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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第25話 嫉妬の悪意

 真っ黒なローブを着た骨だけの大男。体からは黒い瘴気が溢れ出ており、化け物と称すべき姿をしている。

 不死者の帝王を名乗る魔物は、ゆっくりと頭を動かして目標を定める。


『あの二人か?』

「そうだ。ただし、不死者(アンデッド)にする必要はない」

『魂の回収だけをしろ、ということか』

「今の迷宮がどういう状態なのか知ったら、死者が出るのは仕方ないにしても迷宮に吸収されるのを看過するわけにはいかない」

『承知した』


 不死皇帝(アンデッドエンペラー)が手を掲げる。

 すると壁に剣で串刺しにされて縫い付けられた剣士と、ディアのナイフに背中を貫かれて倒れていた斥候の二人の体から光る球が出てくる。


 光の球はアンデッドエンペラーのスキルによって魂を分かりやすくしたもの。

 肉体から剥離された魂は吸い寄せられるようにアンデッドエンペラーの方へ移動する。


 少しすれば自然と迷宮に吸収されていた魂。

 アンデッドエンペラーに吸収されてしまうのも苦痛かもしれないが、迷宮の糧になるよりは楽な最期を迎えることができたはずだ。


『回収』


 二人の魂を手にしたアンデッドエンペラーが通路の隅へ移動する。

 呼び出したのは死んだ二人の魂を回収してもらう為だが、場合によっては協力をまだしてもらう必要があるかもしれないため待機させている。


「……二人に何をした」


 体を麻痺させたベクターが必死に立ち上がる。


「魂を回収させてもらった。俺の質問に素直に答えたら解放してやる」


 アンデッドエンペラーが手の中にある魂を強く握り締める。

 視覚的に分かりやすくさせる為だけの演出なのだが、魂の感知などできないベクターには効果覿面だった。


「……何が知りたい?」

「どうしてこんな事をしたんだ? お前たちが迷宮を出て行ったフリをして、すぐに戻って来たのは知っている」


 地図を確認していればベクターが出て行っていない事には気付ける。

 そのまま監視を続けていれば地下31階へ移動して、エルマーを狙える位置で足を止めて攻撃してきた。

 先へ進む方法が分からず苦労していたなら、素直に告白していればエルマーの性格を考えれば協力していたはずだ。それに合流していれば一緒に迷宮探索を続けることだってできたはずだ。


 けれども、全ては後の祭り。

 使いたくもないスキルを使用させてしまった以上、協力することなど絶対に不可能だ。


「へっ、わかってねぇな。最下層へ到達できる人間は少ない方がいいだろうが! 俺は知っているぜ。迷宮の最下層へ辿り着いた人間は、迷宮を支配することができるようになるって事を!」


 迷宮主の資格を得て運営することができるようになる。

 その資格を得ることができるのは、たった一人だけ。


「邪魔者は排除できる時に、さっさと排除するに限る」

「だからエルマーを落としたのか」

「そいつらは有名だからな。指示を出しているリーダーが、そのガキだっていうのも調べさせてもらった」


 ホヴァが知っていたようにベクターもエルマーについて知っていた。


支え(リーダー)を失ったパーティは脆い。仲間が倒れても冷静に動けるだけの力があるなら残りの3人を始末するのに苦労しただろうけど、それだけの経験があるようには思えなかった」


 単独での戦闘能力も高い。

 ただし、エルマーを失った状態でも発揮できるとは思えなかった。


「そいつが落ちた時には『やった!』って喜んだんだがな。お前が助けたのか?」


 エルマーについて調べたなら俺たちについても知っているはずだ。


「いいや、あいつが自分の力で助かったんだ」

「なるほど。迷宮主がいて負けたなら悔しくもなかったんだが、俺は子供にすら勝てなかったのか」


 迷宮主について詳しいベクター。

 どうやら俺が迷宮主である事まで知っているようで、相当調べたことが窺える。


「そんなに力が欲しかったんですか?」


 スキルを使用したことによる罪悪感から黙っていたエルマーが静かに尋ねる。


「そうだ。それも凄まじい力だ」


 ベクターの目が俺に向けられる。


「スラムで生きて、冒険者になってからも金を奪ってでも装備を揃えて強くなろうとした。そうでもしないとこんな所まで来ることができなかった」


 褒められない手段を取れば取るほど鬱屈した日々を過ごすようになる。

 そんな日々の中で聞いたのが俺の活躍だった。自分とは違う圧倒的な強さを持ち、英雄のような活躍を見せ、それでいて功績を考えれば貴族になっていてもおかしくないのに地位に興味など示さない。


「いや--」


 叙爵の話がなかったわけではない。

 ただし、アリスターにいながら爵位を受ければアリスター伯爵に迷惑を掛けてしまうことになるし、別の街へ拠点を移すなどあり得ない選択肢だった。

 結局、今のままでいることが最も望ましかった。


「俺もあんたと同じ立場になれば強くなれると思った」


 その為ならエルマーを犠牲にしてもいいと思えるほどに求めてしまった。


「なにより、そいつらの存在は気に入らなかった」


 反吐が出るような環境で苦しみながら強くなった。

 対して運良く保護されて力を手に入れただけのようにしか見えないエルマーの事は憎く思うほどに気に入らなかった。


「そんな……」


 ようやくエルマーは自分が憎しみを向けられていることに気付いた。

 悪意なんていうレベルじゃない。


「後ちょっとだったのにな……」

「それだけの実力があるなら真っ当な手段で追い抜いて最下層を目指せばよかったんだ」


 火口の外周にある道は緩やかな道で最下層へ到達するまでに何周もする必要があるし、途中で中央にある浮いた島へも移動する必要がある。

 だが、迷う必要のない火口外周の道に対して火山の内側へ続いている道を迷うことなく進めば先回りすることが可能だ。


「悪いな。俺たちにはこれしか思いつかなかったんだ」


 悪びれた様子もなく謝る。

 昔から同じような方法だったため本当に他の方法を思い付かなかった……と言うよりも存在していなかったのだろう。


「で、どうする?」


 捕らえた二人の魂。

 さらにベクター自身をどうするのか、という問い。


「そうだな……」


 エルマーを見る。

 最も被害を受けたのはエルマーだ。【因果応報】がなければマグマに落とされていたのだから処遇を決定する権利は彼にある。


「では、先頭を歩いてもらいましょう。で、無事に最下層まで辿り着くことができたなら全員を解放します」

「いいのか?」

「はい。これから先の道を思えば先頭を歩くのは危険です。彼には囮になってもらうことにしましょう」


 ただし、たとえ最下層まで辿り着いたとしても迷宮主にさせるつもりはない。

 それでも解放することをエルマーが決めたなら反対するつもりはない。


「そうとなったら、さっさと先頭を歩け」

「あの、装備は?」


 大きな盾は回収させてもらった。


「あんな盾を持って先へ進むつもりだったのか? これから長距離を歩くことになるんだから重い物は捨てろ。魔物が出た時は俺たちが対処する」


 助けるとは言わない。


「あ、ああ……」


 ベクターにも俺の言葉の意味が分かった。

 同時に俺が清廉潔白な英雄などでないことも理解したはずだ。


 ――ピチャン!


「ひ……」


 落ちてきた水滴に驚いたベクターが後退る。


「なんだ、水滴か……」

「……っ、離れろ」

「え……う、わ゛っ!?」


 気付いた時には手遅れだった。

 ベクターの近くに落ちた黒い(・・)水滴が一瞬で膨張すると、ベクターの体を瞬く間に飲み込んでしまう。

 黒い水滴と同じ反応がそこら中にあるせいで地図を見ていても接近に気付くことができなかった。


「なんですか、アレは!?」

「アレが迷宮の異状の原因で、マグマを黒くしている大元だ」


見事、囮に使った直後に引っ掛かってくれましたよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?地下31階に行く方法はどうやってわかったんだろう??
[一言] 運良く主人公達に保護された子供達が、異常な程の幸運に恵まれたのは間違いないかね。 でなければ、安全で快適な暮らしは過ごせなかったし、訓練もつけて貰えなかったし、何かを学ぶ事も出来なかったし…
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