体は、彼ら自身が終わりだと思えばパレントを終点にしてもかまわない。

 だが、そうなるとアリスターに帰って拠点にするというのは難しくなる。


「安心してください。私のスキルが解決してくれました」


 エルマーが【迷宮同位】を手に入れたようにディアも何かしらの特別なスキルを授かっていた。


「マルスさんたちの協力が必要なんですけど、いいですか?」

「もちろん」


 4人がアリスターを故郷のように思ってくれているのは俺たちとしても純粋に嬉しい。協力が必要だと言うのなら受け入れる。


「……なあ」


 帰ろうと動かした足をピタッと止める。


「跳ね返された呪いはどこへ行くんだ?」

「【因果応報】と同じ結末になるのなら呪った本人に帰ります」


 そうはならない。

 なぜなら術者が生きていたのは、大災害が起きた後で今から1000年以上も前の出来事のはずだ。今も呪いは継続して流れ続けているものの、それは呪うシステムが今でも生きているだけ。

 術者本人はとっくの昔に死んでいる。


「まだ終わった訳じゃない」

「え……」

「地上がとんでもないことになっている。見に行った方がいいぞ」

次回からボス戦です。

プロットだと呪いにより暴走状態・強化済みなオーガがボスでしたが、生かす方向に変えたため騒動の原因だけでなくボスも兼ねてもらうことになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ