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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第23話 黒いマグマ

「黒いマグマ……?」


 火山を訪れて実際にマグマを目にしたことがあるから異様な物であることを一目で見抜いていた。

 もしかしたら、これがパレント迷宮では普通なのかもしれない。

 誰も訪れたことのない階層。

 記録も残っていないため通常の状態が分からない。


「ちなみに以前は普通のマグマだったからな」

「そうですか」


 困惑しているエルマーに以前の状態を教えてあげる。

 これぐらいなら手助けにはならないだろう。


 黒いマグマについて思案したまま落ちていた石を拾い上げると、ポイっと黒いマグマに向かって投げる。

 かなり深い場所まで落ちるとジュッという音と共に石がマグマに飲み込まれる。


「溶けちゃった」


 ディアがどうなったのか口にする。

 エルマーやジェムには見えなかったが、驚異的な感覚を持つディアには石が溶ける瞬間が見えていた。


 もちろん俺やアイラにも石が溶ける瞬間は見えていた。


「どうやらマグマ、もしくは似た性質を持つ物であるのは間違いないようですね」


 以前と変わらずマグマが下に溜まっている。

 問題は色が黒く変わってしまったことだ。


「あのように黒く変えてしまったのがパレント迷宮で起こっている異常の原因ですね」

「そうだ」


 一つだけ訂正するなら、原因の原因といったところだろう。


「調べたいところですけど、ここからでは詳しく調べることができませんね」

「間違っても触れるような真似はするなよ」

「あんな危険な物に触れる真似はしませんよ」


 下層へ向かって進む。

 火口内は緩やかな道が続いているのだが、左側が分厚い壁で右側は遮る物が一切ない断崖となっている。ちょっとした不注意から踏み外してしまえば黒いマグマに向かって落ちてしまうことになる。

 人がひとり歩くには余裕のある広さだが、注意をしながら進む必要がある。


「マルスさん、聞きたいことがあります」

「迷宮に関する事なら教えられないぞ」


 火口に関する情報は事前に集めることができなかった。

 たとえ街に戻ったところで得られるものではないため、唯一の情報源である俺に頼りたくなる気持ちも分かる。

 だが、それでは試験にならない。


「大丈夫です。いざ冒険に出れば事前情報が全くない場所を探索する必要があるのは分かっています」


 遺跡など最たる例で、向こう側がどのようになっているのか全く分からない状態で探索しなければならない。

 突然の事態にも対応できる能力が問われる。


「僕が知りたいのはちょっとした事です。前にもここまで来たことがあるんですよね」

「そうだな。魔剣が溢れるようになった原因を探る為にも下層まで行く必要があったんだ」

「なら、その時は原因を見つけられたんですね」

「……? ああ」

「そして、今回も見つけている。黒いマグマを見た時の反応があまりに薄すぎますよ」


 黒いマグマもシルビアが見つけてくれたおかげで事前に知ることができた。

 そして、正体を知ることができれば以前の事件もあって対処法も見えてきた。


「それはよかったです」

「よかった?」

「探索を始めた頃、マルスさんのように誰かが迷宮に干渉して人為的に異常状態にしているんだと思っていました」


 俺たちも真っ先に新たな迷宮主の存在を疑った。

 けれども、即座にノエルがその可能性を否定した。


「新しく迷宮主は生まれていない」


 他の迷宮にも言える事で、最も新しい迷宮主は未だに俺のままだ。

 信託を授かることのできるノエルに新たな迷宮主誕生に関するお告げは届いていない。神としての力をほぼ失っているティシュア様だけでなく、他の神もお告げを出していないところから迷宮主の存在は排除していい、との事だ。


「僕もしばらく探索を続けて排除しました。このような事をしても迷宮にとって利益になることがありません」


 人が極端にいなくなった迷宮。

 そう遠くない内に維持する為の魔力すら尽きて自然消滅する。


「どちらかと言えば自然現象でしょう」


 どうやら正解には近付きつつあったようだ。


「――止まって!」


 先へ進んでいた一行に止まるよう先頭を歩いていたディアが言う。

 円形の火口に沿うようにして道が続いているが、壁の向こうには坑道のように掘られたような道と空間が広がっている。


 4、5メートルはありそうな高さの道の向こうから魔物が姿を現す。

 現れたのは馬の頭で真っ黒な肌の人型の魔物。はち切れんばかりの筋肉をした巨体で、肩にはハンマーが担がれている。


「ただのハンマーではありませんね」


 頭部の両面は叩き付けた物を潰す為に平面をしているが、先端から鋭い刃が突き出ている。


 魔剣として生み出されたハンマー。

 魔剣であっても剣の形をしている必要はない。あくまでも強力な魔法効果が付与されていればいい。


「ブルルルッ!」


 涎を撒き散らしながら大きな体をした馬頭の魔物がエルマーたちに向かってハンマーを振り落とす。

 巨体から振り落とされるハンマーは素早い。

 それでも相手の攻撃を見切った4人が跳び退いて回避する。


「またですか!」


 魔物から俺たち3人の姿は見えていない。

 4人だけで切り抜ける必要がある。


「落ち着いて戦えば負けることはありませんけど……」


 ハンマーを叩き付けられた地面がボロボロになっていた。

 それよりも崖の一部が崩落してしまっている。

 迷宮は魔力さえあれば壊れた場所も元通りに復元させることができる。だが、復元されるのがいつになるのか分からないため先へ進むことを考えると地面の状態にも気を付けて戦う必要がある。


「うぉ!」


 素早く倒す為に懐へ飛び込もうとしたジェムにハンマーが叩き付けられる。


「ビュンビュン振り回しやがって!」


 大盾で受け止めようとするものの受け止め切れずに後ろへ押されてしまう。

 力を持て余してしまったのは魔物も同じで、盾に当たった時の反動で後ろにあった壁を叩き壊してしまっている。


 迷宮の壁は簡単に壊れない。

 それを反動で振り上げた時の打撃だけで壊してしまっている。


「ふむ……あの槌に付与された効果は、『重量軽減』といったところでしょうか。それも本人が振り回す時のみ効果を現すもので、攻撃の瞬間には通常通りの重さによる破壊力を発揮してくれる」

「考察している場合か!」


 ハンマーをどうにか掻い潜って接近しようとしているジェム。

 ディアやジリーの防御力では掠るだけでも危険な威力であるため一人で奮闘していた。


「僕でも受け止めるのは危険かな」


 それでも倒し方については思い付いていた。


「せっかくだから調査に協力してもらおう」

「おい、何をするつもりだ」


 ジェムの前に出るエルマー。

 最も前にいる相手を標的に定めると狂ったようにエルマーだけを狙ってハンマーを振り回し続ける。


 魔物の攻撃を後ろへ跳びながら紙一重で回避していく。

 掠るだけで肉をグチャグチャに吹き飛ばされそうな攻撃に冷や汗を掻きながらも回避を続ける。


「おい……」


 ジェムが呼び止めようとしている。

 しかし、回避に集中しているエルマーには聞こえていない。


「ブルルゥゥゥゥ!」


 攻撃が当たらないことに業を煮やした魔物が大きく踏み込んで攻撃する。


「――終わりです」


 強く後ろへ跳んだエルマーには当たらない。


「ブ……?」

「力は強いみたいだけど、周囲を認識する知力はなかったみたいだね」


 魔物が真下に向かって落ちていく。

 後ろへ跳ぶエルマーに攻撃を当てることばかり集中していたせいで、いつの間にかエルマーが道を跳び越えて宙に浮いていたことに気付けなかった。

 空中に魔法で作り出した足場を蹴って戻るとマグマへ落ちた魔物を見る。


「うわ……」


 黒いマグマに飲み込まれた魔物が脱出しようと暴れている。

 けれども、近くには掴まれるような場所などないし、既に体の大部分が溶けてなくなってしまっている。

 今さら脱出したところで手遅れだ。


 そうして数秒で魔物の体が完全に飲み込まれた。


「……なるほど。今の光景に奇妙な所がありました」


 どうやら今までとは違うことに気付いたようだ。

 魔物が特別なのか、黒いマグマが特別なのか。

 どちらであるにしろ正解に近付きつつあった。


「先へ進も――」


 ――カン!


 身を乗り出して下の様子を観察していたエルマー。

 その足元にある断崖に矢が突き刺さると爆発を起こす。

この火口内に何があったのか思い出せば異状の原因に思い当るはず。

ま、その前にピンチなんですけどね。

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