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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第25話 匍匐巨人 ⑤

「あんなことをしていたのか」


 巨人の左肘を蹴ると同時に爆発の魔法を叩き込むと円形に10メートル吹き飛ばす。

 だが、瞬く間に膨張した筋肉によって吹き飛んだ場所が塞がれてしまう。


 塞がれただけ。傷はそのままなので激痛で倒れてしまってもおかしくないが、巨人は気にした様子もなく前へ進んでいる。

 このまま攻撃を続けていても埒が明かない。


「けど、俺たちには巨人に取り込まれた人たちを見つけるなんて……ん?」


 攻撃を続けながら巨人を観察していると視界の端に巨人の絵が表示され、いくつかの場所に赤い点が浮かぶ。


『ここがわたしの見つけた取り込まれた人々がいる場所です』

「無事なのか?」

『はい。手が塞がっていますが、怪我はしていません』


 情報は共有することができる。

 それでも本人の口から無事だと知らされれば安心できた。


「で、俺たちはお前がやったのと同じことをすればいいのか?」

『お願いします。それで敵の攻撃を緩めることができます』

「ああ、任せろ」


 シルビアを洞窟から出すことはできる。

 しかし、触手の意識の大部分が割かれている状況は好都合だ。


「お前はそのまま耐えていろ」


 シルビアに指示を飛ばすと、飛んできた触手を回避して左手の親指の付け根を神剣で斬る。

 あらゆる物を斬ることができる神剣は難なく付け根の肉を切り飛ばす。


「……本当にいたよ」


 蠢いていた肉を払うと巨人の姿があることに気付いた。

 斬り飛ばした場所から触手が飛び出して、奪われた巨人族を取り返そうとする。

 このまま抱えていたのでは、戦闘を継続することができない。かと言って放置するような真似をすれば巨人に奪われることになる。それでは意味がない。


「メリッサ!」


 右側を飛んでいたメリッサに向かって巨人を投げ付ける。

 巨人の触手も予想していなかった突然の事態に目の前を通り過ぎる巨人族に対処することができない。


 投げ付けられた巨人をキャッチするメリッサ。


「拾い物は元の場所へ戻せ」

「随分な扱いですね」

「これだけ迷惑を掛けられているんだから少し雑に扱うぐらいはいいだろ」

「まあ、いいでしょう」


 メリッサの掴んでいた巨人族がフッと消失する。

 【空間魔法】によって住処としていた洞窟へ転送させられた。


「移動が楽になるようポイントを設定しておいてよかったですね」


 メリッサの【空間魔法】で移動できる先は『一度行ったことのある場所』。

 ただし、どこへでも簡単に行ける訳ではなく、移動先の状態を強くイメージできる必要があり、現在の状態と変わっているだけでも失敗してしまう。

 だから移動先は簡単には変わらない人里から離れた場所が最有力候補になる。


 さらに座標をあらかじめ指定しておくことで消費魔力を抑えることができる。


「残り70人以上ですか。移動に専念する必要がありますね」

「削るのは俺とアイラ、それにノエルでやる」

「大丈夫ですか?」

「問題ないだろ。削れば削るほど敵の攻勢は少なくなる。多少は頑張るさ」


 念話で確認したところアイラとノエルからも了承が得られた。


「さ、反撃といこうか」



 ☆ ☆ ☆



「――これで70人目!」


 アイラの剣によって斬られた肉塊。

 70人目を救い出したことで地図に表示された反応は残り一人となった。


「……おい、人数が合わないぞ」


 最初は気付かなかったが数人足りない。

 さすがに残りが一人となれば気付く。


『お忘れですか? 残りの者は、巨人族になってから生まれて子供たちです』

「一緒に始末しろ、って言うのか?」

『そうではありません。あの子たちは、暴走している子供に同調して自ら暴走することを選んでいるんだと思います。だから、気配を捉えることができないんです』


 シルビアが捉えていたのは後悔や状況に対する不満による強い感情。

 だからこそ、子を思う母親の反応と代表者の自責の念を捉えることができた。

 だが、自分から望んで暴走していては巨人の気配に隠れてしまう。


『方針に変更は?』

「ない」

『では、わたしたちの責任で対処してしまった方がいいでしょう』

「……それしかないか」


 何か方法があるなら試したかった。

 だが、囚われている人々を救い出している間に時間が経ってしまった。そんな我が侭を言っていられる時間はない。


 巨人の額の先へ移動する。

 膨張した肉に埋もれてしまっているが、薄らと開いた目が中央にいる俺へ向けられる。


「ちょっと痺れていてもらおうか」


 【落雷(フォールサンダー)】によって頭上に発生させた雨雲から雷を落とす。

 雷の直撃を受けた巨人の目が眩む。だが、動きが遅くなった様子は見られない。


「それなら、それでかまわないさ」


 俺の役割は巨人の注意を惹くこと。

 本命は谷底へ移動したメリッサ。


『今、最後の71人目を移動させました。もう邪魔されることもありません』


 触手は蠢き続けているが、先ほどまでのような勢いと精彩さはない。

 残されたのは暴れている子供だけ。色々な事を考えられるだけの知性が残されていない。


『なので――残った魔力を攻撃に使います!』


 メリッサの手から放たれた炎が巨人の膝から下を飲み込んで溶かしてしまう。

 足を失った巨人。そのまま燃え続けている炎のある地面へ倒れ込むと体を焼いてしまう。


 燃え盛る炎は膨張した肉によって消され、溶かされた足もすぐさま肉が埋め尽くしてしまう。

 だが、転倒してしまった体は簡単に持ち上がらない。

 とくに膨張した上半身が渓谷を埋め尽くしてしまい、内側から押し壊そうとしているが簡単にはいかない。けれども、放置すれば膨張を続ける肉によって壊されてしまう。


「さ、状況は作り上げたぞ」

「ありがとう」


 倒れた巨人が両手を使って起き上がろうとしている――ハイハイのような状態になった巨人の前にイリスが立つ。

 蒼く輝く剣を手にしており、魔力が強く練り込まれている。


「私の事を相当恨んでいるようだな」


 巨人の口から呻き声が発せられる。

 同時に倒れた体の背中から触手が何十本と飛び出してイリスを狙おうとする。


「やらせるかよ」


 しかし、渓谷の上の方を俺とメリッサの生み出した炎が覆い尽くし、触手は自分から炎の中に飛び込んでいくことになる。

 イリスの邪魔をさせる訳にはいかない。

 ただし、程々にしておかないとイリスの言葉が届かない。


「悪い事をしたらいけないって教わらなかった?」

「……」

「自分から望んだ大きさじゃないかもしれない。けど、そんなに大きな体で向こうへ行ったらペシャンコになっちゃう。あなたがしていることは悪いことなの」


 子供に諭すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

 そうしながら足を進めて近付くと巨人の心に恐怖が刻み込まれる。


「子供なんだから大目に見てあげたい。けど、子供だからと言って許せる範囲があるのに、それを逸脱するのは許す訳にはいかない」


 ずっとイリスに対して怒りを向けていた巨人の目に恐怖が浮かぶ。

 子供だからこそ些細な事で怒りを抱き、子供だからこそ恐怖に強く怯えてしまう。


「来世は、もっと幸せになれることを祈っている」


 イリスの振り下ろした剣から放たれた斬撃が巨人の頭を割る。

ようやく決着ですよ。

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