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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第23話 匍匐巨人 ③

 魔力を叩き込むことで、鎧や肉体の内側へ衝撃を発生させる【魔導衝波】。

 使い方次第では爆発にも似た衝撃を発生させることも可能で、肉の鎧を吹き飛ばすこともできる。


「ない!」


 巨人の左胸を中心に直系10メートル、厚さ3メートルの肉が吹き飛ばされる。

 普通の人間なら粉々に吹き飛ばされてしまうほどの攻撃をした。しかし、その程度の大きさは巨人にとって些細な範囲でしかない。


 なにより吹き飛ばした場所に心臓が見当たらない。

 人間と同じ構造、それから今朝の戦闘の経験から巨人でも左胸に心臓がある可能性は高い。しかし、吹き飛ばした場所には臓器らしい物すら見当たらない。


『ジャマ!』

「……!?」


 吹き飛ばして陥没した胸。

 そこから盛り上がった筋肉が無秩序に飛び出してくる。


「おいおい……もう人の手の形すらしていないぞ」


 先端の丸まった筋肉による触手。

 巨人の敵意は向けられている。だが、多くがイリスへと向いており、巨人自身の意識は俺に向いていない。


「やっぱり別の意思が働いているな」


 無数とも思えるほどの触手が押し寄せる。

 手を翳して【迷宮結界】を発動させると受け止める。


「……っ、さすがに量が多いな」


 直径10メートルの範囲から飛び出してきた触手は、成人男性の体であっても簡単に飲み込めるだけの量がある。

 そんな物に正面から結界が押し込まれる。


 結界そのものが破壊されることはないが、足場のない空中で耐えることができないため押される。

 ただし、結界を解除した瞬間に飲み込まれる。肉体的なダメージはないだろうけども、筋肉の塊に飲み込まれてしまった時の精神的ダメージが計り知れない。


「という訳で、こっちは任せたぞ」


 空中を跳んだアイラの剣が触手を切断する。


「一人で突っ走らない!」


 【空間魔法】で近くの上空まで移動したメリッサに連れられたアイラ。

 空を飛ぶことができないアイラに移動させたのでは間に合わないためメリッサに放り投げられた。

 おかげで間に合った。

 だが、その鬱憤を俺に押し付けられている。


「仕方ないだろ。眷属の視界を借りて跳ぶのは俺しかできないし、俺だけしか跳ぶことができないんだから」


 今のところは単身での移動にしかできなかった。

 それでも移動先で【召喚】を使用すればいいだけだったため困らなかった。


「げっ!?」


 アイラに斬られたことで迫っていた触手は動きを止める。

 しかし、巨人の体を根元にして飛び出してきた触手が元々飛び出していた触手を追いやるようにして飛び出してくる。


「足場ちょうだい!」


 アイラの為に【迷宮結界】を足場代わりにして立てるようにする。

 魔力節約の為に結界の大きさは人間一人分を守れる程度。動き回れるほどの広さはない。


「……ふっ」


 けれども、アイラは結界の上から1歩も動くことなく剣を振り回して触手を斬っていく。

 それでも触手に諦める様子はない。


「メリッサ、まだ!? あたしも疲れてきたんだけど」


 顔は正面から迫る触手に固定したまま。

 そんな状態でありながら声は遥か上空にいるメリッサへ向けられている。


「ということだけど……?」

『私も位置の特定に至っておりません。それでも魔法の準備はできておりますから一度攻撃してみましょうか』


 巨人よりも遥か高い位置で浮いたまま静止したメリッサの頭上に巨大な炎の球体が生まれる。


「【劫火日輪光(フレイムサンブライト)】」


 メリッサの生み出した巨大な炎の球体が巨人に向かって落とされる。

 巨人の頭よりも大きな球体。イリスのいる場所へ進むことしか考えていない巨人は、頭上から迫る炎球を気にすることもなく受け止めて上半身が飲み込まれる。


「これは……少し予想外ですね」


 頭部を飲み込み、胸すら融かして灼き尽くす炎球。

 既に上半身の半分が焼失し、左右の腕もギリギリ繋がっているような状態。


 ……そんな状態にあっても、巨人は歩みを止めない。


「俺の見間違いでなければ心臓があるはずの場所も溶けているよな?」

『間違いなくなくなっています』


 それでも巨人の鼓動の音が聞こえてくるような錯覚を覚える。


「イリスは下がっていろ!」

『そんな……私も戦う! 魔力なら、ある程度は回復している』


 魔力回復薬も服用していたため戦闘に支障がない程度には回復している。


「奴を攻略する手段が思い付かない……お前の役割は巨人を引き付けて変な動きをさせないことだ」


 巨人であっても生物であるなら弱点であるはずの急所。

 心臓が別の場所にあるのならいいが、燃えている状態でも動きを止めないと言うのなら別の方法を考える必要がある。


「ですが、のんびりと考えていられるような時間はありませんよ」


 思ったほどの効果がないと知ってメリッサも俺の近くまで飛んでくる。

 今もイリスに向かって移動を続けている巨人。このままモンストンのある方向へ誘き寄せる。


「奴を渓谷から出したくない。あいつに理性が少しでも残っているから横に膨れるのを抑えられているんだ」


 今にも渓谷を内側から溢れ出て壊してしまいそうな巨人。

 だが、渓谷を超えるほどに膨れてしまえば移動できなくなることを理解しているから、本能で膨張を限界で抑えている。


 もっとも、上への膨張は今も続けられている。

 最初は50メートル程度しか飛び出していなかった上半身が80メートル以上は飛び出している。

 さらに渓谷という制限のなくなった上半身は横へも膨張を続けている。


 今の巨体なら手を地面について体を持ち上げるだけで深い渓谷を飛び出すこともできる。それをしないのは、イリスが正面におり、前にしか進むことを考えていないためだ。

 イリスが囮になっている内は渓谷から飛び出すことはない。

 ただし、リオール渓谷はいつまでも続かない。


 唯一の救いは筋肉の膨張は別にして、巨人の移動が非常に緩慢なこと。たった1歩を踏み出すのに1分近い時間を要している。

 だが、大きいが故に1歩が大きい。

 たった1歩で800メートルは移動している。


「渓谷は約5キロしか続かないんだ。ゴールまで1時間も掛からずに到着するぞ」


 イリスが正面から姿を消せば人の多い街が襲われる可能性がある。

 せっかく復興したばかりの都市なのだから簡単に壊される訳にはいかない。


「少しでも遅らせる必要がある!」


 燃やし尽くされた断面から盛り上がった筋肉が炎を逆に飲み込んでしまうと、炎が瞬く間に消されてしまう。

 圧倒的な質量のせいで燃やすことができていない。


「下半身が疎かだぞ」


 太ももに【魔導衝波】を叩き込む。

 メリッサも【劫火日輪光】ほどではないが、炎の魔法を浴びせて焼く。


『ギィィィィィィィィィ!』


 しかし、消し飛ばした場所から飛び出してきた触手によって押し返される。


「シルビア、ノエル……二人も手伝え!」

「もうやっている」


 渓谷を駆ける雷獣の背に乗ったノエルが縦横無尽に電撃を放つ。

 電撃に灼かれた触手がボロボロと落ちていく。

 だが、こちらが破壊する速度よりも巨人の膨張する速度の方が速い。


「メリッサ、もっとデカい【劫火日輪光】はできないのか!?」

「可能ではあります」


 触手を焼きながらメリッサに尋ねる。


「ただし、その為には先ほど以上の時間が必要になります」

「どれくらいだ?」

「……10分ください」

「問題ない!」


 近くで迫る触手を斬っていたアイラをメリッサの護衛に派遣する。

 今から10分は集中するため迎撃ができなくなる。


 俺とノエル、シルビアで進行を抑える必要がある。


「……って、あいつはどこに行った?」


 シルビアの姿を先ほどから見ていない。


「シルビアなら、さっき気になることがあるって言ってどこかへ行ったけど」

「あいつ……」


 二人で止めなくてはならなくなった。


「いいの?」

「自由にさせろ。気になる物を見つけたからと言って簡単に離れるような奴じゃない。きっと他の何よりも優先させるべき物なんだろ」


巨大生物対処法

急所への攻撃……が失敗してしまったので全身を一気に灼き尽くす作戦に変更。

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