第28話 原初のタイタン-前-
イリスから自分も喚んでほしいと頼まれたため【召喚】で近くに喚び出す。
「ここは、例の洞窟?」
今いる場所は巨人族が避難していた洞窟。
奥の方では眠り続けている巨人族が横になっているが、起きる様子もないため放置している。
「そうだ」
イリス以外の全員が揃っている。
そもそもの依頼は『巨人の調査』だ。
「人々を襲っていたのは子供の巨人族だった」
リオール渓谷から自由に出て行くことができる子供たちが好奇心から人と接触した。
ただし、巨人族の見た目は魔物に思えてしまうので護衛が迂闊に刺激してしまった可能性がある。子供にとって最初の印象は重要になる。人間から襲われたことで恐怖を抱いて危険だと思われてしまったのかもしれない。
もっとも、今となっては何があったのか確認する方法はない。
ここで議論を続けていても意味はない。
「人を襲っていた巨人の正体、そして巨人族へ変化した理由も分かった」
ただし、原因までは分かっていない。
あの時のような魔力異常はそうそう起こらないと思っているが、それでも正確な原因を突き止めなければ安心できない。
そこで調査に乗り出すことになった。
「ま、あたしとノエルは全然手伝えなかったけどね」
調査を主に行っていたのはシルビアとメリッサ。
アイラとノエルは調査に集中した二人の護衛。巨人族がいなくなったことで魔物の数が増えていた。襲われた時には対処する人間が必要になる。
「ちゃんと出てくるじゃねぇか」
ちょうど洞窟にある岩の陰に人ほどのサイズがある蜥蜴の魔物が生まれたところで、捕食しようとこちらの様子を窺っていたので魔法の矢を射って仕留める。
「出てこないとは言っていない」
魔物の数が少ないだけ。
話によれば、こうして生まれる魔物の肉を喰らうことで巨人族は空腹を紛らわせていたらしい。
「あんまり美味しいものじゃないんだけどな」
「そんな贅沢を言っていられる状況じゃなかっただけ」
寝ている巨人族に手を合わせながら洞窟を奥へ進む。
「こちらです」
先導するメリッサが天井に開けられた穴へ入っていく。
「まさか開けたのか?」
「はい」
魔法を使えば土の壁に穴を開けるのも難しくない。
それにメリッサの魔法技術なら通路であっても作れる。
「崩れたらどうするんだよ」
「きちんと計算していますので平気ですよ」
「……そういう問題じゃないんだよな」
メリッサに続いて壁の内側へ移動する。通路は天井と壁を舗装されながら続いている。ただし、目的の場所までは迷っていたのか途中で曲がりくねっている場所が何箇所ある。
そうして辿り着いた場所は、ちょうど洞窟の大きな入口の近くなはずだ。
「何の骨だ?」
メリッサの掘削した道の行き止まりには人骨と思しき物が一部だけが地面から露出した状態で埋められていた。
ただし、普通の人間の骨ではない。
「巨人族の骨、だよな?」
どこの骨なのか一見しただけでは分からないが、骨1本だけで人間と同じくらいの大きさがある。相当大きな巨人族なのは間違いない。
洞窟内で生活していた巨人族の中には亡くなった者もいる。
そういった者の骨。そのように判断したのだが、メリッサの見解は全く違うものだった。
「最初は私も亡くなった方の骨だと思いました。なにせ骨は適当に捨てたと聞いていましたから」
屈強な肉体を手に入れても巨人族は普通の人間だった。
死体となった巨人族だが、放置していれば腐ってしまう。だからといって巨体を埋められるほどの穴を掘るのは重労働であるため、道具のなかった彼らでは埋葬してあげることもできなかった。
結局、飢えて渓谷をウロウロしていた魔物の餌とした。
そうして育ったところを生き残った巨人族が狩る。
骨は潰すなり、魔物に持ち帰らせていた。どこへ持ち帰られていたのか分からないため、魔物が埋めた可能性がある。
「シルビアさん、いったいどれだけの骨があります?」
「わたしの感覚で捉えられる大きさでいい?」
「もちろんです」
「それなら全長10メートルの巨人族が埋められている」
今回、巨人族になっていた者で最も大きいのは約8メートル。
若干ではあるものの最長の巨人を上回る。
「ここで見えているのは本当に一部です」
「もしかして昔の巨人族の骨か?」
以前にも巨人族がおり、亡びてからだったが調査した時の資料が残されていたから巨人族という答えに辿り着くことができた。
「はい、そうです」
「へぇ、現存していたんだな」
「それは違います」
感心しながら骨を眺めて口にした言葉を否定された。
「どういう意味だ?」
「思い出してみてください。リオール渓谷は当時の領主によって400年前に調査がされています。その時に、これだけ大きな骨を見つけられなかったはずがありません」
「それは、ここが壁の内側だからだろ」
普通の人では壁の内側まで調査するのは難しい。
なにせ巨人族の一撃にも耐えられてしまうほどの頑強な壁だ。
「そもそも私が掘削した時、すごく簡単だったのです」
「……何が言いたい?」
「まるで誰かが壁を削り出した後で巨人族の骨を置き、後から土を被せて塞いだような感じでした」
巨人族の骨を埋められるほどの広さを崩す。
非常に危険を伴う作業で、一朝一夕で行うことはできない。だが、作業に何日も掛けていれば誰かが見つけているはずだ。しかし、そんな報告は冒険者ギルドの資料になかったし、噂になっていなければおかしい。
「それから専門ではないので断定することはできませんが、まるで数年前に再現された骨のようでした」
巨人族の骨を埋められるほどの作業を誰にも見つからず短時間で行える者。
さらに失われたはずの骨を用意することができる者。
「迷宮主か」
もちろん俺たちではない。
ここ数年でそんな事をする人物に、たった一人だけ心当たりがある。
「ゼオンか」
「はい」
俺の呟きにメリッサが頷いた。
第39章以降は、だいだいゼオンのせいみたいなオチになります。