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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第21話 嫉妬と純粋

「何があったのか説明してもらえますか?」


 一昨日の段階で地下21階へ挑もうとしていたホヴァ。

 昨日の帰りと今朝、迷宮の入口で門番から他の攻略者の様子も聞かせてもらったが、「戻って来ていない」と聞いていた。

 つまり一昨日から迷宮に潜っていたことになる。


「ああ、助けてくれたんだから事情を説明するぐらいはいい」


 ただしホヴァのパーティだけでなくエルマーたちも消耗している。

 話をする、ということで地面に座ろうとしていた。


「こんな固い地面に座り込んで本当に休憩できるわけないだろ」

「けどな……」


 言いたい事は分かる。

 見渡す限り荒野が広がるだけの場所に休憩できるような空間があるはずがない。


「ないなら用意すればいい」


 地面に魔法陣が描かれ、何もなかったはずの場所にテーブルとイス、クッションのあるソファまで現れる。


「く、はは……あはははっ!」


 いきなり物が現れる光景を見てホヴァが笑い出した。


「これは嫉妬するのも馬鹿らしくなる」


 ちょっと休憩する。

 それだけの為に10人以上の人間が休めるだけの設備を用意する。収納リングという物資の運搬に便利な魔法道具があっても難しい芸当。道具箱(アイテムボックス)という驚異的なスキルがあるからこそ可能になった芸当だ。


「座ってくれ」

「俺たちもいいのか?」

「せっかく助けた命だ。対価を頂くのに死なれると困るんだよ」


 上級回復薬の値段は金貨30枚に設定させてもらった。

 それが2本も使用してしまったので高額になってしまったのだが、高ランク冒険者だけあって蓄えはあったため支払うことはできる。さすがに迷宮へ挑む時にまで大金を持ち歩かないため支払いは街へ戻ってから、ということになった。


 ここからなら地下24階へ行ってから転移結晶で入口へ戻った方が速い。

 その事を伝えたところ「そうなのか?」と驚かれてしまった。どうやら現在位置が分からなくなってしまっていたようだ。

 彼らだけで行かせてしまうと再び迷うか辿り着く前に力尽きてしまう可能性の方が高い。そのため一緒に進むこととなる。


「これもセットだ」


 ベッドも出して負傷している二人が横になれるようにする。

 二人の事を気にしていたようなので、これで安心できるはずだ。


「何から何まで本当にすまない」

「冒険者っていうのは自由な立場にいる者だ。その代わりに自己責任で色々な事を請け負わないといけない。だからやり方ぐらいは自由にさせてもらうさ」

「なるほど」


 これだけの力を見せたんだ。純粋な戦闘能力に関しても凄いことは分かっているはずだ。

 なによりもホヴァは俺たちの素性について知っている。


「さすがは最強の冒険者だ。力だけじゃなくて、心まで本当に強い」


 普通なら亡んでいなければならない状況まで救っている。

 それぐらいの自由は認めてほしいところだった。


「そして、改めて礼を言わせてほしい」


 ホヴァがエルマーへ向き直って頭を下げると仲間も頭を下げていた。

 仲間の顔には不満が現れていたが、リーダーであるホヴァが頭を下げたために自分たちも頭を下げたといった様子だ。頭を下げるのが嫌、と言うよりもホヴァが頭を下げてしてしまったことが気に入らない。どれだけ仲間から慕われているのかが分かる。


「お前たちについても知っていた。若くして異常なまでに強い冒険者がいる。まだまだ経験不足なところが顕著だけど、Aランク冒険者に匹敵するほどの力があるから助けてあげてほしい」


 冒険者ギルドから期待されているエルマーたち。

 分からない事があれば初めて訪れた街でも果敢に尋ねるため、質問には答えてあげるようギルドから要請があったらしい。


 特別待遇を受けていた。そうなれば素性を気にする者も現れる。

 調べるのは難しくない。特別、素性を隠していた訳ではないのでアリスターを訪れて情報収集をすれば俺たちの庇護下にいた子供たちだというのは分かる。


 最強冒険者の庇護下にいた。

 冒険者になる前からも特別待遇を受けていたと知れば嫉妬する者もいる。


「お前たちの事を知った時に俺たちは嫉妬した。こっちは頼る奴なんかいない孤児で、自分の力だけで生きていかないといけないから必死に鍛えてきたのに最初から恵まれている奴に協力する気になれなかった」

「俺たちだって……」


 自分やジリーも孤児だった。


 そう反論しようとしたところをエルマーが止める。

 たしかに俺たちに保護されるまでは辛い日々だったかもしれない。だが、保護されてからは恵まれた環境にいたのは間違いない。あの時があったからこそ、こうしてホヴァも助けることができている。


「だが、俺が間違っていた。持っている力をひけらかすこともなく、お前たちは助けてくれた」

「僕たちとしては当然の事をしたまでですよ」


 目の前で困っている人がいたなら助けずにいられない。

 俺とは違ってエルマーは純粋な想いからホヴァを助けていた。


 ――助けたことでホヴァとの間に縁ができた。

 情報収集のきっかけに利用しようとしている俺とは大違いで、感謝の気持ちを向けられて困っている。


「いや、本当に助かったんだ。仲間も負傷して、逃げ回っているうちに自分がどこにいるのかも分からなくなった。見捨てただけじゃなくて、自分たちを襲って来た魔物を擦り付けてきたあいつらとは大違いだ」

『あいつら?』


 ホヴァパーティ以外の全員が首を傾げる。

 けれども、アルバがいなくなった状況で今の迷宮にいる人は限られてくる。


「ああ、ベクターだ」


 大盾を装備した冒険者のベクターをリーダーにした4人のパーティ。

 一昨日の夜、探索を切り上げようとしたところで魔剣を装備したリザードマンに襲われてしまった。消耗していた体では防戦一方で、誰が見ても苦戦しているのは間違いないのだが、そこを通り掛かったベクターは遠目に見ていただけで通り過ぎてしまった。


 それだけなら冒険者の間ではよくある光景だった。

 だが、魔物の群れから逃げていたベクターたちはあろうことか戦いを終えたばかりで休憩をしていたホヴァの元へ魔物を引き連れてきてしまった。


 仕方なく戦闘に突入したホヴァ。

 最初から逃げることを念頭に戦っていたが、すぐにベクターたちは姿を消していた。

 その後、どうにか街へ戻ろうとしたものの執拗に追われ続けたせいで帰ることができなくなってしまっていた。


「いや、1日以上も逃げ続けられただけでもすごいよ」


 負傷した仲間を抱えて逃げ続ける。

 隠れる場所のない荒野で逃げられたことに対して素直に感心していた。


「それでも助けがなかったらやられていた」


 もうダメだ、というところで救援に駆け付けることができたようだ。


「それにしても許せませんね」

「ああ、まともな連中じゃない」

「他のパーティに魔物を押し付けるなんて」

「しかも負傷している人がいる事を知っていたんでしょ!」


 エルマーたち4人はベクターのしたことが許せないといった様子だ。


「この依頼は領主から冒険者ギルドにされたもので、早急な解決を望まれているはずです。たしかに貢献度合いによって成功報酬は変わってきますが、パーティの垣根なんて関係なく問題解決の為に協力するべきでしょう!」


 求められてもいないのに助けるのはマナー違反。

 だが、魔物を押し付けるのは明確な問題行為だった。少なくても魔物を完全に倒し切るまでは協力する義務があるが、彼らは押し付けて姿を消してしまった。


「どうする? 奴らは確実に奥にいるぞ」


 問題行為すら平気で行える冒険者。


「大丈夫です。まずはホヴァさんにしたことを問い詰めます」


 エルマーに対処を確認した。


「あのな……そんな奴らが注意を素直に聞き入れると思うか?」

「思いませんね。むしろ不必要な情報を知っている僕たちを消そうと襲い掛かって来る可能性の方が高いです」


 なら、どうして……と聞こうとしたところで考えが分かってしまった。


「その時点で正当防衛成立です。一方の言葉だけを信じて糾弾するなんて真似はいけませんよ」


 こういうところは似なくていいのに。

 変なところだけ思考が影響を受けていた。

 できれば困っている人がいたら助ける純粋な思いだけを持っていてほしかった。


パレント最強の冒険者として頑張っていたホヴァですが、ここで脱落です。

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