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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第24話 【因果応報】

 矢の起こす爆発によってエルマーの足場が消失する。


「……っ!」


 エルマー自身は無事だ。爆発の瞬間、自分の周囲に魔法で風を発生させることで難を逃れていた。


 しかし、完全に助かったわけではない。

 足場がなくなれば先ほどの魔物と同様にマグマへ向かって落ちることになる。


「エルマー!」


 ディアが名前を叫びながら手を伸ばす。

 呼ばれたエルマーも掴もうと手を伸ばすが、その手がディアに届くことはなく魔物と同じように落ちていく。


「困ったな」


 下に落ちればどうなるのか魔物を見て理解している。

 それでも体を反転させて矢の飛んできた方向を見る。


「彼らか」


 エルマーの見る先にいたのはベクターパーティの4人。

 一人が弓を構えた状態で立っており、マグマに向かって落ちていくエルマーの姿をニヤニヤしながら眺めていた。

 悪意を持って落としたのは明らかだ。


「落ちろ」


 ベクターの口が小さく動く。

 音までは拾うことができなかったが、口の動きから読み取れた。


「チッ……!」


 さすがに看過することのできない事態。

 とっさに助けようと足を前に出す。


「あいつ……」


 目にしたエルマーの表情には絶望など一切なかった。


「悪意には相応の方法で対処する必要がありますね」


 それはスキルの発動。

 彼ら4人は神の寵愛を受けたことによって強くなっている。

 特にステータスの上がり方は顕著で、ジェムなら体力と筋力、ジリーなら魔力、ディアなら敏捷が大きく上昇する。通常はレベルアップで2や3、多くても5程度の上昇だ。

 ところが彼ら4人は常に5~10程度の上昇がある。

 それが強さの理由の一つ。


 そして、もう一つが固有のスキル。

 ディアがシルビアからコツを教えられた程度で【飛連脚】を身に付けることができた。

 同様にエルマーは固有のスキルを身に付けていた。


「――【因果応報】」


 スキルが発動した瞬間、


「へ?」


 ニヤニヤしていた矢を射った男がエルマーのいた場所に現れ、3人に囲まれた場所にエルマーが立っていた。


 両者の位置を入れ替える。

 起こった事実はそれだけだ。


「た、助けてくれぇ!」

「フィン!」


 身を乗り出すベクター。けれども手が届くような距離ではないし、もうマグマに落ちる寸前だった。

 どう足掻いたところで間に合わない。


「魔物は少しばかり耐えられていましたけど、人間は一瞬で溶かされてしまいましたね」


 冷静に溶ける光景を口にするエルマー。


「テメェ……!」


 対してベクターは、エルマーが何をしたのか分からないまでも何かをしたからこそ仲間が死んだことを理解して憎しみの籠った目で睨み付けていた。


「はぁ」


 そんな目を向けられても冷静なまま。

 いや、全く感情を動かしていなかった。


「だから使いたくないんですよね」


 それはスキルの使用による副作用。

 急に現れたエルマーへ仲間の剣士が剣を振る。


「ク、クソッ……なんて奴だ……!」


 しかし、全ての攻撃がエルマーに回避される。

 攻撃が全く当たらないことに焦った剣士が大きく振り下ろす。


 スッと音もなく振り下ろされた剣がエルマーの指に掴まれる。


「なっ……!」


 まさか受け止められると思っていなかった剣士が動揺し、片手で軽く振り上げたエルマーの剣に左腕を斬られる。


「ぁ……」


 痛みを堪えながら剣から手を放して後ろへ跳んで距離を取る。

 すぐさま新しい剣を収納リングから出すが、傷付いた左腕では剣を握る手に力を込めることができない。


「このやろう……!」


 4人目の男が両手に短剣を持って斬り掛かる。

 斥候を担当している男の動きは速く、1秒の間にエルマーへ何度も斬撃が向けられている。

 しかし、冷静なままのエルマーは全ての攻撃を見切って回避している。


「マズい、助けにいかないと……!」


 戦闘が始まった光景を目にしてディアが元来た道を駆け出す。

 ジェムとジリーも同じ思いらしく駆け出したディアに続いていた。


「どういうことなんだ?」


 ディアに俺たちも続く。

 ここから見える限りは苦戦しているように見えない。それどころか一人で3人を相手に圧倒しそうな勢いがある。


「【因果応報】――悪意を向けられて窮地に陥った時にのみ発動して、相手へ悪意を跳ね返すことができるスキルなんです」


 走りながらディアがスキルについて説明してくれる。

 フィンと呼ばれた者の弓による攻撃で落とされた。だが、スキルを使用したことにより窮地を脱し、逆にフィンは窮地に陥ることとなった。

 それが二人の位置を入れ替えるという方法で表れた。


「随分と有用なスキルじゃないか」


 窮地から脱することができるスキルなんて強力だ。


「そうでもありません。悪意と敵意は別物です」

「……そういうことか」


 ベクターの思惑がどこにあったのか分からない。

 しかし、魔物を倒したばかりで油断していたエルマーをマグマへ落とす為に不意打ちによる攻撃を陥れる為に行った。


「同じ依頼を受けた冒険者同士で、依頼者からは協力するよう言われているから本来なら協力しないといけないんです」


 ベクターとは敵対しているわけではない。

 味方、もしくは中立だと思っていた相手から攻撃されたようなものだ。


 状況が成立しなければ発動しないスキルなど、効果が強くても有用だとは言い難い。


「それに副作用があります。むしろ、そっちから助けないといけないんです」

「何も苦しめられているようには見えないけどな……いや、それがおかしいのか」


 命の危機に晒された。

 もっと怒ってもいい状況なのに、どこまでも冷静に対処している。

 とても普通の状態には見えない。


「一時的に感情が失われて、悪意を向ける相手を倒すまで止まらないんです」

「かはっ……!」


 短剣を手にした男が蹴り飛ばされて壁に叩き付けられたことで口から血を吐き出す。


 入れ替わるようにベクターが盾を構えたまま体当たりをする。

 迫る盾に対してエルマーが剣を叩き付ける。


「バカが! そんな攻撃で止まるはずがないだろ!」


 そのまま圧し潰そうとするベクター。


「い゛っ゛!?」


 しかし、全身を襲う電撃に体を動かせなくなって倒れてしまう。

 そのまま感情を窺うことのできない表情で盾を蹴って転がる。


「う、おおおぉぉぉぉ!」


 広くない通路。

 転がっていればエルマーがそうされたようにマグマへと落ちていくことになる。麻痺しているせいで満足に力を込めることのできない体で踏み止まると落下を阻止できて安堵の息を漏らしている。


 どうにか顔を上げるベクター。

 彼が目にしたのは壁に叩き付けられた状態のまま胸に剣を突き刺されている仲間の姿。


「い、いやだぁ!」


 残った一人が逃げ出す。

 無表情のまま逃げた男の方へ体を向けると駆け出す為に身を屈める。


「ぎぃ!」


 ただし、横を駆け抜けていった2本のナイフを目にした瞬間、体から力を抜いていた。

 背中にナイフが突き刺さった剣士が倒れる。


「もう終わりだ」


 ベクターにもジェムが剣を向けている。

 その気になれば、いつでも殺せる状態になったため戦闘は終了した。


「……また、やっちゃったんだ」


 頭を押さえて蹲るエルマー。

 相手を倒すまで止まらない一種の暴走状態は彼の望む姿ではない。なによりスキルが発動している間の記憶ははっきりとしており、悪意を跳ね返した時の強い感情に圧し潰されたような感覚が残っている。

 非常に苦しいものらしく、暴走している時に殺した相手が多ければ多いほど暴走後の苦痛は大きくなる。

 だから少しでも緩和させる為にディアたちも仲間として参加した。


「マグマに落ちた奴はどうしようもない。けど、こんな下層で人が死ぬのは許容することができないな」

「な、なんだ……その化け物は!?」


 ベクターが俺の隣にいる『不死帝王(アンデッドエンペラー)』を見て叫んだ。


悪意と敵意の差なんて微妙なところですけど、本人がどう思うかが肝心ですね。

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