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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第28話 呪いのオーガ-後-

「そうか。到着したのか」


 重たく響くような声が発せられる。

 ただし、以前のような力強さはなく、どこか弱々しくなっていた。


「……本当にいいんだな?」

「他に選択肢がない。なら手元にある選択肢の中で最善を選ぶだけだ」

「事情を説明してください」


 意識を取り戻したオーガを一端放置して事情説明を続ける。


「もし、お前たちだけで辿り着いて今の状況だったならどうする?」

「僕たちだけでは辿り着けないと思いますよ」

「そんなことはない」


 地下31階へ行く方法については見当をつけていた。

 エルマーが気にしているのは地下31階以降での状態。俺たちのサポートなしでは辿り着けなかったと思っている。ただし、あの件に関しては俺たちに責任が一方的にあるのでサポートしたに過ぎない。


「あ、わたしが最初に来た時には何も起こらなかったの」


 シルビアが先行した時には大人しいものだった。だから黒いマグマを奇妙には思いつつも急いではいなかった。

 ところが、地下35階に到達した瞬間に活性化してしまった。

 おそらくマグマに近付いたことで人間の接近を察知されて警戒されてしまったのだろう、というのが俺たちの見解だった。


「じゃあ僕たちが最初に来ていたら何も起こらなかった、っていうことですか?」

「その可能性が高いだろうな」


 だから活性化した呪いに対しては全力で対処した。


「ここへ辿り着いたお前たちが目にするのは全身を呪いに侵されたオーガ。もし、無視して先へ進んだとしても、今のお前たちではどうやっても勝つことのできないボスがいるから実質ここが終点だ」

「――このオーガが原因、もしくは呪いに原因があると思うでしょうね」


 できるのは原因の特定まで。

 どうやって呪いに対処すればいいのか分からない。

 呪いに対処するとなると聖属性の魔法が使える者を多く抱える教会に協力を要請することになるだろうが、呪いの規模を思えば十数人は連れて来てもらう必要がある。


 果たして、そんな大人数を守りながら迷宮を奥へ進むことができるか?

 答えは否だ。

 そうなると、迷宮を奥まで進むことができて、呪いにも対処できるような人物に救援を求めることになる。


「マルスさんたちにコネがある僕たちなら迷うことなく救援を頼みます」

「俺たちに依頼すれば費用も掛かるし、自分たちの功績がなくなることになるぞ」

「それでも、です」


 エルマーなら事態の解決を優先する判断力を持っている。

 冒険者ギルドなら『遠話水晶』がある。パレントとアリスターの冒険者ギルドで連絡を取り合うことで救援依頼が俺たちへ即座に届き、急いでパレントへ駆け付けると迷宮を攻略することになる。状況が分かっている状況なら攻略を優先させて数時間で攻略していたはずだ。

 それで今と同じ状況になる。


「シルビアを先行させて事情を理解した後も急ぐことはなかった。それは、あの時で急いでも手の施しようがないことには変わりがなかったからだ」


 採れる手段は、どれも悲しい結末しか生まない。

 何よりもオーガを救える手段が一つもなかった。


「だから、せめてオーガの最期の願いを聞き入れることにしたんだ」


 それは本当の意味で命を懸けた願いだった。


「迷惑を掛けた……だから、せめてもの礼としてお前たちの糧になりたいのじゃ」


 オーガの目がジェムとジリーへ向けられる。

 二人が……と言うよりもジェムがどのようにして俺たちに保護されるようになったのか経緯は話をしている。


「儂の造った魔剣のせいで迷惑を掛けたようですまなかった」

「そんなことはない。たしかに辛かったけど、あの出来事があったから今こうして仲間に囲まれて冒険ができているんだ」

「それでも儂なりにケジメをつけさせてほしい。本当は、成長したお前たちの為に武器を造ろうと考えていた。だが、今の儂には武器を造る力など残されておらず、渡せるものも限られている」


 差し出そうと考えたのが命そのもの。


「儂を倒せ」

「え――」

「以前でさえ強く生み出された。今となっては呪いも身に蓄積させたおかげで倒せば凄まじい経験値が得られるはずじゃ」


 レベルアップの糧となる。

 それがオーガの選んだ償いだった。

 どうにか会話をすることができているが、それも結界で呪いの干渉を防いで1日近い時間を回復に当てることができたからだ。もう理性を失って暴れていてもおかしくない。


 そんな相手を無抵抗で倒すことができる。

 魅力的な提案ではあるものの受け入れ難く、困惑したエルマーが俺に顔を向ける。


「そんな顔をするな。いくら縋ったところで俺に彼を救う力はない」

「でも……」

「お前が憧れて、ベクターを狂わせてしまうほど強い力だったとしても万能なんかじゃない。できることには限界があるんだ」


 このような状態になっては手の施しようがない。


「こんな風になったのは俺たちにも責任がある。以前のまま使命感だけで呪いに対処していたら自分の身で呪いを引き受けようなんて馬鹿な真似はしなかった。それでも人と触れ合ったから、人を思い遣る心を得たんだ」

「そんな風に言うな。儂なりに感謝している」


 たしかに人と触れ合ったことで楽しい時間を過ごすことができた。

 ただし、同時に寂しいという感情も知ることになり苦しませられることにもなった。


「せめて最期に望むことぐらいは叶えさせてやりたいんだ」

「……僕たちが倒さなかったらマルスさんが倒すことになるんですか?」


 どのみちオーガが生き永らえることはできない。


「迷宮についても現状ではどうすることもできない。この状態を解決する最善の方法は迷宮核を破壊して迷宮を自壊させることだ」


 どちらにしろ事態解決を望むなら迷宮を消滅させる必要がある。

 そうなると迷宮の魔物であるオーガも一緒に消滅してしまうことになる。


「そんな事をしたら……」

「迷宮に頼っていたパレントは困ることになるだろうな」


 だが、蓄積された呪いをどうにかする手段がない以上、迷宮を消滅させてしまう以外に道はない。

 もし迷宮を残してしまえば遠くない未来に災いを招くことになる。


「まだ数カ月はもつだろうけど、この呪いが暴発すればパレントどころじゃない。近くの街も巻き込んでしまう大爆発が起こる可能性だってあるんだ。不測の事態で暴発してしまうのを防ぐ意味でも今のうちに破壊した方がいいんだ」


 これが被害を最も抑える選択肢。


「でも、依頼は?」

「パレント家からは迷宮で魔物が強くなった原因の調査と解決しか頼まれていない。元の状態に戻してくれ、とは言われていないんだよ」


 事態の解決に必要な手段が迷宮の破壊なら、否とは言わせない。

 それだけの影響力を既に得ている。


「お前たちにできるのは『選択』することだけだ」

「――分かりました」


 意を決したエルマーが顔を上げる。

どうせ助からない命なら有意義な介錯を頼みたい。

知り合いとしてオーガの想いに付き合ってあげたマルスたち。

そして、エルマーが選択をする。

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