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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第39章 巨人叫喚
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第22話 匍匐巨人 ②

 イリスが外壁から飛び下りる。

 すると、巨人の目線も僅かながら下がる。どうやらイリスを狙っているのは間違いないようだ。


 リオール渓谷へ向かって駆ける。

 巨人にも自分へ向かって駆けているのが分かる。それでも我慢できなくなった子供が歩み始めていた。


「う、うわあああぁぁぁぁ!」

「逃げろっ!!」

「俺たちの攻撃じゃあ通用しない!?」


 リオール渓谷の近くに偶然いて、巨人に攻撃していた人たちが慌てて逃げる。

 普通の人間ではあり得ないサイズ。魔物と戦い慣れている冒険者は、未知の魔物が現れたと勘違いして狩ろうとしていた。しかし、彼らの攻撃では僅かな範囲を攻撃するだけだ。

 それでは巨人の再生に追いついていない。


「いや、『再生』じゃないな」


 火属性の魔法によって焼かれた腕を見てみると、焼かれた場所の下から盛り上がってきた肉によって焼かれた場所が埋もれてしまっている。

 つまり、焼かれた部分は負傷したまま、ということだ。


「ひぃ!?」


 弓で攻撃していた男が恐怖から尻もちをついてしまう。

 そこへ巨人の手が迫る。赤ん坊の巨人は地上よりも高い位置に手があることから地面に手をついて体を支えながら前へ進んでいる。


 巨人は自分がつこうとしている先に人がいることにすら気付いていない。

 自身の体重の何百倍もある手。そんな物が上から降って来たなら人間の体など簡単にペシャンコになってしまう。


 ――ドォン!!!


 地面につく10メートル手前、巨人の手で爆発が起こり動きが止まる。


「あなたは……?」

「潰されたくなければ離れた場所まで避難してください。まだリオール渓谷からは出ないみたいですから、ここから離れることを優先させてください」

「は、はい……!」


 倒れた冒険者の前に立って助けたのはシルビア。

 収納リングに入っていた爆弾を投げ付けることで巨人の腕を防いだ。


『ただし、数がある訳ではないので早くしてください。わたしの攻撃力では巨人を相手にするには不足です』


 両手に短剣を構えて魔力を流す。

 シルビアが手にしている短剣は魔力を流すことによって魔力による刃を生み出せるようになる短剣。

 跳んで爆破した腕の上に着地すると、伸ばした魔力の刃を腕に突き刺す。


『イ、イ゛イ゛イ゛……!』


 濁った悲鳴が響き渡る。

 耳に不快感を抱きながら腕に魔力の刃を突き刺したまま駆け上がると、シルビアの走った場所に鮮血が溢れる。

 その血が子供の物だと思うと気分が悪くなる。


「もう人間だと思わない方がいいみたいです」

「そう、みたいだな」


 数秒だけ血が溢れるものの、すぐに出なくなってしまう。

 持ち上がった筋肉がシルビアの斬った場所を塞いでしまうためだ。


「ダメ……」


 シルビアの攻撃に悲鳴は上げる。

 しかし、前――イリスへ向かって進む歩みを止める気が全く現れない。


「注意を惹いて足を止めようと思ったけど、全然通用しない……わっ!?」


 顔のある方へ向かって駆けていたシルビアが急に振り落とされる。

 【飛天脚】のスキルを持つシルビアは空中を蹴ることで疑似的に飛ぶことが可能だ。それと同じ要領で急斜面どころか垂直の壁を駆け上ることもできる。

 しかし急斜面ではあるものの、足場のしっかりとした道を走っている最中、急に足場が歪んでしまうようなことがあればバランスを崩してしまう。


 高所から振り下ろされたシルビア。

 イリスにしか興味のない巨人はシルビアの方を見ることすらしない。

 けれども、盛り上がった腕の筋肉は自分を斬っていたシルビアを無視できない。


「なに……?」


 巨人の腕から飛び出してくる小さな手。

 小さい、と言っても人間を簡単に掴めてしまう大きさがある。

 異形の腕が左右10本ずつで20本。シルビアへと狙いを定めている。


「……このっ!」


 一斉に放たれた腕を伸ばした短剣で2本斬り飛ばす。

 鮮血を撒き散らしながら2本の腕が遠くへ飛んでいく。腕自体の強度は低いみたいでシルビアの攻撃でも斬り飛ばすことができる。

 だが、数が多い。


「この程度の攻撃で対処できるなら問題ない!」


 収納リングから短剣を新たに6本取り出す。

 空中で放り出された短剣は本来ならそのまま地面へと落ちていくだけ。だが、シルビアのスキルによってピタリと止まる。

 【虚空の手】。見えない手を生み出すことによって短剣を掴むと、合計8本の短剣で腕を斬り裂いていく。


「……足りない!」


 一度にシルビアが操作できる【虚空の手】は今のところ6本が限界。

 8本の短剣では全てをさばけ切れずに4本の腕が襲い掛かる。


「まったく……無茶しないで」


 帯電した錫杖を手にしたノエルが伸ばされた腕の1本に叩き付ける。

 爆発するように拡散した電撃が他の腕も焼き尽くし、シルビアへと迫っていた攻撃が止む。


「ありがとう」


 お礼を言いながら落ちていたシルビアの体が断崖を駆けていた雷獣の背に受け止められる。


「あなたも助けに来てくれてありがとう」

『気にするな。迷宮の魔物として当然の事をしたまでだ』


 シルビアを背に乗せたまま駆けてノエルも回収すると警告内から脱出して地上へと戻る。


『どうやら学習しているようだ』


 巨人の腕は前へ向かって歩く巨人を支える為に地面につけられている。

 しかし、新たに盛り上がって異様に形を変えた腕が近くにいる人たちへ狙いを定めて伸びていく。


「助けてくれぇぇぇ!」


 今も一人の冒険者が小さな腕に腰を掴まれて巨人の元へと引き寄せられている。


「ごめん」


 雷獣の背を蹴るとシルビアが冒険者を掴んでいる腕まで跳ぶ。


 ――斬。


 撫でるように刃を動かすと腕が斬り落とされる。


「あ、ありがとう……!」

「早く逃げてください!」


 空中で身動きが取れないはずのシルビアへ向かって8本の腕が飛び交う。

 腕の動きを見切って、動けないはずの空中で飛び跳ねると腕の攻撃を掻い潜って着地する。


「だから無茶は……」

「無茶をしているつもりはない。それでも、頑張って助けられる命があるなら助けるべきだって思っている」

「……そうだね。頑張れる範囲で頑張ってみようか」


 その時、負傷した場所だけだった筋肉の蠢きが巨人の体の至る所で発生する。

 蠢きに合わせて巨人の体が大きくなっていっている。


『いったん攻撃を止めろ』

『どうして、ですか!?』

『今でさえ困難な大きさなんだ。これ以上、大きくなられると難しくなるかもしれないからだ』


 まだ特定はできていない。

 それでも動かない訳にはいかなくなってしまった。


「やっぱり今も膨張を続けているみたいだ」

「あれが『進化』とでも言うのですか?」


 ボリスさんが小さく呟く。

 遠くにいる巨人の姿は非常に歪で、とても人間の進化した姿とは思えない。


「暴走しているんでしょう」

「なるほど。自分でも手がつけられないのですか?」

「少し違います。ゼグドの言葉が正しいなら赤ん坊同然です。年齢を考えるなら制御なんてできるはずがない。それでも他の巨人族と似た姿をしていたのは、『自分がこの人の子供だ』という認識があったからです」


 洞窟内で何があったのか分からない。

 それでも可能性の一つとして子供を捨てたのは十分に考えられる。

 親から捨てられた子供が『この人の子供じゃない』と認識した結果、箍が外れてしまった。


「まさか、俺たちとの遭遇がこんな結果を招くことになるなんて」


 全ての人にとっての希望など存在しない。


「ちょっと大雑把な攻略方法ですけど、今から倒します」


 タイミングのいいことにイリスが到着した。

 見える場所への空間移動が可能な【跳躍(ジャンプ)】を利用すれば10キロ程度は簡単に移動することができる。


 憎む相手が現れたことで巨人の動きが止まって胸を反らす。

 真正面から睨み合って対峙するイリスと巨人。


「ベストタイミングだ」


 イリスの視界を借りて【跳躍】する。

 移動先は巨人の左胸。


「全部吹き飛べ――【魔導衝波】」


 巨人の左胸が吹き飛ぶ。


タイトルでも分かるように次話でも終わりませんでした。

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