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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第7章 遺跡探索
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第19話 少女の交渉

 宝箱の中には小さな赤い宝石が入っていた。


 宝石を回収すると2階の探索を行う。

 結果、半日も探索を続けたおかげで3階に続く階段を見つけた。


「今日はこの辺りで帰ることにしようか」

「はい」


 ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認すれば帰る頃には夕方になりそうな時間だ。

 帰りはそれほど時間が掛からない。

 2階の探索は地図を作製しながらだったため時間は掛かってしまったものの自分たちの手で作り上げた地図を見れば、階段のあった部屋までの行き方がしっかりと分かる物になっていた。


「あとは、地図に従って戻るだけだな」


 俺たちの走る速度なら道順さえ分かっていればあっという間だ。

 遺跡の2階は、ピラミッド型の構造上どうしても1階よりも狭くなっている。それは、空間拡張された遺跡の中でも同じらしく探索に掛かった時間は短く済んだ。


「出口だ!」


 やはり、迷宮や遺跡のような閉鎖空間よりも陽の光が届く外の方がいい。


 遺跡の外に出ると既に陽が沈み始めていた。

 冬ということもあって陽が沈むのは早いが、それでも2階の探索を終えて戻って来るのに半日近い時間を要してしまったことには違いない。

 3階や4階の探索には遺跡内での泊まり込みを考えた方がいいかもしれない。


 迷宮と違って探索に時間がかかってしまうのは遺跡には入口から自分の好きな階層へと移動することのできる転移結晶がないせいだ。安全に休む為に遺跡の外へと戻り、最初から探索をやり直す。中にいる魔物などは退治され、地図も作られた後なので最初ほどの時間は掛からないが、時間がかかってしまう。


「夕食はどうする?」


 だが、まずは今日をしっかりと終わらせる必要がある。


「ご主人様は何か食べたい物はありますか?」


 シルビアなら俺が「これを食べたい」と言えば、たとえ屋外でも可能な限りの手を尽くして調理するのだろう。


「シルビアの作りたい物でいいぞ」

「わたしのですか?」

「ああ、今日のMVPはお前だからな」


 罠を見分ける力を身に付けてくれたのは密かに嬉しかった。


「でしたら、せっかくですから露店の方を見て回りませんか? 遺跡周囲で得られる食材にはちょっと興味があったんです」

「あ、あたしも何が売っているのか気になっていたわ」

「どうせなら手に入れた魔石も売ってみましょうか」


 普通の冒険者は荷物になるから手に入れた魔石は商人に売って換金してもらう。

 俺たちは収納リングだけでなく、無限に収納することのできる道具箱(アイテムボックス)があるから気にならないが、せっかくだから売ってみよう。


 と、露天商のある方へ向かっていると怒声が聞こえてきた。


「3階までの地図が金貨3枚だと!?」


 声の主はルフランだ。

 相手は今朝にも遭ったイリスティアだ。

 ルフランの言葉から何をしているのか予想ができてしまった。


「私がせっかく同郷として好意から苦労して作り上げた地図を売ってあげようというのにそんな態度を取るのですか」

「黙りやがれ、小娘が!」


 20代後半のルフランから見れば俺たちと同年代のイリスティアは子供に見えるだろう。

 だが、冒険者は実力が絶対の世界だ。

 その辺りのことを理解していない力のない奴のセリフだ。


 ルフランがイリスティアに向かって手を伸ばす。


「――氷棺(アイスコフィン)


 短い魔法の名前を唱えるだけの詠唱。

 それでも発動させられた魔法は、ルフランの伸ばした手の周囲に氷を発生させ手が一瞬の内に氷漬けにされる。


「テメェ……!」

「明日は麻痺ではなく凍傷で休みますか? 私はどちらでも構いませんよ」

「クッ……」


 AランクとBランクとはいえ、イリスティアとルフランとの間には大きな実力差がある。

 ルフランではまともな方法ではイリスティアに勝つことは不可能だ。


「それで、金貨3枚ですが払いますか?」

「……今は手持ちがねぇ」

「それは、麻痺防御の護符を買ったからでしょう」


 持って来ていたんじゃなくて買ったのか。

 となると露天商の中にはそういう物を取り扱っている奴らもいるのか。


「遺跡内で得られた財宝や魔石を売って得た報酬でもいいですし、クラーシェルに戻ってから支払う方法でも構いませんよ」


 そう言って懐から1枚の紙を取り出す。

 そこには、おそらく金貨3枚で地図を売ることが書かれており、しっかりと支払う旨が記載されているのだろう。

 朝の騒動からルフランたちが支払い能力に乏しいことを察したイリスティアは、ルフランとの取引に応じる前に契約書を用意しておいたのだろう。


「3階は私たちも少しばかり探索した程度で他の冒険者もまだ探索していません。そこへ1番乗りする為に必要な道具ですよ。というか1番乗りでもしなければ赤字ではないのですか?」


 遺跡探索に赴くということは遺跡を探索して得られた財宝がなければ収入がないということになる。

 日々を生きる為には食料などによって資金を消費し、遺跡探索に赴く為に様々な道具を購入したりしているはずだ。今回、遺跡に挑むにあたってルフランたちも既に少なくない出費をしている。

 それを探索で挽回する必要があるのだが、2日も無駄にしてしまっている。


「分かっているよ!」


 イリスティアがルフランの言葉を聞くと腕を覆っていた氷に触れる。すると、氷が水になって溶ける。

 奪うように契約書を引っ手繰るとサインをする。


「これでいいんだろ!」

「ええ、しっかりと稼げることを期待しますよ」


 ルフランが何も言わずにズカズカと自分のテントがある方へと戻って行く。

 イリスティアは地図がしっかりと売れたことで喜んでいるようだが、ルフランとは活動する街が同じはずだ。変な禍根を残さないといけないんだけど。


「大丈夫ですよ」


 契約書に視線を落としたままイリスティアが俺の不安に応えるように言う。


「彼はBランク冒険者パーティのリーダーですが、他のメンバーの実力はそこまでではありません。クラーシェルのギルドマスターは情に甘いところがあるので、長年Cランク冒険者に甘んじていたルフランの夢を叶えてあげたらしいです」


 冒険者にとってBランクになることは目標の1つになっていた。

 それは、Bランクへと昇格するためには登録しているギルドのギルドマスターから実力を評価される必要があるからだ。


 ギルドマスターから実力を評価された冒険者。


「それにクラーシェルには色々な事情があって強い冒険者に常駐してほしい理由があるんです」


 イリスティアは左手の中指に嵌められた指輪に魔力を込めて収納リングを作動させると契約書を収納する。

 本当に実力のある高位の冒険者なら収納リングを購入するのは難しくない。


「それこそ彼ら程度でも必要とする状況です……」

「イリスティア」


 仲間の3人が近付いてきたことで話が中断され、事情を聞くことができなくなった。


「どうしました?」

「これから魔石なんかを一緒に売りに行く予定だったのになかなか戻って来ないから心配になっただけだ」

「安心して下さい。ルフランが少々ごねてさっさと買い取らなかっただけです」

「あれには困ったものだ」


 はぁ~、と溜息を吐いている。

 どうにも同じ出身なのに扱いが悪いな。


「よかったら、みなさんも一緒に魔石を売りに行きませんか?」

「え……?」

「ここの商人たちは重い荷物を持った冒険者の足元を見るような商売をしてきますから」

「でも……」

「行ってあげてください」


 イリスティアの仲間の1人でローブを着た魔法使いが俺にそっと近づいて小声で伝えてくる。というかイリスティアの陰に隠れてしまっているが、彼女の仲間たちだって強い。

 だが、俺たちに向けてくる視線は優しい。まるで娘とその友達に向けるような温かいものだ。


「彼女は、幼い頃から冒険者として活躍してきました。だから同年代で自分と同じように活躍できる者がいることが嬉しいのですよ」

「いいですよ」


 こういう場所での取引は俺たちも慣れていない。

 せっかくだからベテランであるイリスティアから色々と学ばせてもらおう。

 それにシルビアたちにとっても自分と同じ少女冒険者との交流は悪いことではない。


「それに、どうせなら夕食も一緒しませんか?」

「いいのかい?」

「ええ、構いませんよ」


 食糧をたくさん持ち込んでおいてよかった。


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