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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第17話 緊張の冒険・ボス

 安全地帯(セーフエリア)の血はそのままにする。

 これまでに何人かの冒険者が、異状な迷宮で命を落としていると報告を受けている。だが、死体どころか血に濡れた場所すらなかった。

 迷宮の機能はしっかりと生きていて、迷宮内で死んだ冒険者の死体が回収されている証拠だ。

 アルバの部下の死体も同様に放置したとしても回収されることになる。


「本当はボスに挑む前に休みたかったところなんですけど……」


 血に塗れた地面や壁を見る。

 とても休めるような状況ではない。


「冒険者ならどんな状況でも休めるようにしておいた方がいいぞ」

「じゃあ、マルスさんはここで休みますか?」

「――手伝ってやるからさっさと倒すことにするぞ」

「あ、ちょっと……」


 何かを言おうとしているエルマーを置き去りにしてボスの部屋へ続く扉を蹴り開ける。


 ボスの姿はない。

 迷宮の魔力を消費することでボスは新しく生み出される。数十分の時間が経過しているとはいえ、少し前に倒されたばかりであるため生み出されていなかった。


 ボスの間の扉が閉まる。

 同時に広間の中心に黒い靄が集まり、形を変えていく。


「マルスさんは前にも戦ったことがあるんですよね。その時にはどんな魔物がボスだったんですか?」

小鬼騎士(ゴブリンナイト)だな」

「となると、異常が起きてから変化したみたいですね」


 情報収集を怠らなかったエルマーはボスについても知っている。


「ホヴァさんの報告ではゴブリンナイトの亜種だそうです」

「亜種?」

「普通のゴブリンナイトよりも綺麗な鎧を纏っていて、以前よりも強くなっていたそうです」


 異常が起きたことから理由については深く考えられていなかった。

 ベクターからの報告は冒険者ギルドには上がっておらず、先へ進んでいるホヴァには関係のない話。

 それに二人には攻略ができたのだから決して倒せない相手ではない。

 詳細は不明だが、そのように判断していた。


「大丈夫だ」

「ありがとうございます」


 きちんと根拠のあるアドバイスだ。

 なにせシルビアが単独で倒せてしまう程度の相手だ。


「じゃあ頑張れ」

「……本気で戦わないつもりですか?」

「危険になったら治療してやる」

「わかりました」


 ようやくボスが姿を現す。


聖騎士小鬼(パラディンゴブリン)だな」

「ゴブリンナイトとは違うんだな」

「完全に上位互換だ」


 シュッとした背の高いゴブリンが鎧を纏い、左手に盾を持ち、右手に槍を握っている。

 見た目からして騎士なのは分かる。

 だが、パラディンゴブリンの厄介なところは、ゴブリンナイトと同様に騎士相当の実力を備えているのに魔法まで扱えるところにある。


 パラディンゴブリンが槍をこちらへ向け、先端から稲妻が発せられる。


「ジェムはジリーをお願い」

「ああ!」


 すぐさまジェムがジリーの体を抱えて横へ跳ぶ。

 エルマーとディアも各自で跳んだことで彼らのいた場所を稲妻が駆け抜けていく。

 そうなれば、後ろにいた俺たちに稲妻が当たる。


「ほい」


 右手で稲妻を払う。

 魔力を纏った状態で払えば打ち消すこともできる。


「この程度なら余裕……ん?」

「完全に敵視しているわよ」

「みたいだな」


 槍を構えて敵意を俺へ剥き出しにしている。

 そのまま駆け出しそうな気配だが、それではダメだ。


「お前の相手は他にいる」


 殺気を放出する。

 たしかにパラディンゴブリンは強力だ。それでもBランク冒険者相当の実力しかないため強烈な殺気を受けて臆してしまう。


 だが、臆したからといってボスの使命から逃れられるわけではない。

 とりあえず俺に敵対することは諦めて、この中で最も弱い者――ジリーに狙いを定めている。


「その選択自体は間違いじゃない」


 地面を強く蹴って駆ける。

 だが、ジリーへ到達する前に割り込んだジェムの盾によって防がれる。


「おっとと……」


 渾身の一撃を防いだことでジェムが体勢を崩す。

 晒してしまった隙。見逃さなかったパラディンゴブリンが白く輝かせた槍を何度も突き出す。


「わっ、おっと、おおっ!」


 しかし、体勢を崩されながらもどうにか踏み止まったジェムの剣によって防がれてしまう。

 パラディンゴブリンの槍には、速度と威力を上昇させる魔法が掛けられている。それでも防御を突き破れずにいる。


「随分と粘るな」

「あの子が望んだのはジリーを守る力だからね」


 言葉にしていたのは「強くなりたい」という想いだった。

 だが、その根幹にあるのは「ジリーを守る」という強い想いだ。

 シルビアが教えたのは防御術。教えたと言っても、ひたすらにあらゆる場所から様々な攻撃を浴びせて防御させていた。おかげで多少は体勢が崩れた状態で攻撃されても捌けるようになっている。


 パラディンゴブリンの持つ槍から稲妻が迸る。

 多少、速度と威力を上げたところでジェムの防御を突破することはできない。

 なら、防御を突き破れるほどに威力を上げる。


「俺にばかり集中していいのかよ」


 パラディンゴブリンの背後からエルマーとディアが斬り掛かる。

 正面を向いたまま槍を後ろへ向けるパラディンゴブリン。次の瞬間、槍から白い稲妻が周囲に放たれる。


「くっ……」


 エルマーは魔法障壁を張ることで防御し、ディアは体勢を無理矢理崩すことで稲妻から逃れる。

 放たれた稲妻が天井を穿ったことで破片が落ちてきてディアの頭に当たる。


「二人の事じゃないぞ」


 ジェムの言葉の真意に気付いた時には遅い。

 トン、とパラディンゴブリンの胸に小さな手が押し当てる。


「【爆発(エクスプロージョン)】」


 ジリーの手から放たれた魔力が爆発を起こす。

 爆発の威力を最小限に抑え、方向すら指定した繊細な魔法。メリッサの場合は魔力で手を覆うことで爆発から身を守るが、ジリーの場合はそこまでの余裕がないため爆発そのものをどうにかしている。


「ふぅ」


 魔法を叩き込んだことで集中を切らしたジリーが息を吐く。


「もう大丈夫」


 爆発が起きた胸は粉々に砕け散り、下半身は遠くへと飛んでいる。

 そして、槍を持っていた右腕が千切れ、左腕と頭部のみとなった状態で地面に倒れながらジリーを睨み付けている。


「こんなものなの……?」

「いや、ここが地下10階なのを考えれば異常に強い」


 倒れたパラディンゴブリンの頭にエルマーとジェムの剣が突き刺さる。

 負傷させることなく倒されてしまったパラディンゴブリンだが、アルバたちですら犠牲者を出してどうにか倒せた、というレベルだ。普通の冒険者ではほとんどが何もできずに倒されてしまう。


「マルスさんたちならどうですか?」

「瞬殺」


 実際、シルビアはパラディンゴブリンが実体化してから2秒と経たずに斬り刻んでいる。

 彼女に任せるだけで瞬殺することができる。


「それはすごいですね」


 瞬殺という言葉を聞いて苦笑いするしかなかった。


「お前たちだって諦めずに鍛錬を続ければパラディンゴブリンを単独で倒すぐらいはできるようになるさ」

「そう、でしょうか?」

「少なくとも今は成長中なんだろ」


 成長期真っ只中と言っていい彼らのレベルは今も上がり続けている。


「まだ余裕はあるだろ。攻略は始まったばかりなんだから先へ進むぞ」

魔法が使えるゴブリンの騎士だって4人なら倒せる。

エルマーたちの戦い方も分かってきた。

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