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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第40章 冒険参観
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第1話 そっくりな親子

 街の大通りをシエラやリックと手を繋いだアイラと一緒に歩く。

 今日、眷属で一緒にいるのはアイラだけだ。ヴィルマが体調を崩し、イリスが看病で傍についていることになった。さらに寝込んだヴィルマを心配した他の姉妹が退屈そうにしていた。そんな子供たちの面倒をシルビアとノエルが引き受けており、メリッサは朝から妹のメリルから手伝いを頼まれて領主邸へ出向いていた。


 みんな、それぞれにやるべきことがある。

 たまたまアイラの手が空いていた……という訳ではなく、シエラをどうしても連れて行きたい場所があった。


「……なんだか見られているような気がする」


 不安になって小さく呟いた。

 周囲から晒される視線を不安に思っていたのはシエラだけでなくリックも同じだったらしく、視線を感じる方向に顔を向けて年配の男性から見られていることに気付くと姉の後ろに隠れてしまった。

 こんなことはアリスターではなかったから視線に恐怖を感じている。


「この子たちにとっては初めての遠出だからな」


 今いる場所は普段生活しているアリスターではない。

 アイラの故郷であるパレントだ。


「でも、こんな風に見られるなんておかしくない」

「そうだな。余所者を見る、というよりも信じられないものを見たっていう感じだな」


 依頼であちこちの街へ行くことがある。

 そういった時は見慣れない人を観察する目で見られる経験はある。


 だが、パレントで受けている視線は少し違う。


「思い出した。初めてパレントに来た時も似たような視線を受けていたな」

「あの時?」


 思い出すのはシエラが生まれたばかりで墓参りの為に訪れた時。

 アイラの父親は魔剣に支配されてしまった挙句に家族を惨殺し、さらに街に住む人々を斬る事件を起こしている。

 街の騎士や兵士、さらには同業者である冒険者の手によって殺されることでどうにか止まったが、それまでに多くの犠牲者を出していた。

 家族の中で唯一の生き残りであるアイラへ同情すると同時に、子供が相手であったため表には出さなかったが憎しみも込めていた。


 その事を子供ながらに感じていたアイラは家出をするようにパレントを飛び出した。

 当時の人々は、子供を相手に可哀想な事をしてしまったことを悔やんだ。

 そういった想いから帰郷したアイラに申し訳ない想いが籠もった視線を向けていた。


「でも、似ているだけであの時とは違っている気がするな」

「言われると……ん?」


 子供の歩く速度に合わせてゆっくり歩いているとコートの裾を引っ張られていることに気付いた。

 顔を下へ向ければシエラが引っ張っていた。


「おなか、すいた」

「そろそろお昼だもんな」


 それに子供にとって街をグルっと移動するのは疲れる。


「ちょうど着いたよ」


 子供二人を連れて訪れたのは大通りを少し奥へ入った場所にある店。


「いらっしゃい」


 忙しい時間まで少しあるため誰も客のいない店から女性が出てきて接客してくれる。


「おや、随分と珍しい客が来てくれたね」

「お久しぶりです」

「本当に久しぶりだよ。あの時に来てくれただけなんだからね」

「こっちも色々と忙しくて」


 パレントへ訪れるなら2、3日は時間を作る必要がある。

 しかし、育児や冒険者の仕事に追われているうちに時間を作ることができなかった。

 もっとも、本来なら数カ月単位で時間が必要になる。


「いいよ、気にしていないさ」


 おばさんは本来の時間しか知らないため気にしていない。


「あんたは変わらないけど、子供を見ると時間が経ったのを感じるね」


 次いでシエラの方へ向けられる。

 前に訪れた時はアイラに抱っこされていたシエラも自分の足で立って、おばさんのことを見上げている。


「シエラちゃんだね」

「わたしのこと、しってるの?」

「覚えていないかもしれないけど、前に来たことがあるんだよ」

「おぼえてない……」


 覚えていないことを恥じて顔を俯かせてしまう。


「さすがに赤ちゃんだったんだから仕方ないよ。で、こっちが……」


 これまで奇異の視線に晒されて、すっかり怯えてしまったリックがビクッと体を震わせてからシエラの後ろに隠れてしまう。

 店の中に入ったことで安堵して出てきていたのだが、また隠れてしまった。


「怖がらせちゃったかい? シエラちゃんの弟だね」

「うん……」


 大好きな姉が中心の話題が出たことでリックも顔を出す。


「お名前は?」

「りっくん」

「りっくん……? まさかリックって名前をつけた訳じゃないだろうね」


 おばさんの顔がアイラへ向けられる。


「そのまさか(・・・)よ」


 理由の分からないシエラとリックがコテンと首を傾げる。


「それは死んだ弟の名前だろうに」

「もちろん、そのつもりでつけたわ」

「この子は弟じゃないんだよ」

「うん。長く生きられなかった弟の分まで、息子には生きてほしい。そういう想いを込めてリックって名前をつけてあげたの」


 抱き上げてチュッと額に口づけをする。

 ただし、リックはお気に召さなかったようで口づけされたばかりの近くにあったアイラの顔を押していた。


「リック君」

「うん?」


 名前を呼ばれて小さく反応する。

 その様子を見ておばさんが納得していた。


「この調子なら街の連中が懐かしんでいたんじゃないかい?」

「懐かしい? たしかに見られていたのは感じていたけど……」

「この子を見てごらん」


 屈んでシエラの頭を撫でながら顔を見る。

 シエラも撫でられてくすぐったいのが気持ちいいのか、されるがままになっていた。


「昔のあんたにそっくりだよ」

「そりゃ、娘だからね」

「いや、昔の姿を知っている連中からしてみれば生き写しなんじゃないかっていうぐらいだよ」


 たしかに【未来観測】で見た未来のシエラの姿は、今のアイラと並べば瓜二つと思うほど似ていた。


「そこへ来てリック君だ」


 リックも自然とアイラの弟であるリックと似ている。

 そのため昔を知っている人にとっては、弟の手を引くアイラの昔の姿がはっきりと思い出されてしまうらしい。


 なるほど。奇異の視線を向けられていた理由が分かった。


「おなか、すいたよ」

「よし、美味しいものをご馳走してあげるよ」

「「わーい」」


 子供たちがテーブルへ向かう。

 二人とも大人用の椅子に自分では座れないため持ち上げて座らせてあげる。


「おまちどうさま」


 しばらくすると真っ白なシチューが運ばれてくる。


「おいしい」

「そうかい」


 我慢できずにスープを手にしてシチューを口に運んだシエラが満面の笑みを浮かべている光景におばさんも笑顔になっていた。

 リックはアイラの手で運ばれてくるシチューを大きく口を開けて食べている。


「最近、とくに変わったことはありませんでしたか?」

「変わったこと?」


 シチューを食べながらの質問におばさんが首を傾げながら思い出そうとしてくれる。


「とくに変わったことは……ああ、そういえば」

「何かあるんですか?」

「少し前から冒険者の姿が増えたね」

「冒険者が?」


 アリスターのように魔物の多い場所なら弱い魔物しか出現しない地域で自信をつけた冒険者が春になると同時に移動することはある。

 だが、パレント周辺は魔物の出現こそあるものの危険地帯という訳ではない。


「どうやらギルドの方で集めているようだよ」

「何かあったんでしょうか?」

「詳しい事までは分からないね」


 冒険者ギルドが秘密裏に冒険者を集めている。


「何か事件でも起こっているのかね。こっちは客が増えてくれたから嬉しいけど、また事件が起こったらいやだよ」

「この後の用事が片付いたら顔を出してみようと思います」

「いや、いいよ。なにかトラブルが起こっているなら自分たちで片付けるべきなんだ。帰郷しただけのあんたたちは巻き込まれる前に帰りな」

「そういう訳にはいきませんよ」


 過去に何があろうとパレントがアイラの故郷であることには変わりない。

 事情を知るぐらいの行動は起こすべきだ。


はい、アイラの故郷でトラブル発生です。

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[一言]  また、ヤツ(GならぬZ)が何かしていたのか・・・?
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