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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第22話 何もない荒野

 パレント迷宮地下30階。

 辿り着いた階層は探索の必要がない。転移した瞬間に魔法陣から出て再使用しようとする。


 だが、目の前に人影を見つけて動きが止まる。

 現在の迷宮で遭遇する人間は自分たちを除けば一組しかいない。

 オレンジ色の髪を逆立てて剣山のようにした20代半ばの男を先頭に、3人の男が後ろに控えていた。


「ベクター」

「おやおや。初めましてなのに随分とツンケンした態度だな」


 ホヴァのパーティに何をしたのか知っているエルマーは不機嫌なのを隠そうとすらしない。

 最初から敵対する事を前提にした態度。

 本当なら相手を詳しく分かっていない状況でそのような態度を取るのは危険なのだが、エルマーの中で敵対は不可避だと判断されている。


「お前は新人のエルマーだな」

「どうしたんですか?」

「いや、帰るところなんだよ」


 転移魔法陣の隣に転移結晶もある。

 転移したばかりのエルマーたちの近くにベクターたちパーティがいる理由としては十分だ。


「で、いざ帰ろうとしたら転移魔法陣が光り出すから誰かが来たのが分かったから待っていたんだよ」

「何故です?」


 転移魔法陣と転移結晶を同時に使用することに問題はない。

 わざわざ待つ必要などないはずだ。


「忠告をしてやる為だよ。ここには本当に何もない」


 地下30階には次の階層へ行く為の転移魔法陣がないどころか、罠や宝箱に魔物といった迷宮にあるはずの物が何一つない。

 本当に荒野が広がるだけの場所。


 ――何もない場所。

 それは昔から言われていた事で、パレント迷宮の最奥を目指している人たちの共通認識だった。


「ここを探したって無駄だ。俺たちだって昨日から下へ行く為の方法を探しているけど一向に見つからない」


 ベクターの心の奥底には『何もない』という認識が生まれてしまっている。それでは入口が出口を兼ねていることに気付けても31階へ行くことはできない。

 必要なのは地下31階が『ある』と認識していること。


「ご忠告ありがとうございます。ですが、僕たちは僕たちで探してみることにします」

「そうかい」


 忠告を無視された形になったことでベクターが少しばかり不満を露わにする。

 本当に善意から教えてくれたようで、忠告を済ませると転移結晶で迷宮を出ようとする。


「ああ、待ってください」

「なんだ?」


 帰ろうとしたベクターたちをエルマーが呼び止める。


「どうして上でホヴァさんにあのような事をしたんですか?」

「ホヴァ……?」


 名前は知らなかったようで首を傾げていた。


「アニキ、上の階にいたあいつらの事ですよ」

「ああ、あの雑魚のことか」

「雑魚……」

「そうだろ。たしかに魔剣を手にして強くはなったものの所詮はリザードマンだ。他の魔物にしたってAランク冒険者が相手にするような魔物じゃない。あの程度の魔物に苦戦するようなら雑魚だっていうことだ」


 ホヴァを雑魚呼ばわりされて拳を握り締めている。

 たしかに年下の自分よりも弱かった。それでも苦境に立たされているパレントをどうにかしようと責任感を持って依頼に挑んでいた姿には素直に感心していた。

 冒険者の強さは戦闘能力だけで決まるわけではない。


「余裕だって言うなら貴方たちが相手をすればよかったではないですか」

「イヤだよ」

「なっ……」

「お前らだって、あいつらが儲からないことを理解しているだろ」


 魔剣を装備した魔物は倒しても何も残してくれない。

 持ち帰る素材がなければ儲けることができず、魔物との戦闘による経験値ぐらいしか得られるものはないが、魔剣を装備して強くなっていてもゴブリンやリザードマンといった下級の魔物。とてもではないが、Aランク冒険者の糧になるような魔物ではない。


 そして、同じ理由でエルマーも戦闘を避けていた。

 だから強く言い返すことができない。


「どうやら冒険者らしく理解しているみたいだな。戦闘を避けている最中に偶然目の前にちょうどいい連中がいたなら押し付けるだろ」

「僕たちはそんなことはしません! 偶然、彼らの前に出てしまったとしても責任を持って倒します」

「分かってねぇな。俺たちが倒したって意味がないんだよ」


 魔物を押し付けることに対して罪悪感を覚えないベクター。

 協力して対処しようと責任感を覚えてしまうエルマー。


 両者の言い分はどこまで行っても平行線でしかない。


「街に帰るなら彼らに謝ってくださいね」

「チッ、あいつら生きているのかよ」

「貴方は……」


 あのまま死んでいれば押し付けた事実も有耶無耶にすることができた。

 面倒事が増えたといった思いから舌打ちをしていた。

 この様子だと街でホヴァたちに会っても謝罪しそうにないな。


「お前らが助けたのか?」

「そうですよ」

「なるほど。どうやら弱く見ていたようだ」


 自分たちより10歳近く年下である事から侮っていた。

 しかし、襲われているホヴァを助けられるだけの実力があるというのなら評価を変えなければいけない。


「お前たちの事は覚えたからな」


 捨て台詞のような言葉を残して、エルマーたち4人の事を睨みながら転移結晶で立ち去る。


「……また消えていましたね」

「そうだよ」


 2回目ともなれば瞬時に理解する。

 ベクターパーティは全員がエルマーたち『4人』としか対峙していなかった。


「あんな連中だ。保護者同伴な事を知られると恥ずかしいだろ」

「そうですね」


 ああいう他人への迷惑を顧みない連中は、弱みを見つけるとねちっこいぐらい攻め立ててくる。

 なら、最初から『いない』ことにしてしまった方がいい。


「いやぁ、本当に戦闘に突入しなくてよかったよ」

「僕としてはそっちの方が後腐れなくてよかったんですけどね」


 評価を改めた、と言っていたがその前からエルマーたちの実力をある程度は評価していたはずだ。

 なにせ地下30階まで自力で到達した冒険者だ。弱いはずがない。


「あの、本当にこの魔法陣で下へ行けるの?」


 屈んで転移魔法陣を観察しているジリー。

 とくに今まで見たことのある転移魔法陣と変わったところはない。


「それは間違いない」


 肯定しようとしたところでディアが割って入ってきた。


「迷宮は奥に魔力が流れるようになっている。私にはその流れが感じ取れるけど、この階層はどこからも感じ取ることができない」

「つまり……」

「ここは通過点」

「「おおっ!」」


 ディアの推察を聞いてエルマーとジェムも感心していた。

 いつの間にか奇妙な特技を身に付けていたらしい。


「だから魔力を再度込めれば」


 下へ向かうイメージをしながら魔法陣に魔力を込める。

 すると、ディアの体が転移したことで消える。


「上に行ったわけじゃないよね」

「うん、違う」


 ディアの目は今までとは違う紋様が魔法陣の一部分に浮かんでいるのを捉えていた。


「わたしたちも『下』へ行こう」


 認識してしまえば移動そのものは簡単。

 転移魔法陣によって空間を移動したことで目の前の景色が一瞬にして変わる。


「ここは……」

「洞窟……ううん、火山の中?」


 岩壁に囲まれた広い空間、苦しさを感じるような熱気、外周部にのみ道があり内側はポッカリと穴が開いている。

 天然の火山を訪れたことがあるらしく、すぐに自分たちが火山の内部にいることに気付いた。


「――どうやら普通の火山ではないみたい」


 熱気を放つマグマを見ようと覗き込んだことで気付いた。

 火山の底にあるマグマが赤やオレンジではなく、真っ黒に染め上げられてしまっている。


「スペシャルヒントだ。アレが異常の正体だ」

ようやく異常と対面ですよ。

いつもと同じように寄り道していたら22話になってしまいましたよ……15話ぐらいを予想していたんだけどな。

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― 新着の感想 ―
[一言]  オーガのじいちゃんの安否が気になりますね・・・。
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