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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第4話 依頼を先に受けていた者

 冒険者ギルドの扉を開く。

 時刻は昼過ぎ。ギルド内にいる冒険者の数が少ない時間で、今もギルドにいるのは依頼を受けるのとは別に用事がある者か、時間を持て余してダラダラしている者ぐらいだ。

 入口の近くで喋っていた男たち、ギルドに併設された酒場で酒を飲んでいた男たちが新たに入ってきた冒険者を見る為に顔を向ける。


「わぁ……!」

「おおおっ!」


 だが、普段から冒険者ギルドを利用する大人の目線の高さに向けられたのは一瞬だけ。

 すぐに聞こえてきた声に下へ顔を向ける。

 そこにいたのは荒くれ者の多い冒険者ギルドには似つかわしい小さな子供。

 多くの冒険者たちがシエラとリックを見ていた。


「ウチのとちがうね」

「うん!」


 二人ともアリスターの冒険者ギルドを訪れたことがある。

 辺境で狩るべき魔物がたくさんいるアリスターの冒険者ギルドは広く作られている。パレントの場合は半分ほどの広さしかないため好奇心旺盛な子供たちは初めて見る光景に引き寄せられてしまう。


 アイラが思わず前へ行ってしまう二人の襟首を掴んで止める。


「はぐれないようにね」

「「はーい」」


 アイラの両隣に立って手を繋ぐ。


「やっぱり置いて来た方がよかったんじゃないか?」

「ぶぅ!」

「きょうはいっしょにいるって、約束したよ」


 リックが頬を膨らませて不満を露わにし、シエラが約束を思い出させる。

 パレントへ里帰りするので、シエラやリックと1日一緒にいて見て回る約束をしていた。少なくとも夜までは一緒にいなければならない。

 いくら断り難い依頼が舞い込んだからといって約束を反故にするのはいけない。


「ちょっと話を聞く必要があるだけだから、大人しくしているんだぞ」

「わかってるよ」


 アイラの手を引いてシエラがスタスタと前へ進んで行く。


「こんにちわ」

「あら、かわいいお嬢さん」


 辿り着いたのは受付のいるカウンター。

 相手も声がカウンターの下から聞こえてきたことで、カウンターから乗り出して小さな女の子が声を掛けてきたことに気付いた。


「やっほ」

「アイラ!? すごい久し振りじゃない……!」


 対応してくれたのは俺やアイラと同年代の受付嬢――パレントにいた頃のアイラの友達であるマルセラさん。

 アイラの姿を認めたことでカウンター前にいる少女が何者なのか気付いたようで目を丸くする。


「え、もしかしてシエラちゃん……だっけ? あの子なの!?」

「うん」


 名前を呼ばれたことでシエラが反応する。


「お姉さんのこと覚えている?」

「……ごめんなさい」

「仕方ないわよ。あの時は、まだ赤ちゃんだったもの」


 以前に里帰りした際も冒険者ギルドを訪れてシエラを見せたことがあり、その時はマルセラさんを始めとした受付嬢の人たちに抱かれて揉みくちゃにされていた。


「で、こっちが……」

「りっくんです」

「……そう。リック君ね」

「うん」


 シエラとの短いやり取りでリックの名前に込められた色々な想いを汲み取った。

 だが、二人を見てそれよりも気になった事があるらしく顔を顰めていた。


「時間の流れを感じさせるわね。膝の上にいたシエラちゃんがこんなに大きくなって、弟まで生まれているんだから」

「あれから何年経っていると思っているのよ」

「そういうんじゃないわよ。同い年のアイラにこんなに大きな子供がいるのが羨ましいだけよ」


 仕事に追われて忙しいらしく子供を持つ予定が今のところないことに焦っていた。


「おねえさん」

「どうしたの?」

「おはなしをききにきました」

「……久し振りに顔を見せに来た訳じゃないのね」


 シエラに説明できるのはここまで。


「今、冒険者ギルドで他の街にいる冒険者まで呼ぶ事態が起こっていますね」

「どうして、それを……」

「あたしたちも領主代行から依頼されて受けることになったのよ」

「なるほど」


 もう大きな問題になっているらしく、事情を察したマルセラさんが手早く書類を用意する。

 依頼主は領主代行だが、冒険者を集めて依頼を引き受けてもらうのは冒険者ギルドに一任していた。そのため、受注の手続きはギルドで行う必要がある。


「はい、ここにサインをしてください」


 書類にサインをして冒険者カードを見せる。

 一応、パーティで依頼を受けるためサインとカードも俺の物だ。


「依頼の内容は『迷宮の調査』。早急に解決してくれることを期待しています」


 迷宮は、迷宮から得られる資源を頼りにしている街にとって非常に重要だ。

 その迷宮が使い物にならなくなっているとなれば早期の解決が望まれ、領主も報酬に大金を出している。


「パパッと終わらせたいところなんだけど……」

「聞き捨てならないな」


 アイラがマルセラさんに要望を言おうとしたところで後ろから声を掛けられた。

 子供連れで冒険者ギルドを訪れる冒険者、ということで珍しいものを見る目で見られていたが、声を掛けて来た者には敵意が満ちていた。


 振り向いた先には戦槌を背負った大男。それから大男に比べれば小柄に見えてしまう(それでも俺と同等)取り巻きのような4人の男。


「何か?」

「その依頼は俺たちの方が先に受けていたんだ」


 パレントにいた高ランクの冒険者、他の街から呼び寄せた冒険者がいるのは知っていた。

 だからこそ今後の事を打ち合わせする為にも冒険者ギルドを訪れた。


「ちょうどよかった。あまり調査の方は進んでいないみたいですね」

「あ!? 喧嘩売ってるのか?」


 そういう意図があった訳ではなかったのだが、男には挑発しているように聞こえてしまったらしい。


「こっちは地下20階まで進んでいるんだよ」

「そうなると半分ぐらいですか」

「あと、ちょっとの所まで来ているんだよ」

「ああ……」


 どうにも認識に齟齬があると思っていたら、一般的に知られているパレント迷宮の最下層は地下30階まで。地下31階以降へ行く為には隠された出口を見つける必要がある。

 どうやら地下30階が最下層だと本気で思っているらしい。


「この方はホヴァさんと言って、2年ほど前からパレントを拠点に活動してくれるようになった冒険者です。今回の騒動が起きる少し前からパレントで実質的なエースだったんです」


 マルセラさんがそっと教えてくれる。

 エースをしていた者が、拠点にしている街で起きた問題を解決できないどころか他の街にいる冒険者にまで頼ればプライドが傷付けられる。


 プライドを回復させる最も簡単な方法は、問題を自力で解決すること。

 そこへ新たな助っ人が現れれば平常心ではいられない。


「その割には昼間からギルドにいるみたいですよ」

「うるせぇ! 今日は装備を取りに来たんだよ」


 地下20階まで到達したのなら地下21階の光景を見たはず。

 それまでは山を下りて行く迷宮がいきなり荒野に姿を変えてしまう。おまけに出現する魔物も重量がありながら素早い魔物に変わる。地下20階までと同じ装備のままでは攻略は難しい。

 問題は、地下30階まででさえ10階層もあることだ。


「攻略までどれくらい時間が掛かりますか?」

「すぐだよ!」


 これは時間が掛かりそうだ。


「ホヴァさん。この依頼は人数制限が掛けられていません。彼らが依頼を受けるのは自由だし、パレント家から直接頼まれたなら断るのも問題です」

「チッ、それよりも俺が気に入らないのはそっちの女だ」

「あたし?」


 ホヴァの目がアイラへ向けられる。


「テメェの父親は10年以上も前に事件を起こした冒険者らしいな」

「それが?」


 マルセラさんの目が後ろにいる取り巻きの二人に向けられる。

 ホヴァは別の街出身ということだが、仲間はパレントの出身なのだろう。アイラと同年代の者なら事件について知っていてもおかしくない。


「そんな事件を起こした奴の娘が街で大きな顔をしているのが気に入らねぇ」

「あたしは大きな顔をしているつもりはないわよ。ここに帰って来たのだって数年振りだし、ちょっと無視できない報酬を提示されたから依頼を受けることにしただけだし」

「とにかく俺が攻略するのを見ていればいいんだよ」

「あのねぇ……」


 領主代行は早期の解決を望まれている。

 その意向に反するのはエースとして問題だ。


「チッ、もう一組の方も来やがったか」


 冒険者ギルドの奥にある部屋から4人組のパーティが姿を現す。

 他の街から呼ばれた冒険者だ。


「あ……」

「え、どうして?」


 彼らが近付いた瞬間、お互いに言葉を失ってしまった。

 どちらも、まさかいるとは思っていなかった。


「お久しぶりです」

「エルマー、どうしてここに……?」

超久し振りの登場。

という訳で、章タイトルもオープンさせます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 執事の理由は何となく察しがつくが…… 亡くなったアイラの父親が、ただの殺人鬼扱いされているのは不愉快だけれど、事情を理解していない相手から恨まれるのは仕方無いかねぇ……
[一言]  おお、だから『参観』なのか! これはやりづらい(笑)  絡んだ子連れ冒険者が他の街のAランク(実質はS)だと知っても、引かなさそうですね、ホヴァ氏。
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