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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第27話 呪いのオーガ-前-

 迷宮を駆けていると火口の中央に浮いた島へと続く道に行き当たる。

 空中に浮いた道で、落ちれば得体の知れないマグマへと落ちることになるため恐怖心は強くなる。


 それでも気合を込めたエルマーたちが下を気にしないようにして走る。

 前と後ろを俺たちが守っているというのが心強く支えている。

 また、向かう先に見慣れた人影を見つけたのも大きい。


「いない人たちがどこにいるのかと思ったら、あんな所にいたんですか」


 シルビアとイリスが左右に立って待っており、奥からはメリッサの魔力も感じ取ることができた。

 安全の確保された場所。

 道の状態さえ気にしなければ駆け抜けるのは問題ない。


「あらあら」


 駆け抜けたことで安心したのかジリーがシルビアに抱き着いた。


「こういうところはまだまだ子供……」


 ジリーだけでなくディアまで抱き着いている。

 予想していなかった行動だけにシルビアが驚いていた。


「なに、あれ……」


 今までに体験したことのない出来事。

 凶悪な形相をした魔物が得体の知れない存在から助けてくれた。急かされて走っていたものの安全な場所まで辿り着いたことで緊張が解けてしまっていた。


「もう大丈夫だから」


 女の子二人を撫でて安心させている。

 シルビアが顔を上へ向けるとエルマーも釣られて見上げる。


「あれは結界ですか?」


 人間は何事もなくすり抜けることができたが、島の周囲には半透明な結界が張られていた。


 そこへ真っ黒なマグマが濁流のように押し寄せる。

 咄嗟に身構えてしまうエルマーとジェムだったが、結界に阻まれて侵入することができない。


「そう、『呪いを防いでくれる結界』。必要になったから取り寄せたの」


 宝箱(トレジャーボックス)なら必要になった物を手に入れることもできる。

 維持に魔力を多大に消耗してしまうため本来なら長時間展開していられない魔法道具なのだがメリッサには関係ない。


「平気か?」

「はい。これぐらいでしたら大丈夫です」


 島を奥へ進んで鍛冶場へ入ると結界の起点となる中心部にメリッサが椅子に座って待っていた。

 膝の上には結界を生成する魔法道具である水晶が置かれている。

 視線を足元へ向ければ消耗した魔力を回復させる為の回復薬(ポーション)の瓶が1本だけ転がされていた。まだ1本飲むほどにしか消耗していないようだ。


「ここが最下層ですか?」

「いや、この下が最下層だ」


 鍛冶場をさらに奥へ進めば転移魔法陣がある。


「転がっているのは、もしかして――」


 ジェムが床に落ちている剣を拾い上げようとする。

 だが、手が触れる直前になって危険であることに気付いて手を止めていた。

 以前に支配されたことがあるため本能で危機を察知していた。


「そうだ。ここに落ちているのは魔剣だ」


 何十本という魔剣が落ちている。

 鍛冶場ということも考えれば、ここで魔剣が生成されていたのは間違いない。


「だけど、炉に火がついたままで鍛える人がいませんよ」

「……本当は、あんな姿を見せたくないんだけど事情を説明しない訳にはいかないよな」


 扉を開けて別の部屋へ入る。

 初めて訪れた時には魔剣を鍛える為の施設しかなかった場所だが、何度か訪れる内に休憩できる部屋を増設させてもらった。


 大型の魔物でも休憩できる広い部屋。


「なっ……!?」


 テーブルやイスが置かれていた部屋から様々な物が撤去されて広く使えるようになった部屋の中心にオーガが鎖に巻き付かれた状態で鎮座していた。


 普通のオーガではない。

 体が()()()()()()()()()()()オーガだ。


「まったく無茶をしたものだ」


 全てが真っ黒になったわけではない。

 所々、斑点のように元の肌である赤い部分が見て取れる。


「触れるなよ」

「はい、分かっています」


 痛々しい姿に近付こうとしていたエルマーに釘を刺す。

 無意識の行動だったようで本人は言われてから気付いていた。


「この方は呪いに侵されているんですか」


 額には角があるため人間ではないことは一目瞭然だ。

 それでも呪いに全身を蝕まれた姿を見て、倒すべき魔物のように扱うことができなかった。


「まず、魔剣がどうやって生み出されているのか説明してやる」


 パレント迷宮で生み出される魔剣については、全てオーガが鍛えることで生み出されている。

 そして、魔剣の素材となっているのは迷宮に蓄積され、『呪怨石』という危険な鉱石へ変化してしまった物。そのままにしておくわけにもいかないため魔剣にして鍛えることで呪いを抑えている。

 魔剣に様々なデメリット――使用していると衝動に駆られてしまうのは凝縮された呪いに原因がある。


「そうか。あの時のは……」


 自分が魔剣を手にした時の事を思い出したジェムが呟いた。

 不満をぶつけずにはいられなかったどす黒い感情は、まさに『呪い』と呼ぶべき代物だ。


「こいつとは、その時からの付き合いだ。何度か子供たちを連れて遊びに来ていたこともある」


 装備の強化もしてもらった。

 装備の強さを思えば、さらなる強化が難しい状態だったが、こいつは見事に俺たちの願いを叶えてくれた。

 だから寂しがっていたこいつに子供の顔を見せることでお礼をしていた。


「だけど、それがいけなかったのかもしれないな」


 ここ最近は訪れる頻度が減っていた。


「こいつの使命は一心不乱に魔剣を造り続けることだ。だけど、魔剣を鍛える為には呪いにも打ち勝てる強い想いが必要になる」


 そのため感情が込められていた。

 ただし、使命を優先していたため魔剣に対抗する以外の感情は封印されていた。


「それが俺たちとの接することで触発されたんだ」


 魔剣を打っている間も『寂しい』という想いが消えなくなってしまった。

 そうして、次は自分の魔剣がどのように使われたのか思い出して躊躇するようになった。


「管理がしっかりしていれば魔剣が外に出ることはない。それでも自分の管理が疎かだったせいで外に出てしまった魔剣が騒動を起こして、悲しむことになる人が出てしまった。それに耐えられなかったんだ」


 そこで最初に考えられたのが『呪い』の力を抑えられた魔剣を造ること。

 さらに迷宮へ人を呼ぶことも考えて何本か安定して使うことのできる魔剣を上層に配置した。


 最初の内は成功していた。


「ただし、それだと蓄積する呪いの方が多くなるんだ」


 呪怨石の量が多くなる。

 苦悩した末にオーガの選択した手段が自らに『呪い』を集めて受け止める、という方法だった。

 これなら誰に迷惑を掛けることもない。


「それが現状の原因だ」


 そうして今、呪いに全身を蝕まれてしまった。


「ずっと守ってくれていたんですか?」

「そうだ。本当なら何度か訪れていた俺たちも気付くべきだったんだ」


 大量の魔剣を必要としていたリュゼによって迷宮内の呪いは活性化されていた。

 その事に気付けなかったばかりに負担をオーガに強いることになってしまった。


「ここを覆っている結界は呪いに対抗することに特化した結界だ。シルビアに先回りしてもらって状況を把握したら、呪いの侵攻だけでも抑えることにしたんだ」


 見つけた時には今の状態だった。


「な、何か助ける方法はないんですか!?」


 ジェムの悲痛な叫びに首を横に振る。

 あれば見つけた瞬間にしている。


「俺がどうしてここでそんな説明をしていると思う?」


 これまで迷宮に尋ねられても答えなかった。

 ところが今になって状況の全てを説明していることを疑問に思っているはずだ。


「ここが終点で、できる事なんて一つしかないからだ」


 それまで微動だにしていなかったオーガがゆっくりと目を開ける。

ネタばらし回続きます。

作者は基本的にハッピーエンドへ向かいますが、救わない部分は本当に救われないまま終わらせる主義です。

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